59:戦闘幹部-1
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別に誰かが言い出した訳でもないけれど、ボルドー艦長とその従卒が付き合い始めたんじゃないかという噂は、あっという魔にオーリュメール号を駆け巡った。
まぁ、それはそうだろう。ヒューイは今まで通りの態度を見せているが、そのヒューイを見る艦長の様子が明らかにおかしいのだから。
いや、もちろん艦橋にいる艦長はいつも通り凜々しくてかっこいい。おかしなところなんてなさそうに見える。
でもダメだ。例えばヒューイと一緒に歩いている時とか、一緒に食事してる時とか、何ならヒューイが振り返った瞬間とかに、もうイグニスの顔はデレッデレなのだ。俺の恋人超可愛い。やばいあり得ないくらい超可愛い。そういう気持ちがイグニスの全身からダダ漏れである。そりゃ周りの人も「やべ、俺達今何見せられてる?」ってなるだろう……。
「まさか艦長があんなに恋愛下手だとは……」
その様子を近くで見ている戦闘幹部達の気持ちも少しは考えて欲しい。何しろ艦長は自分達の上官で、この艦の責任者で、貴族で偉くて強いのに、あんな子供にメロメロなのだ。だがそれを、自分達は嬉しいと思ってしまう。艦長は今ままで仕事一辺倒で、息抜きの仕方も知らないような人だったのだ。恋愛ベタであることは予想していたが、それにしても艦長、にやけすぎだろう。
しかも相手はヒューイだ。自分達が息子のように、弟のように可愛がっているヒューイ。真面目で頑張り屋で気配り屋でいつも笑顔で自分達に懐いてくれる、あのヒューイなのだ。
もうもうもうもう、これは喜んで良いのやら、悔しがって良いのやら。気分は「お前のような青二才に息子はやらん!!」の父親である。
「まさかとは思うが、艦長、初彼氏とかじゃないよな?」
「いや、過去にいただろ」
そりゃイグニスはあれだけの男前だし、貴族だし、イケメンだし剣術もすごいし、あの年で艦長だし、もてないわけではもちろんないのだ。過去にもグイグイアタックする奴はいくらでもいたし、とりあえずお試しで、お付き合いを試みたことだってあるし、何ならそれを自分達は傍で見ていた。
「でもさ~、艦長も前に他の奴と色々あった時には、あんな風にデロデロじゃなかったろ」
そう。まるで仕事でもしているような顔で“おつきあい”をしていたイグニスは、端で見ていてもあまり楽しそうにも幸せそうにも見えなかった。何らかのしがらみがあるから。断る事ができないから。周りがうるさいから。そんな理由で付き合っているのが見え見えだったのだ。
「だからさ、艦長がヒューイにあんなメロメロなの見ると、驚くより先に良かったな~って思うわけですよ」
「でもあれはメロメロすぎないか? 艦長だってあの年だしさ。10代の若造じゃないんだぜ?」
「相手が10代の若造だから、艦長もそっちに合わせてんのか?」
「いやどう見たってヒューイより艦長の方がガキだよなぁ……」
思い思いに好き放題言っていると、インテリ眼鏡のアーレス航海士長がズバリと核心を突いた。
「つうか、艦長はちゃんとえっちさせてもらってんのか?」
お、おまっ! みんな思ってても絶対口にできないことを堂々と……!!
その場のみんなは一斉に顔を赤くした。
そう。ここは艦長室。これから戦闘幹部の会議なのだが、その会議が始まるまでのわずかな時間は、艦長の将来についての井戸端会議の場となっていた。
つうか、えっち。そう。艦長の大切な将来のためには避けては通れない話題だ。
だが、えっち。えっちか。艦長とヒューイの諸々を想像してしまった面々は、なんか、怒ってるような、喜んでるような、憤ってるような顔になって、その場は一瞬でお祭り状態と化した。
「バカ、えっちはまずいだろ! ヒューイまだ子供なんだぞ!」
「16歳で従卒やってるような奴が、子供な分けないだろ! 16歳なんて、そろそろ結婚してる奴らいっぱいいるぞ!」
「それでもだよ! 俺達の可愛いヒューイが艦長なんかにえっちとか!! お父さんは許さんぞ!! 燃やすぞ!!」
「何をだよ!」
「いや誰をだよ!!」
やいのやいのと騒ぐ幹部達に向かって、イグニスが大きな雷を落とす。
「聞こえてるぞ!!」
そう。イグニスは奴らのすぐ傍にいたのだ。だってここ艦長室で、これから会議だもの。




