48:軍港
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大きな鳥───に、見える物が2羽、山の奥少しだけ開けた地面に降り立った。一体は確かに鳥だろう。だがその“鳥”には頭が二つあり、体長だけでも二メートルはある、“双頭鷹”という魔獣である。もう一体は鳥ですらなく、背に羽を生やした狼である。大きさは体長だけで一メートル半はあるだろう。こちらも“飛天狼”という魔獣だ。その二体はそれぞれの背に人を乗せていた。そう、双頭鷹の背にはテッドが、そうして、飛天狼の背中に乗っているのはヒューイだ。
二人が降りた山奥には、多くの者達が二人を待ち構えていた。彼らはそれぞれ双頭鷹に騎乗し、二人の様子を見つめている。その男達が、飛天狼の背から降りたヒューイを見て、驚いたように眉をしかめた。
「おい、あれ、海軍の軍服じゃないのか?」
「なんで海軍なんて……」
男達はテッドに連れられたヒューイを誰何し、低いざわめきを繰り返すが、テッドがギロリと睨むとすぐにおとなしくなった。
「それでテッド、何でわざわざ俺を呼んだんだよ」
ヒューイは男達の事など気にしていないようで、不満そうにテッドに文句を言っている。テッドはそんなヒューイには馴れているのか、肩をすくめてから山の頂上を顎でしゃくった。ヒューイと、それから飛天狼も一緒になってその山を見つめる。
「そこに、青氷竜の巣がある。俺らの部隊だけじゃ手に余るんでな。手を貸してくれ」
「竜穴か……」
ヒューイは小さく呟くと、もう一度飛天狼の背中に飛び乗った。
「グランツ、竜穴の中が見たい。上を飛んでもらっても良いか?」
「分かった」
驚いたことに、飛翼狼は人間の言葉で返事をした。巨体に見合わぬ高く澄んだ声だ。ひょっとしたら、見た目の大きさに反してまだ若いのかもしれない。
“グランツ”と呼ばれた飛翼狼は、体長よりも長い翼を大きく羽ばたかせ、ふわりと空に飛び上がる。その様子を、双頭鷹の背に乗った男達が下から見上げていた。
「団長、なんで水兵なんですか」
「アレ、海軍ですよね? 海軍なんて魔獣と戦ったことも無いくせに。何考えてるんです?」
「うるせぇなぁ。こちとら事情があるんだよ」
そう言って、テッドは自分も双頭鷹の背に飛び乗ると、すぐにヒューイに追いつき、その隣に並んだ。
「そら、そこだ」
テッドの指さす先。山の頂には大きな穴が空いていて、その穴は大きな氷で覆われている。そこから冷気が漏れ出しており、靄の向こう、氷越しに何かが蠢いているのが見えた。
「テッド、俺が火をつけて氷を溶かすから、飛び出してきた竜はテッド達で狩ってくれる?」
「なんだよ、俺達の方が大変じゃないか。ま、お前は久し振りの竜退治だからしょうがないか。一応言っておく。気をつけろよ」
「久し振り?」
その言葉にヒューイは不思議そうに顔を傾げ、それから口元に小さく笑みを浮かべた。
「まさか。毎晩のように、魔獣退治をしてるのに?」
「はっはぁ、流しの狩師ってのは、やっぱりお前さんか。だと思ったぜ。やだやだ、若い奴は体力有り余っちゃって。従卒とかしてるのに、ずいぶんと余裕じゃねぇかよ」
「そりゃ、テッド達に散々仕込まれからね!」
ヒューイはそれだけ言い放つと、返事も待たずに竜穴に向かって高度を下げた。それと同時に、山の上にいた男達も、双頭鷹に騎乗して浮上してくる。
「さあて、久しぶりの竜退治だ。お手並み拝見と行こうか!」
テッドの声に、ヒューイも胴を足で締めてグランツに合図を出す。
「行くぞ、グランツ!」
ヒューイが竜穴に向かっていく。爛々と目を輝かせたその顔は、オーリュメール号で見せる優しい笑顔ではない。
それは、魔獣と戦うことに高揚した戦士の顔だった────。
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