52:休日の市場にてー2
「確かにこっちだとあんまり食べないね。うちは山だから、木の実とか、あと羊や山羊のチーズとかよく食べるよ? 逆に魚とか肉とかはあんまり食べれないんだ」
「チーズ! チーズなんて贅沢品だよ!」
「俺にとったら魚が贅沢品。うちの方は川魚ってあんまり住んでなくて。海の魚も初めて食べたけど、おいしくてびっくりした!」
そんな話をしていたら、市場にはすぐに到着した。
セオは姉妹達のために可愛らしいリボンや練りガラスのアクセサリーをどんどん選んでいく。さすが上下に二人ずつ女兄弟に囲まれて育っただけあって、セオはアクセサリー選びによどみが無かった。
「すごいな。俺なんか、女の子に何をあげたら良いのか全然分からないよ」
「あはは、そりゃあいつら、気に入らない物買うと容赦ないから。鍛えられてるんだよ」
セオが一通り買いたい物を買い終わると、今度はヒューイの番だ。今回買うのは小麦粉とナッツ代わりのドライフルーツだと言う。バターやミルクはいらないのかと聞いたら、それらは少量買うのが難しいので、厨房と交渉して、できあがったビスケットと物々交換にしてもらうらしい。
「でも小麦粉も大分多いなぁ……。もう少し少なく売ってもらっても良いですか?」
ヒューイが小首を傾げながらお願いすると、店のおじさんは最初は渋っていたが、「ああもう、しょうがないなぁ!」と最後には根負けしてほんの数カップ取った小麦粉を袋に入れてくれた。渋っていた割に、少しだけおじさんの顔はにやついている。
「本当はこんな少しじゃ売らないんだぞ! ちゃんと感謝しろよ!?」
「うん! めちゃくちゃ感謝した!! ありがとう、おじさん! また次も買いに来るからね!」
「おう! また来いよ、坊主!」
なんだかんだで、最後には満面の笑顔で手間で振っているおじさんにヒューイも大きく手を振り返している。
可愛い子供はお得なことが多い。セオがこのくらいの年の時には、こんな風にみんなに親切にしてもらっただろうかと思い返してみるが、そんな記憶は全くなかった。……まぁ、セオとヒューイは年の差はそれほど無いので、このくらいの年、というのはつい数年前なだけなのだけど。
「……ヒューイ、あざとい……」
「ふふふふふ。使える物は使わないとなぁ」
ヒューイが少しだけ黒い顔で笑ってみせると、セオは呆れたように苦笑した。
「ヒューイ位可愛いと得だなぁ」
「可愛いわけじゃなくて、自分の子供くらいの年の子が料理とか頑張ってると、おまけしたくなる大人は多いって事だよ」
「いや、絶対可愛いからだろ。ヒューイ、分かっててやってるな!?」
「あははは、気のせい気のせい!」
二人は笑いながら市場やお店を物色した。もちろん、育ち盛りの男子である。買いたい物を買ったら、つぎは屋台での買い食いだ。むしろこっちがメインかもしれない。特にヒューイはなじみの無い海産物の屋台に興味津々だ。
「この串焼きおいしいね! これ、何の肉?」
「これは肉じゃなくてイカだよ。食べたことあるだろ?」
「でも艦だと干し肉がメインだし、基地のまかないじゃ串焼きって出ないじゃん」
基地で出る水兵へのまかないは、煮込みが多い。魚介のシチューもあるが、大量に作るのが大変な串焼きは出たことが無かった。
「やっぱ串焼きは旨いよな! 炭の香りが食欲をそそるって言うか」
「うん、おいしい!」
二人で楽しく歩いていると、不意にヒューイが笑顔のままセオに囁いた。
「セオ、後ろ見ないまま聞いて」
「何?」
全く表情を変えないまま、歩調もゆっくりのまま、だがヒューイは不穏な言葉をの口にする。
「尾けられてる」
「え?」
思わず後ろを振り返りそうになったセオを、ヒューイはそっと手を繋いで止めた。
「あいつらは俺が引きつけておくから、セオは衛兵を呼んできてくれる?」
「だ、大丈夫なのか?」
「うん。多分、狙いは俺だから。あの角まで行ったら、まだ他に買いたい物があるからって言って、ここから離れて、衛兵を探してきてくれないかな」
「で…でも……」
ためらうセオをヒューイは下から見上げた。さっきの粉屋のおじさんにやったのと同じ顔だ。くそう、やっぱりヒューイ、分かってやってやがる。
「セオが頼りだから。お願い」
だがそう言われれば、セオに断れるわけが無かった。ぐっと腹に気合いを入れ、セオはしっかりと頷いた。
「分かった。すぐ衛兵連れてくるから!」
2026.05.08、誤字訂正しました。




