60:戦闘幹部-2
こんな場で、お前らそんな話をよくも本人の前でするな!? っていうか、ここにお前らの可愛いヒューイもおりますが!? お前ら言いたい放題かよ!! 可哀想に、イグニスの隣でヒューイも小さくなってるだろ!?
だがもちろん、奴らはそんなこと気にしない。長い付き合いで、板の上で苦楽を共にしてきた仲なのだ。階級にも身分にも開きはあるけど、オーリュメール号の戦闘幹部達は家族も同然。
そうして家族だと見た時に、イグニスは決して家長ではないのだ。
そう、家長はもちろんデーリッヒ副艦長だ。仕事となればもちろんデーリッヒはイグニスを副艦長として能く支えているが、ひとたび仕事を離れれば、デーリッヒがお父さんなのは絶対間違いなかった。
そんなデーリッヒお父さんがヒューイをちょいといと手招きする。ヒューイは従卒なのでここに席はない。資料出しをしたり、お水のサーブするなど、雑用をするために後ろに控えているのだ。遊軍のポジションにいるヒューイのフットワークは軽い。デーリッヒに呼ばれれば、ひょいひょいと近づいて行ってしまう。
「何でしょう、副艦長」
「おい、ヒューイ。艦長に不埒な事をされたら、逃げて来いよ」
「え。不埒なことですか?」
デーリッヒの隣に座っていた小兄さんのオンゾ水平長もヒューイの両肩にがしっと手を置いて、頼もしそうに頷いてくる。
「そうだぞ、ヒューイ。俺達がちゃんと守ってやるからな!」
力強く胸を叩く小兄ちゃんに、ヒューイもちょっとどう返して良いのか悩みつつ、それでもイグニスを庇ってみる。
「だ、大丈夫です。艦長は紳士ですから!」
だがそれにすかさず突っ込むのは大兄ちゃんのアーレス航海士長だ。
「いや、それ甲斐性無しって言うんだぞ」
か い しょ う な し ! ?
なんてことを! そんな、甲斐性なしだなんて……!!
「いや、甲斐性はあります!! だ、大丈夫です!! ええ、ちゃんと……!!」
更に突っ込んだのはオンゾ水平長とは双子の小兄ちゃん、エルベン砲弾長だ。
「へ~え? 艦長、もうやっちゃった?」
「うるさい!! 今大事なとこなんだから放っておいてくれ!!」
真っ赤になったイグニスを、しっかり者のお姉ちゃん、テルー補佐官が笑顔で援護する。
「ほらほら、皆さん。艦長が身を固められるかどうかは皆さんにかかってるんですよ。嬉しいのは分かりますが、あんまりいじりすぎると、ヒューイが怖じけついて逃げちゃうかも知れませんから、ほどほどにお願いします」
「なんだなんだ! その程度で逃げられちゃうんなら、やっぱり艦長もたいしたことねぇなぁ!」
「逃げませんから! 大丈夫です!!」
オンゾの突っ込みに思わずヒューイが叫び返すと、感極まったイグニスが立ち上がり、わざわざヒューイの元までやってきて、
「ヒューイ!!」と抱きしめた。
「おやおや、艦長。もう会議始まりますから、盛るのは後ほど二人きりになった時にお願いします」
テルーが呆れたように、でも嬉しそうに窘める。そんなことは分かっている。だが始めたのはお前らじゃないか!!
だがこれから会議が始まるのも本当だ。イグニスが怒って良いのか落ち着けば良いのか、一瞬感情の持ってき方が分からなくなって喉の奥でうなると、ヒューイがポンポンとイグニスの背中を優しく叩いた。
「艦長、大丈夫ですよ?」
「……ああ」
「でも、こういうのは幹部の皆様の前だから許されるのであって、他の方達の前では絶対禁止ですからね。艦内の風紀にも関わりますし、従卒ごときに抱きついてる艦長なんて、艦内クーデターを起こされちゃいますよ?」
「わ、分かってる」
イグニスは急に名残惜しそうにヒューイから離れると、いそいそと自分の席に戻り、腰を下ろしたらメンバーの顔を見回した。
「お前達も、俺達だけの時はからかってきても……まぁ、良くはないけど許されるが、そうでないときはあくまでも私とヒューイは艦長と従卒ということでよろしく頼む」
「もちろんですよ、艦長」
「くくく、ヒューイはよく艦長の手綱を握ってくれそうだ」
「ああ、頼りにしてるぞ、ヒューイ」
それぞれが口々にそう声をかけてくる。それはまるで祝福のようで、ヒューイは嬉しそうに頬を染め「お任せください」とお辞儀をした。
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