第四話 サプライズプレゼント
エトワール・ラスティーニャは、ベッドの上で天井を見つめていた。
時々、彼女は自分を疑う。
なぜ、私はここまで破滅に執着しているのか。
前世の私は、ハッピーエンドを好み、バットエンドを嫌っていたはずだ。
それなのに……。
――この身体が、破滅を求めている
浅井瑠奈とエトワール・ラスティーニャが、ゆっくりと、確実に混ざり合っている。
エトワールは誰とも馴れ合わず、ただセレナの邪魔をしていた。
その理由は永遠の謎とされていたが、今の彼女には何となく理解できた。
――破滅したかったのだ
それでも、彼女は静かに受け入れた。
「私が幸せなら……なんでも良いでしょう」
小さく呟き、優雅に微笑む。
その笑みは冷たく、しかしどこか甘い狂気を帯びていた。
「私は……自由に、優雅に……」
固い意志を込めて、彼女は宣言した。
「破滅いたします」
ベッドから起き上がり、机に向かう。
ノートを開き、初めての自作ルートをまとめ始めた。
――せっかくなら、ド派手にいきたいですわよね
学園を巻き込み、王子全員を依存させ、最後に何もかもを裏切る。
いくつもの案の中から、彼女は一つを選んだ。
「名付けて……『忘れられない思い出』」
この作戦はリスクがかなり大きいが、成功すれば、このループの条件などを暴ける可能性のある。もしも失敗しても、エトワールにとっては破滅しながらそのまま生涯を終えれるのだ。どちらでも、エトワールにとっては得しかなかった。
入学式の講堂。
国王候補の三人の王子が演説をしている最中、エトワールはタイミングを伺うように、椅子に腰掛けていた。
――注目はすべて王子たちに向けられている。他の者の行動など、誰も気にしていない
彼女はゆっくりと立ち上がり、演説台へと歩みを進めた。
「おい、君は誰だ? 今は僕が演説をしているのだが……」
第二王子レオンが苛立った声で呼び止める。
エトワールは淡々と答えた。
「お気になさらず……では、少々失礼」
彼女はレオンを軽く押しのけ、演説台の中央に立った。
群衆のざわめきが一気に大きくなる。先生たちが慌てて近づいてくるのも見えた。
「王子様方の演説を遮るような形になってしまい、申し訳ございません。ですが……どうしても、皆さまに伝えたいことがありましたので」
彼女は静かに微笑んだまま、ドレスの下に隠していた短剣を抜いた。
「”ワタクシ”の名前は、エトワール・ラスティーニャ」
その一言で、二つの人格が混ざり合ったことを完璧に示した。そして、彼女は大きく顔を歪めながら、はっきりと宣言した。
「あなた方に……忘れられない思い出を、授けにまいりました」
次の瞬間、エトワールは短剣を自身の心臓に深々と突き刺した。
赤黒い血が、ドクドクと溢れ出す。
講堂が一瞬、凍りついた。
理解できていない者。
状況を把握して悲鳴を上げる者。
状況の理解を拒む者。
そんな光景を目の前にしながら、エトワールは確かに幸せそうな表情を浮かべていた。
――ゲームでは決して見られなかった、自分だけのルート
心地よい感覚が身体を包む。
意識がゆっくりと遠のいていく中、彼女は最後に小さく呟いた。
「ワタクシのプレゼント…気に入って貰えたでしょうか…」
治療を試みる者の姿がぼんやりと見えたが、もう間に合わない。
エトワールは、そのまま安らかに息絶えた。




