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58:ヒューイの部屋にて-2


「その……セオとは、えっと、つまり、デート、とかだったのか?」

「は?」


 イグニスの顔は真っ赤である。真っ赤な顔でそんなことを聞いてくる艦長=自分の上司。きっと、恐怖でしかないだろう。だが、ヒューイは驚いた顔をふっと引っ込めると、いつもの笑顔を見せてくれた。ごめん、ヒューイ。おじさんにはそれだけでありがたいし、もうそれだけで拝みたくなるほど尊いのだ。


「いえ、違います。セオが家族に送る物を買うというので、海沿いの町の事を俺が知らないから、一緒に買い物に付き添わせてもらったんです。名物とか、食べ物とかも大分違うから、教えてもらいました。それで、せっかくだからビスケットの材料も買おうかなって。俺は店で物を買ったこともあまりないので、助かりました」

「そうなのか……」


 イグニスはあからさまにホッとした顔をした。その顔が、今日はなんだか可愛く見える。

 それからイグニスはしばらく下を向いて、どう言ったものかかなり躊躇した顔をしていた。それは端から見たら、いわゆる「モジモジした様子」に見えただろう。まぁ、従卒からしてみれば、自分が仕える艦長の「モジモジした様子」などというのは、本来ならかなり恐ろしいものだろうが。


 それからイグニスはなんとか顔を上げて、それでも目線を泳がせたまま、真っ赤な顔で話始めた。


「その……私は、どうもその……君が他の誰かと出かけたと聞いて、……なんというか、落ち着かない、というか……。だから……もし、良かったら、その、そういう風に出かけるのは、私だけにしてもらえないだろうか」

「え?」


 ヒューイが聞き返したのをどう思ったのか、イグニスは今まで以上に顔を赤くして、かなりな早口で言葉を継ぎ足した。


「いやすまん、こんなおじさんに急に言われても君も戸惑うとは思うんだけどでも少しだけ話をさせて貰えるならつまり私は」

「艦長はおじさんではありませんよ?」

「そうだろうだが……って、え?」


 今の台詞は一度イグニスの耳をすり抜けてそれからまた帰ってきたようだ。


 か ん ち ょ う は お じ さ ん で は あ り ま せ ん よ …… ?


「え? えっと、それはどういう……」

「俺、艦長のことおじさんと思ったことはありませんよ?」

「そ、そうなのか。あ、ありがとう……?」

「ふふ、どうしてそこでありがとうなんですか?」


 いかにも面白そうに、ヒューイがクスクスと笑う。うわぁ、可愛い。そうじゃなくて、ええと、つまり今自分が言わないといけないのは───


「いや、つまり、もし君が付き合うとしたら、その、君はまだ16歳なわけだし、だから君が私をおじさんと思っていなくても私はやっぱり28歳なわけで」

「艦長?」

「つまりその────」


 何をどう言って良いのか全く分からなくなったイグニスは、ええいままよといきなり片膝をついて、ヒューイの両手を捧げ持った。


「つまりヒューイ、私と付き合ってくれないだろうか!!」

「え?」

「だ、ダメなら、はっきりそう言って構わない! 階級の違いから断りづらいとか、そういう事は考えなくて良いから! きっちりと振られた方が私のためにもなるから、断ってくれて全く構わないんだが、でもこの気持ちを一度君に告げないと私は────!!」


 一気に叩きつけるようにそう告げると、イグニスは目を閉じてぷるぷると震えた。こんなに震えたことなど、幼い時に母にお尻をぶたれて以来ではないだろうか。


 だが、そんなイグニスの耳に飛び込んできたのは。


「……良いですよ」

「そうだろう、もちろんこんなおじさんじゃ断って当然……え?」


 い い で す よ?


 今、良いですよって聞こえた? え? 幻聴……?

 信じられない言葉に我が耳を疑い、茫然とヒューイを見つめれば、彼は顔を真っ赤にして、嬉しそうに口元を手で覆っていた。


「うわぁ、俺、こんなこと言われたの初めてです! どうしよう! すっごいドキドキします! 艦長、そんな、貴婦人にプロポーズするみたいな……やっぱり艦長、貴族なんですね! あの、でも艦長、ほんとに俺みたいな田舎者で良いんですか?」

「え? え? 良いのか? え? あの、私が言っているのは結婚を前提として、という感じの付き合う、という事で、だからつまりヒュ、ヒューイは結婚の意味が分かるか? つまり結婚すると当然それに伴う行為があるわけで」


 真っ赤な顔で何を言っているのか段々分からなくなってきた。いやそのそれに伴う行為って!! おっさんがそれに伴う行為って……!!!


 だがそれに対し、ヒューイは真っ赤な顔でとんでもない返事を返してきた。


「え? それってあの、え、えっちありって意味、です……か?」


 えっち!?

 え、今えっちって言った!??!?


 ダメダメダメ! そんなのセクハラじゃないか!! こんな若い子におっさんがえっちとか!! ダメダメダメ!! いやそりゃメチャクチャしたいけど、でもそんなえっちだなんて……!!!


「あ、いや、その、君はまだ若いから、私が手を出したら犯罪だと思うんだ!! だから、その……予約!? 予約な感じで……いずれその君がもっと大人になったらいや今でももちろん君は充分大人なわけだけれどもでももっとその大人になったらの話で……!!! そ、その、それでも……良いか……?」


 イグニスも真っ赤だが、ヒューイも熟れた林檎のように真っ赤だ。やばい、おいしそう! どうしよう!!!

 するとヒューイが真っ赤な頬をそっと手で押さえてから、潤んだ目でイグニスを見上げてきた。


「……あの、艦長。俺、そんなに見た目ほど、……子供じゃないですよ?」

「え?」


 その言葉を聞くなり、イグニスは頭のネジが吹っ飛ぶ音を聞いたような気がした。


 思わずイグニスは立ち上がり、何も考えずにヒューイを抱きしめた。

 しまったここはベッドの上だ……! 耐えろ自分! 耐えろ自分と自分に言い聞かせながら、それでもヒューイを抱きしめる手が止まらなかった。


「そ、それじゃあの……キ、キスしても良いだろうか……?」

「あ、はい。その、よろしくお願いします」


 そのお願いしますが「これからお付き合いの程、よろしくお願いします」なのか、「キスして良いだろうか」に対する返事なのかは分からないが。


 イグニスはヒューイの唇にそっとキスを落とし……もちろんそれだけじゃ全然足りなくて。キスはドンドン深くなって、抱きしめたヒューイの体は自分より一回りも小さいのにしっかりと戦うための筋肉を持っていて、なんだかそれがすごくすごくたまらない気分になって……つまり二人はそのまましっかりお付き合いを始めることにしたのだった。



 まぁ、皆まで聞くな。




   ◇◇◇ ◇◇◇

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