第三話 破滅、そしてループ
いよいよ、舞踏会が開かれた。警備は予測通り緩く、短剣を持ち込むことができた。エトワールはアルフレッドにダンスを申し込んだ。
「気でもおかしくなっか?エトワール」
自分は王に向いてないと言った奴からのお誘い。普通はそうなるだろう。
「いえ、私は元々こうですわよ?」
アルフレッドは周りの目を気にして、ダンスを了承した。そのダンスは、綺麗だった。二人とも息がピッタリで、蝶のように舞っていた。ダンスも終盤、最後のフィナーレになった。周りの視線は二人に釘付けになっていた。そして最後のポーズ、エトワールは短剣を取り出し抱きつきながら、心臓を的確に刺す。
「エト……ワール……? なぜ……?」
今にも消えそうな声で彼は言った。そんな彼に向かってエトワールは笑顔で言い放った。
「破滅が……したかったのです……」
アルフレッドは異形を見る目で彼女を見つめ、彼女の腕の中で息絶えた。赤いドレスがさらに赤黒く染まる。悲鳴が響き渡った。そして瞬時にエトワールの周りを兵士たちが囲んだ。
「貴様! 何をしたのかわかっているのか!?」
レオンは声を荒らげながらそういった。
「私は……私のすべきことをしただけです」
彼女は拘束されながら、心地よい震えに包まれていた。夢にまで見た光景。傍から見れば、完全に狂った悪役令嬢の微笑みだった。
「…狂っている…お前は…」
レオンは軽蔑の視線を向けながら、小さくそう囁いた。
その後、公開処刑の日。
処刑人に選ばれたのは、なぜかセレナだった。
「……どうしてあなたが……?」
「私が……きっと、あの時止めてれば……」
セレナの声は震えていた。どうやら、あの夜にエトワールを止めれたらと、後悔しているようだ。そして、このルートでは、エトワールとセレナは恋仲だったはず。恋人の仇として、彼女は剣を握る。
「私の責任です。……最後に一言、言い残すことはありますか?」
エトワールは深呼吸し、淡々と、しかし心の底から言った。
「私は……愛しています。全てを」
これは本心だった。色のない人生に色をくれた、このゲームに。剣が振り下ろされ、意識は途絶えた。最後の光景は、何もかもが軽蔑の視線を向けてくる、とても心地よい光景だった。
――ああ……いい人生だったな……
今度は、後悔もなく死ぬことができた。そして、このルートは本当の破滅…エトワールが居なくなったカイルは、我を失い虐殺を始める。彼女しか幸せにならない、…本来であれば誰も幸せにならないルート。
鳥のさえずり。柔らかなベッド。甘い薔薇の香り。まさかこれは
――ループ。
その言葉が頭に出ると、エトワールの顔が大きく歪んだ。
これ以上素晴らしいことはない。今までは公式ルートをなぞるだけだった。しかしこの身で存在するということは、自由に、この世界に自分だけのルートを作れるということだ。
――ループ制限があるのか、一回きりなのではないか
そんな疑問が頭を通るが、そんなのは関係なかった。彼女の頭は、【破滅】をもう一度体験できる、その事実に震え、歓喜していた。
「はぁ……至高の時ですわ……」
彼女は紅い瞳を輝かせて呟いた。
――私は……破滅をしたい……
あの興奮と愉悦が忘れられなかった。
そして、新たな好奇心も。
「さあ……破滅よ……私を待っていてください……」
エトワール・ラスティーニャの瞳は、紅く燃える太陽のようだった。
これから始まる「自分だけの破滅ルート」を思い、彼女は静かに微笑んだ。




