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54:休日の市場にてー4

「お、お疲れ様です! ご足労をいただき、ありがとうございます!」

「うちの兵隊が騒ぎに巻き込まれたんだ。副艦長の俺が迎えに来るのは当然だろう」


 ギロリと衛兵達を見る目がもう怖い。どう考えても年期が違うのだ。衛兵達はその迫力に涙目になっている。

 副艦長という将校が迎えに来たことで、衛兵達も慌てて自分達の上官を呼びに行った。市場の見回りをしている衛兵など、海軍で言えば水兵と変わらないのだ。

 部隊長が出てくると、さすがに部隊長は落ち着いた対応を見せ、衛兵達は露骨にほっとした顔をした。


「では、彼らは本当に海軍の水兵で間違いないのですか?」

「ああ。こいつらはオーリュメール号の所属で間違いない。お前ら、怪我は無いか」

「はい、デーリッヒ副艦長! セオがすぐに衛兵の皆さんを連れてきてくれたんで、何とかやり過ごせました!」


 デーリッヒはヒューイとセオの頭に手を置いた。意外と優しい手つきである。それを部隊長も衛兵達も意外な気持ちで見つめた。この強面の副艦長は、以外と面倒見が良いのかも知れない。いやそうではければ副艦長という地位にあって、わざわざ水兵を引き取りになど来ないだろう。


「衛兵の皆さんにはちゃんと礼は言ったんだろうな?」

「はい! ありがとうございました!」

「あ、ああ。ぶ、無事で良かったな」


 最初に駆けつけた衛兵が戸惑いながらもそう答えるのを横目で見ながら、部隊長はデーリッヒに真剣な目を向けた。


「デーリッヒ副艦長殿。襲撃者達は海賊の手下だと彼らは言っておりますが、それは間違いないのでしょうか」

「俺も現場を見ていないから何とも言えないが、お前らはどうして奴らを海賊の手下だと思った?」

「え……」


 デーリッヒに話を振られ、とっさにはどこがどうと明確に答えられないセオの後を、ヒューイが引き受けた。


「彼らは曲刀を使っていました。言葉には先日のデッセルの手下と同じ訛りもありました。少なくとも、我が国の人間で曲刀を使う者はいないと聞いておりますし、ウォースの人間も曲刀など海賊ぐらいしか使わないと聞いております」

「……曲刀にウォース訛りか」


 その言葉は、海沿いの街の衛兵達にとっては、聞き捨てならない言葉だ。


「た、確かにあいつら曲刀を持っていたな」

「だが、ウォース訛り? ウォース訛りだって?」


 衛兵の間だに動揺が走る。海沿いの町とはいえ、敵国ウォースとは貿易船の行き来もしていない。彼らが自分達の町に上陸しているなど、思いもかけぬことだった。


「……知っての通り、我が国の領海を荒らす海賊の多くは、ウォースの人間だ」

「では、やはり奴らは海賊であるという見方が強いのですね? ならばいきなり我が国の陸で海賊が襲いかかるなど、どういう事情があるのか伺っても?」


 デーリッヒはチラリとヒューイを見た。だが、ここで話せる内容と話せない内容がある。それを決めるのはデーリッヒの職務の範囲から逸脱している。


「我々は常に海賊と戦っている。先日も移船戦があったばかりだ。たまたま顔を覚えられていたんだろう。詳しいことについては後日こちらで調査してそちらにも報告しよう」

「しかし!」


 若い衛兵が声を荒げるのを、部隊長が手で押しとどめた。


「海軍さんには海軍さんのお考えがあるのでしょう。ですが、海賊が陸に上がって狼藉を働くようになれば、それは我々衛兵や、陸軍の仕事になります。海賊どもが基地の近辺に潜伏するような大きな動きがあるのなら、それは我らに事前に連携してくださらなければ。海賊が陸で暴れて、死ぬのは一般市民です」

「そんなことは言われなくても分かっている。奴らが海で暴れるのはいつものことだが、それが今回の上陸とどう繋がってくるのかは、これからの調査待ちだ。分かったことがあればその都度に報告するから、それを待ってくれ」


 まだ何か言いたそうな若い衛兵を手で制しながら、部隊長は「よろしくお願いします」と頭を下げた。だがその顔は、「海賊はそちらの領分なのだから、陸に上陸させずにそっちでなんとかしろ」と訴えている。


 海賊だって“仕事”が終われば陸に上がるだろうに。海賊を海の上にとどめさせるなど、実際問題として不可能だ。だが、不審船を上陸させないことに関しては、確かに海軍の管轄だろう。


「とにかく、うちの若い者が世話をかけた。おかげで無事に済んだ。感謝する。これはうちの艦長からの差し入れだ」


 デーリッヒがそう言って表を顎でしゃくれば、詰め所の外には手押し車に乗せられた樽が見える。


「お、ワインですか?」

「ああ。我々は船の上では新鮮な飲み水は飲めないんでな。こいつが俺らの水代わりだ」

「ははぁ、羨ましい話ですな……」


 水は魔道具があれば鮮度をかなり長期間維持できると言うが、あまりにも高額なため海軍の予算には組み込まれていない。彼らの喉を潤すのは昔ながらワインなのだ。まぁもっとも、清水が湧いている地域でも無ければ、陸の人々も衛生上の問題で水よりエールを飲むことが多い。そう、ワインはエールに比べると高級品で、庶民や衛兵達の日頃の飲み水はぬるくて薄いエールなのだ。どうやらワインは、少しは衛兵達の不安や不満を抑え込む一助にはなったようだ。


「お心遣い感謝いたします、副艦長殿。いち早い調査報告をお待ちしております」


 そうして深々と頭を下げた衛兵達に見送られて、デーリッヒに連れられた二人は衛兵の詰め所を後にした。




   ◇◇◇ ◇◇◇



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