66:海の魔獣-1
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その報告は突然だった。
第四艦隊所属エルランディア号からの緊急砲と伝言鳥による救援要請。
緊急砲は青、黒、赤。未確認生物発見、敵攻撃あり、至急援軍求む。
伝言鳥に結ばれた手紙の内容は“体長10mを超える蛸状の生物に襲われている。腕は20本以上あり、細い触手状の腕がさらにある。イカの触腕状の物が5対。粘液を吐き出すが、金属が粘液に触れると即座に霧散す。至急応援頼む”
最初、その救援要請が来たとき、あまりにもでかい蛸に遭遇して、艦内が浮き足立っているのだと皆が笑った。オグール提督は不機嫌さを隠そうともしなかった。大方複数の蛸を巨大な蛸だと勘違いでもしたのだろう、我が艦隊に所属する者が情けないと大いに憤慨した。
だがそれ以降、第四艦隊所属の艦は何度も謎の生物に襲われることとなる。いいや、海の上にいる船は皆襲われた。軍艦も、貿易船も、釣り船も、海賊達ですら。今や海軍基地のあるバスパト港を中心とした海域は、未確認生物に対応する第四艦隊所属の船以外、海上に出ることはできずにいる。
とうとう巨大蛸状の未確認生物に海中に引きずり込まれた船が現れると、奴らは魔獣ではないのかという意見が艦長達から上り始めた。
「魔獣が出たというのなら、聖騎士団に報告した方が良い!」
最初に魔獣に遭遇したエルランディア号の艦長は声高にそう主張した。魔獣に襲われた艦の艦長達は、皆。
だが、海に出ていないオグール提督はバカにしたように笑うのだ。
「提督! 笑い事ではありません! 現に、あの魔獣に海に引き釣り混まれた船があるのですよ!!」
「相手が魔獣では、我らの手には負えません!」
しかしその言葉は、オグールにはまったく響かないようだった。
「臆病者が何を言う。海の物なら、海軍が請け負うべきだろう!」
だが対する艦長達も、自分や部下達の命がかかっているのだ。相手が提督であろうと構わずにくってかかった。
「海軍が相手にするのは敵国の艦隊や、海賊共です! 魔獣は我々の範疇ではありません!」
「陸に出る魔獣だって、陸軍ではなく聖騎士団が担当しているのですよ! 今は陸軍だ海軍だと言っている場合ではありません! もしもあれらの魔獣が陸に上がってきたら」
だがオグールはそれらの意見を真っ向から否定する。そもそも、彼はソレを魔獣だとは認めていないのだ。
「バカバカしい! 海の生物が陸に上がって生きて行かれる訳がないだろう!」
「相手は魔獣ですよ!?」
「魔獣だなどと、何を臆病風を吹かせておるのだ! 魔獣とは山に出るものだ! 未だかつて、魔獣が海に出たなど聞いたこともないわ! 言い訳は良いから、さっさとお前達はお前達の仕事をしろ! 私に恥をかかせるな!」
この最後の言葉こそが、彼の本音だったろう。
聖騎士団に救援を要請して、もしもその大蛸とやらが、魔獣でなかったらどうするのだ。
他の艦隊の提督達や元帥閣下からどれだけバカにされると思っているのだ。
部下が恥知らずなために、この私が! 第四艦隊提督であるこの私が恥をかくなどと……!!!
実際に今も、海の上では魔獣達が暴れ回っていて、多くの艦がその対応に追われているというのに。だが、ただの人間が魔獣を相手に戦うことなど出来るわけがないのだ。
「提督! 魔獣を倒せるのは聖騎士団だけです! 聖騎士団に話だけでも……!」
「くどい!」
オグールは机をどんと拳で叩きつけると、そのまま席を立った。
「どちらに行かれるのですか、提督!」
「それならば、提督も一度海上から魔獣の様子を見てください!」
「無礼な! 話にもならん!」
オグールはそのまま執務室を出て行った。今も多くのオグール麾下の戦艦が魔獣と戦っているというのに。
イグニスの奥歯がギリリと鳴った。
このままここで現実を見ようともしていないオグールを相手にしていてもどうにもならない。
他の艦長達は自分達も艦を出そうと執務室を後にしていく。イグニスもオーリュメール号に戻り……そのまま戦闘幹部を集めた。




