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57:ヒューイの部屋にて

すいません、先週は無断でお休みをいただいてしまいました m(_ _)m

また今週からよろしくお願いします!!


イヌ吉拝


◇◇◇ ◇◇◇



 イグニスはバクバクする心臓を抱えながら、ヒューイの部屋に向かった。ヒューイは直接食堂に向かってしまっただろうか。いや、荷物を色々持っていたから、きっと部屋に戻っているに違いない。


 ヒューイの部屋は現在は戦闘幹部を含む上級兵の住む宿舎の中にある。まだ新人ながら艦長の従卒は艦長の傍に住み、細々とした用事を言いつかったり、夜討ち朝駆けで稽古やら任務やらをこなすので、ここに部屋を与えられたのは当然のことであって、イグニスが側に置きたいから、いつでも姿を見ていたいからなどという下心があってのことではない。そう、下心ではないのだ。大事なことだから二度言うが、決して邪な気持ちなんか持っていない。


 ヒューイの部屋の前に立つと、中からは人の気配がした。やはり部屋に戻っていたようだ。イグニスは居ずまいを正し、ちょっと髪を撫でつけて、軽く咳払いをしてからドアをノックした。


「はい?」


 扉はすぐに開いて、ヒューイが顔を出す。そんな簡単にドアを開けちゃダメだろうなどと言いそうになったがすぐに引っ込めた。ここでドアが開かなかったら、イグニスはチキって回れ右していたかもしれないではないか開けてくれてありがとう。


「艦長? どうなさいましたか? 何か、確認事項が?」

「いや、そうではないんだが……その、中に入れて貰っても?」

「ええ、もちろんです。今ちょっと荷物を広げているんですが、よろしいですか?」


 そう言いながらも、ヒューイはすぐにドアを全開にして、イグニスを招き入れてくれた。


 中はイグニスの部屋よりは狭いが、それでも今までヒューイに与えられていた大部屋に比べれば、格段に立派な部屋だ。

 1人部屋で、ベッドと机と椅子があり、タンスとチェストと洗面器を置くための台と鏡が備え付けられている。この洗面器を置くための台が意外と重要で、ちょっと顔を洗ったり、体を拭いたりするのにとても便利だ。風呂という物がなく、体は水で流すか盥に入れたお湯で洗うこの宿舎では、洗面台置きがあるということは、今で言うシャワー付きの部屋のようなもので、何かあった時にも困らないのだ。


 って何かって何だよと、イグニスは頭を振る。


 何か。体を拭きたくなるような、体を洗いたくなるような、何か。

 ダメだダメだダメだ。落ち着け、自分。何洗面台で妄想してるんだ。相手はヒューイで自分の従卒でまだ子供だぞ?


「艦長?」

「うひゅあって、なんでもない! すまない、変な声を出して!!」


 真っ赤になってイグニスがそう謝れば、ヒューイはおかしそうに笑ってから、椅子を勧めてきた。


「どうぞ、そちらの椅子に座って下さい」

「あ、ありがとう。ヒューイは?」

「椅子は一脚しかないので」


 どうやらヒューイはそのまま立っているつもりのようだ。ダメだダメだ。そんな風に上下関係丸出しで気を遣われてしまっては、話したい話もできないではないか。


「いや、ヒューイも座ってくれ」

「あ、えっと……じゃあ、はい」


 そう言って、ヒューイはベッドに腰掛けた。

 イグニスが座っている椅子の前にはテーブルがあり、そこには市場で買ってきたのだろう小麦粉や木の実が並んでいる。ひょっとしてこれは……。


「ヒューイ、これは今日町で買ってきた物か?」

「はい。先日お訊きした、木の実のビスケットの材料です。焼き上がったら艦長も召し上がりますか?」

「良いのか?」

「もちろんです」


 ヒューイの村では昼食代わりに食べると言っていた。畑仕事や狩りに出ている時の携帯食にちょうど良いのだと。

 ヒューイはそれらの食材を前に、ビスケットの説明をした。木の実の他にもチーズや干した果物を入れてもおいしいのだとか、大人はチーズを入れた物をお酒の肴にもするのだとか。それらの説明を真剣に聞きながら、でもイグニスが聞きたいのはそこじゃないのだと、小さく唸った。


「艦長?」

「あ、すまない……。きょ、今日は、そのセオと一緒に市場に行ったんだよな?」

「はい」


 その話はさっき報告済みである。何故そんなことを聞くのか、という顔だ。それはそうだろう。まさかヒューイは、イグニスがこれから何を言おうとしているのかなんて知らないのだから。 


 だが、イグニスにとっては今日、ヒューイがセオと出かけていたというのは、結構重要な問題である。



 ……それは、つまり。





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