61:ダリル-1
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艦長とその従卒が付き合っているのではないか。その噂が艦内を巡って久しい。
決して表立ってその様子を見せないようにとヒューイから言われ、イグニスも大分顔を繕ってはいるが、その甘々な雰囲気はじわりじわりと当たりに漂っているし、一度立った噂は元には戻らない。ましてや恋バナである。男ばかりの艦内ではあるが……いや、男ばかりの艦内であるからこそ、その手の話は根強いのだ。
それが面白くないのは、もちろんダリルである。だが、ダリルが周りの奴らに「あの2人が付き合ってる」と言っても、「そうだろうね」という反応しか返ってこない。何故だ? とんでもないスキャンダルじゃないのかよ!
「お前ら腹立たないのか!? ヒューイは体を使って艦長の従卒になったんだぞ!?」
今日の仕事が終わり、甲板の清掃作業中にダリルが息巻くが、だが、周囲の目は冷ややかだった。
かつて、あることないこと言って同期や先輩達の歓心を買っていたダリルだが、今では周りの視線が、少々変わってきているのだ。
「あのさぁ、お前、それいい加減にやめたら?」
そう口を開いたのは、いつもダリルに自分の用事を言いつけて、ダリルを可愛がってきた2つ上の男だった。
「は? それって何がっすか」
「だから、ヒューイが体を使って従卒になったとか……お前もさぁ、一度でも艦長のしごきに付き合っていれば良いんだよ」
男がそういえば、周りの男達も呆れたように頷いた。
「ああ、今までの艦長の従卒、みんな2週間もしないで辞めてってるのに、ヒューイはめちゃくちゃ頑張ってるじゃねぇかよ」
「お前だったらとっくに根を上げて、艦からバックレてるだろ?」
ヒューイを持ち上げられ、ダリルはカッと頭に血が上った。自分が下げられるのも腹が立つが、ヒューイを褒められるのはどうしても許せない。だってあいつは俺の手下で、俺よりもずっと下の存在なのだから……!
「だから、それは艦長が自分の愛人だから簡単な仕事しか与えてないから……!」
だが、ダリルの台詞を、周りの男達は呆れた目で聞き流すばかりだ。
「お前、それ確認したの?」
「いつもヒューイが俺達の就寝時間より後まで艦長と剣の稽古してるの知らないの?」
「朝から晩まで走り回ってさ。俺らなんかよりよっぽど仕事してんじゃん。それ、知らないとか言う?」
「そんなわけない! あいつは……!」
そうだ、そんなの、格好だけだ。見た目だけ、忙しそうな振りをしている。見た目だけ、
真面目に剣の稽古をしている。真面目になんてやれるはずがないのだ。だって、そんなこと、不可能だ。朝から晩まで走り回るなんて。寝る間も惜しんで剣の稽古をするだなんて。そんなこと、俺にだってできないことを、あいつができるわけがないのだから。
だが、男達は冷ややかな声でダリルに言い放った。
「ヒューイは、少なくともお前よりは優秀だよ。剣の素振り、お前未だに200振れないじゃないか。まずはヒューイと同じ、1000本触れるようになってからそういうことは言えよ」
「あれは……あれは、あいつが魔物の仲間だから……!」
そうだ。あいつは魔物の仲間だ。俺は見た。あいつは夜中に森に入って、魔物と暮らしているんだ。あのときの魔物退治に連れて行かれたときだって、きっとあいつらも魔物の仲間だったんだ! 俺はちゃんと艦長に報告した! あいつは人間じゃない。人間じゃない奴と比べるなんて、おかしいだろ!?
「は? 何言ってんの? あのさぁ、ヒューイは子供の頃から魔獣と戦うために鍛えてたんだろ。1000本の素振りも毎日できちゃうんだよ。魔獣と戦う位だから、デッセルの腕だって切り落とせちゃうんだろ? それを魔物の仲間とか、お前、頭大丈夫?」
「デッセルの腕って言うけど、アレはまぐれじゃないか!!」
「じゃあお前もまぐれで海賊共の腕切り落とせよ。ヒューのこと魔物の仲間とかあり得ない妄想垂れ流す前にさぁ!」
ここに来てようやく、ダリルは自分が言った「ヒューイは魔物の仲間」という台詞がまずかったことに気づいた。そうだ。他の奴らは知らないんだ。あいつが魔物だってことを知ってるのは俺だけだ。やばい、これじゃあ俺が気が狂ってると思われる……!
ダリルは焦りながらなんとか巧く話の方向を修正できないかと考えた。
みんながヒューイを蔑むような。あいつを地に貶めるような。そんな方向に持って行かなければ。




