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56:艦長室にて

本日2話目の投稿となります。

前回のお話をお読みでない方は「前へ」でご覧下さると嬉しいです。


  ◇◇◇ ◇◇◇




 セオと別れた後、ヒューイとデーリッヒはまっすぐ艦長であるイグニスの執務室に報告に行った。もうそろそろ夕飯の時間であるが、そこにはまだイグニス始め戦闘幹部達が残っていて、ヒューイを待ち構えていた。

 ヒューイは相手の人数や特徴、どのように待ち伏せをしていて、どうして彼らの存在に気づいたか、実際に戦闘になった時の様子や台詞などを事細かに報告した。


「それで、怪我は無いか?」

 報告を聞いたイグニスは、全てまとめるように最後にそう言った。


「はい、俺には怪我はありません」


 見たところ確かにどこにも怪我はしていないようだし、どこかを傷めているようにも見えない。一人で五人以上の暴漢に囲まれていたというのに恐ろしいほど落ち着いており、冷静に状況を把握している。そんなヒューイの様子に少し驚きつつ、「まぁ、ヒューイだからな」と納得もした。


「分かった。ヒューイ、今日はもう下がって良い。夕飯はこれからだろう?」

「はい」

「じゃあ夕飯を食べたらもう今日は訓練もなしで良いから、早く寝なさい」

「分かりました。ありがとうございます」


 いつも通りのきちんとしたお辞儀をして、ヒューイは艦長室から出て行った。


 ヒューイが出て行って3拍ほどおいてから、艦長室に残っている戦闘幹部達は居ずまいを正した。ここからは、自分達の領分である。


「デッセルの手の者の可能性があるな」

 最初に口火を切ったのは艦長であるイグニスである。それに応えたのはテルー補佐官だ。


「だとしたら奴ら、我が国に上陸しているという事ですよね?」

「腕を切り落とされたんだ、そこまで根に持っても仕方がないが、自分達はそれ以上の事をしまくっているのになぁ」

 エルベン砲弾長がそう言えば、アーレス航海長が不愉快そうに眼鏡を光らせた。


「なら、最初からヒューイを狙って上陸したということですか? 相手は子供ですよ?」

「子供にやられた、というのが我慢できないのだろうな。自分たちの面子にかけて、ヒューイだけは潰しておきたい、というところだろう」


 デーリッヒの応えに、アーレスはますます不愉快そうにした。アーレスはヒューイに座学を教えているが、その真摯に取り組む様子に、ヒューイは自分の弟子だと公言するようになっていた。可愛い弟子が襲われたのだ。陰で冷静沈着で取っつきにくいインテリ眼鏡などと言われているアーレスが、熱くなっても仕方がないだろう。


「陸でヒューイを襲うくらいなら、基地や停泊中の艦を狙った方が奴らの名を上げるのでは?」

「落ち着け、アーレス。奴らは海賊だぞ。奴らが陸の上でできることなんて、せいぜい子供を襲うくらいだろう」

 デーリッヒがそう諫めると、すかさずオンゾ水兵長が突っ込む。


「まぁ、それも相手がヒューイですからまんまと失敗したわけですからね」

 オンゾが突っ込めば、普段からオンゾと仲が良いエルベンも続けて「面目丸つぶれだな」と皮肉そうに片眉を上げた。


「だからこそだ。だからこそ、これからもやつらはヒューイを狙ってくる可能性がある」

「だったらもうヒューイだけで宿舎を出ない方が良いのかもしれませんな」

「どこかに出かけたい時は、艦長がついて行ってあげたらいかがです?」

「ん?私がか?」


 イグニスは艦長だ。いくらヒューイがイグニスの従卒といっても、従卒の外出に艦長が付き合うなど、おかしな話だろう。

 だが、そう言いだしたデーリッヒのイグニスを見る目は、少しニヤニヤと笑みを含んでいた。


「だからぁ、デートにはちょうど良いじゃないですか」

「デート?」


 それを聞いた幹部達も一斉に「それだ!」と目を輝かせ始めた。


「ええ。セオに先を越されて良いんですか? あいつら同期な上に夜中に二人で剣術の稽古もしてるみたいですし、艦長がうじうじしてたらとっととかっ攫われますよ。どうなんです? もう告ったんですか?」


 完璧に違う話になってしまったその場の空気に、イグニスは思わず真顔になり、それからそっとそっぽを向いた。耳が真っ赤である。


「艦長?」

「……」

「は? 聞こえませんが?」


 やいのやいのと部下にせっつかれて、イグニスは観念したように呻くようなに、「まだ告ってなんかいない」と周りの耳に届かないような声で言う。だが、それを聞き逃すような奴らではないのだ。


「何てことだ! 我らの艦長がこんなにも甲斐性無しだったとは!」

「良いですか? 艦長のようなオッサンがモジモジしてても気色悪いだけですよ!」

「ガツガツまで行かなくても良いけど、艦長からアプローチしないと! 従卒が艦長に自分から告れるはずないんですからね!?」


 幹部達の目が怖い。どんだけ本気なのだ。

 いや、本気なのだろう。自分達だって独り身なのに、艦長の将来を本気で心配してくれてるのだ。


 ……まぁもっとも、艦長であるイグニスが部下とくっつけば、自分たちも大手を振って部下に告れるとか、そういう下心があったりするのかもしれないが。


「じゃ、艦長。後のことは私らで対応しておきますので、さっさとヒューイに告って来て下さい」

「今から!?」

「今からです! 当たり前でしょう!! 艦長、今を逃したら一生告白なんてできませんからね! ほら、さっさと行って下さい!!」

「ちょ、ちょ待……っ!」


 抵抗しようとするイグニスを蹴っぽる様にして艦長室から追い出す。ドアの向こうは暫く無音だったが、暫くすると呻き声がして、それから頬をはたく乾いた音がした。「よしっ!」という気合いを入れる声がしてから足音が遠ざかっていくのを確認してから、艦長室に残ったメンバーはほうっと溜息をついた。


「は~、うちの艦長、ほんと手がかかる……」

「いや、そこが可愛いんでしょ」

「まぁ、なんにしても艦長にはヒューイが必要だよ。さっさとくっついてくれないと、俺が心配で夜も眠れねぇや」


 それぞれにそう頷き合うと、「それじゃあ今日の襲撃事件についてまとめと今後の封神について話し合うぞ」と彼らは急に真顔になって話し合いを始めた。




   ◇◇◇ ◇◇◇

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