第五話 破滅への布石
見慣れた天井。鼻腔をくすぐる薔薇の匂い。柔らかなベッドの感触。
「ループ成功…でしょうか」
きっと今は入学式の日の朝だろう。エトワールはベッドから立ち上がり、椅子へと腰掛けた。
――ループの条件、それはきっと死ぬことか破滅することでしょう
ループの回数制限は不明だが、得た情報は十分だった。
エトワールは満足気に小さく息をついた。
唇には、僅かな愉悦が滲んでいる。
「ループはこれで三回目…そろそろもう少し、刺激的な破滅をしたくなってきましたわ…」
彼女は一度、大掛かりな作戦を実行することにした。未来のことを考えて、思わず笑みが溢れてしまった。
身支度を済ませ、学校の入学式に向かう。本来なら馬車で向かうところだが今回のルートは全員との仲を深めたいため、徒歩で向かうことに決めた。
「ごきげんよう……あら、ごきげんよう…」
すれ違う人達に、優しく柔らかな笑みをみせる。その一つ一つが好印象を稼いでいく。王子達の演説でもいちばん長く拍手をし、印象にできる限り残すようにした。
入学式が終わり、自身のクラスが発表された。そこには見覚えのあるメンバーが固められていた。やはり基盤はゲームのため、そこは崩れることはないようだ。
「皆様、ごきげんよう」
扉をあけ、中にいる皆に挨拶をする。人は第一印象が重要。少しでも良い人に感じさせる。エトワールは有名な貴族ではない。元々の噂で怪しまれる…ということはなかった。
「こんにちは…エトワール様…」
一番に話しかけてくれたのは、セレナだった。だが、セレナの表情からは、色々な感情が混ざっているように見えた。
――恐怖。親愛。困惑。
「あら、ワタクシの名前を知ってくれてるの?嬉しいわ。ありがとう。あなたの名前は?」
セレナの表情から、恐怖と困惑が消え、安堵が増えたように見えた。
「わ、私、セレナ・ティモーラ・ラインです!エトワール様!仲良くしましょうね!」
「ふふっ。様なんて、普通に呼んでくれればいいわ。セレナ」
セレナの表情が、パッと明るくなり太陽のような笑顔をした。
「うん!よろしくね!エトワール!」
セレナとの関係は良好。この調子で行けば、順調に作戦を進められるだろう。
まずは全員からの信用を得る。
そのうえで、敵国に情報などを渡す。
そして、わざと自分とわかる証拠を残し裏切り者となる。
裏切り者として、華麗に破滅する。
――なんて胸の踊る破滅…
「やあお二人。初めまして。私は第一王子のアルフレッド」
エトワールから話しかけるまでもなく、王子から話しかけてきた。
「初めまして。ワタクシ、エトワールと申します。先程の演説、とても感動いたしました。こちらはセレナですわ」
「セレナ・ティモーラ・ラインと申します。これからよろしくお願いします」
「ははっ、そこまで大層なものじゃないよ。私はただ、自分の思いを伝えようとしただけさ。兎に角二人ともよろしく。クラスメイトとして仲良くしよう」
そのまま王子二人も合流し、仲を深めあった。
学校が終わり、エトワールが家に帰宅した。家に帰ると、四人の召使いが出迎えてくれた。
「エトワール様、お帰りなさいませ。お夕飯が出来上がっております」
「わかったわ、それじゃ一度部屋で着替えるから、少し待ってなさい」
「かしこまりました」
エトワールには生まれた時から親がおらず、昔から召使い達に世話をされていた。中身が入れ替わっても、特に何も言われていないため、元々家では高圧的な態度をとっていないようだ。
「もしくは…」
――それほど興味を持たれていないのか…
まあ別にどちらでもよい。今後のことにはあまり関係ないのだから。
今はただ、クラスメイトとの関係を良くすることに集中すればよい。
全ては、破滅へ至る布石なのだから




