第2話 世界は、値段をつければ静かになる
迷った。
たぶん、普通に迷った。
山道は、分かれ道が多い。
看板はない。
誰もいない。
フィアネは、立ち止まって空を見上げた。
(……これ、帰り道どっちだっけ (´・ω・`))
後ろでは、二人の従者が静かに立っている。
エレハンドロと、ヨハム。
二人とも、何も言わない。
聞いてもいないのに助言をしないし、
間違っても「こちらです」などとは言わない。
そういう契約だった。
守る。
死なせない。
それ以外は、干渉しない。
「……ねえ」
フィアネが振り返る。
「わたし、迷ってるよね?」
エレハンドロは一瞬だけ目を伏せ、
ヨハムは周囲を見回してから答えた。
「はい」
即答だった。
(ですよねー (;´Д`))
フィアネは、背中のランドセルを下ろし、
地面にそっと置いた。
ごつい。
明らかに、この世界の物じゃない。
だが、これがなければ生きていけない。
フィアネは、意識を集中する。
――ヒュン。
視界の端に、
半透明の画面が浮かび上がった。
《現在所持金》
726,900 円
前世から持ち越した、
唯一の“確かなもの”。
(減ってない……よし ( ˘ω˘ ))
次に、検索。
《周辺検索》
・山道
・街道(遠)
・居住反応:微弱
「……微弱?」
エレハンドロが、わずかに眉を動かした。
「反応がある、ということですか」
「うん。たぶん」
ヨハムが、短く付け加える。
「人ですか?」
フィアネは首を振った。
「分かんない。
でも……お店じゃないのは確か」
(お店だったら値段出るし (´・ω・`))
フィアネは立ち上がった。
迷子だ。
でも、焦ってはいない。
焦っても、値段は下がらない。
⸻
フィアネは、幼い頃から知っていた。
世界には、
「理由をつけてもらえない人間」がいる。
期待されない。
叱られない。
褒められない。
その代わり、
何も与えられない。
祖母は、
「生きなさい」とだけ言った。
生き方は、教えなかった。
父は、
そもそも何も言わなかった。
だからフィアネは、
自分で基準を決めた。
――値段。
値段だけは、
嘘をつかない。
(40円は40円。
それ以上でも、それ以下でもない)
それでいい。
分かりやすい世界の方が、
生きやすい。
⸻
しばらく歩くと、
霧の向こうに、小さな小屋が見えた。
山の麓。
街道から外れた場所。
(……え? (;・∀・))
こんなところに、人?
エレハンドロが一歩前に出る。
「確認しますか」
フィアネは、少し考えた。
値段表示は、出ない。
でも、人の気配はある。
(……迷子だし (´・ω・`)
聞くだけなら、タダだし)
「……行こ」
三人は、静かに近づいた。
小屋の前で、
斧を持った女が立っていた。
白に近い淡い髪。
風に揺れるマント。
視線は冷静で、感情が読めない。
――魔女。
フィアネは、そう思った。
でも、怖くはなかった。
(値段ついてないし ( ˘ω˘ ))
目が合った。
一瞬だけ、空気が止まる。
フィアネは、慌てて頭を下げた。
「あの……」
声が少し震える。
「迷いました」
嘘は言っていない。
女――イルビアスは、
斧を地面に下ろした。
「……何の用だ」
短い。
拒絶も、歓迎もない。
フィアネは、ランドセルの紐をぎゅっと握った。
(ここで変なこと言うと、
値段が跳ね上がる気がする…… (;´Д`))
「道、教えてもらえたら……」
言い終わる前に、
イルビアスの視線が、ランドセルに向いた。
ほんの一瞬。
だが、確かに見た。
「……それは?」
フィアネは、少し迷ってから答えた。
「買い物袋です」
沈黙。
エレハンドロとヨハムが、
無言で一歩下がる。
イルビアスは、
何かを測るようにフィアネを見た。
「……食事は?」
唐突だった。
フィアネは、目を瞬いた。
「え?」
「していないなら、湯がある」
施し。
そう聞こえた。
フィアネは、一瞬だけ考えてから、
首を振った。
「いえ。
……自分で、買います」
そう言って、
画面を呼び出す。
《検索》
・揚げ物
・惣菜
・松屋(異界)
「……?」
イルビアスが、眉を寄せる。
フィアネは、指を動かした。
《牛めし 並》
380円
(よし (`・ω・´))
――ヒュン。
ランドセルの中に、
温かい包みが現れた。
湯気。
匂い。
フィアネは、それを二つに分け、
紙包みを差し出した。
「よかったら……どうぞ」
イルビアスは、少しだけ躊躇ってから、受け取った。
一口。
次の瞬間、
彼女の目が、わずかに見開かれた。
「……これは……」
「牛めしです」
フィアネは、ちょっとだけ胸を張る。
「ご飯に、牛肉と玉ねぎ。
タレは甘辛で……」
イルビアスは、もう一口食べた。
「……美味い」
ぽつりと。
「三千年、生きてきたが……
こんなものは、初めてだ」
声が、少しだけ震えていた。
フィアネは、なぜか嬉しくなった。
(……勝ち ( ˘ω˘ ))
迷子が二人。
でも、不思議と焦りはなかった。
夜は、静かだった。
⸻
後書き
ここまでで:
* フィアネの価値観
* 顔文字テンポ
* 従者の立ち位置
* イルビアスの「降りない」姿勢
全部入っています。
次は→
* 第3話:イルビアス視点での“違和感”
* フィアネがコロッケを出す完全日常回




