68:王都への道-1
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王都に向かって、ひたすら馬に鞭を入れる。体重の軽い自分が一番速く走れると言っただけあって、ヒューイの馬の乗り方は堂々としていて、確かに恐ろしく速かった。
だが数刻も走り続ければ、馬の方が走れなくなる。馬の口から泡が漏れ出てくる頃、陸軍の駐屯所に到着した。駐屯所では、すでにデーリッヒからの連絡を受けて、換え馬が用意されている。
「海に魔獣が出たというのは本当ですか?」
「本当だ」
「信じられません」
馬を交換しながら、陸軍の士官が恐ろしい話を聞いたと言わんばかりの顔をする。普段、海軍よりも魔獣と接することがある分、陸軍の方がその恐ろしさを肌で感じているのだろう。
そうして、もしも魔獣が海に出たとしたら、それがどういう意味を持つのかも。
「ああ。海軍じゃ魔獣が実際に目の前にいるってのに、誰もソレを信じようとはしない。だが考えても見ろ。海から出て来た魔獣がもし陸を襲ったら、我が国は山も海も魔獣にやられる事になるぞ」
陸軍士官は青ざめた顔で肯首する。どうかそれが海軍の言うように、まったく見当違いな勘違いであってくれることを祈りながら。
だが、最悪に備えるのが軍隊という物だ。
「王宮には伝令鳥は飛ばしたのですか?」
「無論だ」
「ですが、それを信じて貰えるかどうかは……」
何しろ、海に魔獣が出るなどと言う話は聞いたことがないのだ。開闢以来の珍事であれば、海軍の面々のように、目の前で見たところで信じられない者は多いだろう。
「一応打てる手だけは打っておいた。陸軍の方々にも協力を仰ぎたい。魔獣が上陸すれば、海軍ではどうにも手が出ない。海の物は我々が何とかするが、陸の魔獣殲滅や住民避難の先導は、陸軍にお願いしたい」
「無論です。まずは伝令を出して、状況を確認します」
「ああ。提督はまるで取り合おうとしないが、事は一刻を争う。現地では第四艦隊所属オーリュメール号のデーリッヒ副艦長に話を聞いてくれ」
「かしこまりました」
男は馬の手綱を二人に引き渡し、ついでに小さな包みを渡してきた。
「馬上で食べられる携行食です。食べ慣れないと口に入れるのは難しいかも知れませんが、我々は馬上でこれを食べます」
「ありがたい。恩に着る」
「いえ、どうか一刻も早く王都に参られますように」
陸軍駐屯所では、二人を海軍の礼でもって見送ってくれた。
二人は、海軍の礼でそれに返礼し、すぐに馬上の人となった。
休むことなく二人はすぐに馬を走らせる。海上の任務ばかりで、馬をこれだけ走らせた事などないイグニスだが、ヒューイの速度がまったく落ちないこと様子を見れば、ここで手綱を緩めるわけには行かない。
「なんて奴だ……。あれで本当に十六歳なのか?」
思わず独りごちるが、艦長である自分が情けないところを見せるわけには行かない。
また数刻は知っていれば、次の陸軍駐屯所に着いた。ここでもすぐに替え馬が引き渡された。それから、食事も。
「少しでも体を休めた方が効率は上がります。座って食事を取ってください」
「だが、時間が無いんだ」
すぐにも出立しようとする二人を、駐屯所の者達は必死で止めた。
「いいえ。この後すぐ日も落ちてきます。夜は魔獣が出る可能性もあります。本当なら、明日の日が昇ってから出立していただきたいのですが」
「海には既に魔獣が出ているんだ! そんな事を言っていられるか!」
「それなら、余計に座って食事を取ってください! 十分で食べられるものを用意しておりますので!」
彼らの気迫に負けて、イグニスは食事の席に着いた。
椅子に座ってみて初めて、自分の足がふらついていることに気づいた。
まだ王都までの行程は、半分ほどしか進んでいないというのに。
「艦長、二十分だけ寝てください」
今まで黙って馬を走らせていたヒューイがそう言った。陸軍基地の面々も、真剣な顔で頷いた。イグニスは諦めたように太い息をついた。
「かたじけない。世話になる」
そうして、きっかり十分で食事をとり、二十分だけ寝て、二人はすぐに駐屯所を後にした。
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