3.海釣り
情報を得たものの、やることは結局変わらない。
『釣り』である!
空を飛んでる魚なんて、猫には探しようもないもんね。
猫には釣り友がいるので、声をかけてみんとす。
『エドさんにゃ~ん、海釣りいかがにゃん?』
『ランか。ちょうどよかった、ポーツまで来れるか?』
『ポーツなら行く予定だったにゃ。行くにゃん~』
エドさんは『釣り』好きのアクアリウム好きなので、割とお暇なときに『釣り』に誘ってもらったり、誘ったりしている仲だ。
それにしても、ちょうどよかったってなんだろ?
農業ギルドから畑ワープして、転移施設でポーツへ移動。
潮風よこんにちは。もう秋だけど、ポーツに来るとアロハが着たくなる。
「おう、ラン。来たか」
「お待たせしましたにゃん~」
ギルド前で待ってくれていたエドさんと合流。後ろにはヤマビコさんの姿もある。今日は二人だけかな?
「二人だけなのは珍しいにゃんね」
「今日は釣って食う食い倒れ旅やねん」
「なるほど」
「月夜じゃないが、幽霊船がうろついているって話でな。例のタコなら食べるもよし、また別のイベントなら面白そうだろ?」
「たこパは歓迎だし、本物の幽霊船でも楽しそうにゃん~!」
ポーツに幽霊船がまた出ているとは知らなかったな。いろいろなイベントが同時多発的に出るから、全部を把握なんて到底出来ない。
「なにかクエスト出てるにゃ?」
「いんや、出とらん」
「今のところ、幽霊船の情報だけが一人歩きしてる状態だな」
ほうほう。
街のNPCは幽霊船について認識していて気味悪がっているけど、それをどうしてほしいという話には発展していないんだって。
噂によると嵐と共にやってくる幽霊船は、奇妙な歌をうたっているらしい。そしてその歌を聞いた船は海へ引きずりこまれてしまう、と恐れられているのだとか。
「セイレーンの伝説みたいにゃんね」
「やろ? 蜜蝋の耳栓でも買うとくか~ていうてたんやけど、売っとらんかったわ」
「にゃあ、残念」
「それで、たしか音楽で打ち消すって話もあっただろ?」
「なんか聞いたことある気がするにゃん」
有名なのはオデュッセイアの、船員全員が耳栓で乗り越えるパターンだけど、別の物語では竪琴をかき鳴らして抵抗する展開もあった。たしかそっちは全員が抵抗できた訳じゃなくて、歌に誘われて海へいっちゃう人も出るんだよね。
「ランはたしか、楽師もやってたろ? それで頼めないかと思ったんだ」
「任せるにゃん~!」
そういうことならお安いご用。『トロンポス・ベル』なら大音響なのできっと歌にも抵抗できるだろう。
「そういや、ランは今日は何釣りの予定やったん? また『チッギョ』か?」
「今日の猫は大物狙いにゃ。『テンクウノツカイ』っていう魚を探したいにゃんよ」
「『テンクウノツカイ』?」
はてなマークの浮かぶ二人に、かくかくしかじかにゃんにゃんにゃん。
「魔子族の里の革命か。そんなことになってたんやな」
「天空島っていうから釣りは関係ないだろうとノータッチだったが、それなら面白そうだ」
「にゃあ、依頼受注しておくにゃ?」
「せやな、せっかくだからしとこか」
そんなわけでPTを組んで、猫の『リターン』で魔子族の里へ。依頼を受注して、ホームをポーツに更新してるエドさんの『リターン』で戻ってくる寸法。
二人とも畑持ちの農家ではあるけど、メインの生産は『料理』だったり『木工』だったりの片手間農家だ。最初に観光がてら魔子族の里へ行きはしたが、継続した納品はしていなかったらしい。
「復興全然進んどらへんって話やったけど、結構進んどったやん」
「俺たちが最初に行ったときには瓦礫の山だったからな」
そういえば最初の頃は瓦礫の撤去依頼なんかもあったっけ。猫も何度か受けた気がする。
『混沌の欠片』てアイテムがたまに紛れ込んでいて、これが異様な高値で売れてほくほくだったのだ。混沌系アイテムはいま、ケイオス関連で旬なのである。
さまざまな可能性を秘めたアイテム、と言われているが、今のところ使用方法は不明。猫はさっさと売り払ってしまったので、錬金術で使えるか確かめるのを忘れた。猫ったらお金にまっしぐら過ぎる。また手に入ったら試してみたい。
「食糧は農家神官さんたちが頑張ってくれてるけど、建築資材が足りてないみたいにゃんね~」
「めんどくさい位置にあるから、どうしても遅れは出るだろうな」
お話ししつつ、エドさんが釣り船を出してくれる。なんとエドさん、ついに船を買ったらしい。小さな漁船だが、船を買えるなんて知らなかった。
「ハウジングの一環だ。別荘買って、クルーザー買って、みたいなやつ」
「典型的なお金持ちムーブにゃ」
別荘を買わなくても船が買えることに気づき、スパッと買ってしまったらしい。釣り好きは勢いがよい。
ちなみに船は自動運転。本人が船の上でのんびりしていても目的地までつれていってくれるし、釣りやら遊んでいても問題ないのだとか。もちろん、運転したければ出来る機能もあって至れり尽くせりであるらしい。
「面舵いっぱ~いは一度はやってみたいにゃんね」
「一度やれば満足するやつな」
それはそう。毎回はめんどくさくなっちゃうよね。
「エドが船を買うたら、行けるところが山ほど増えてな。海は広いんやなって再確認したで」
「たしかに広いにゃんね……!」
これまで決まった運航しかしない船での移動しかなかったのだ。他の場所へ行こうと思ったら、船が確率で漂流するのを待つか、海へ飛び込んで一か八かの遭難をするしかなかった。
それが目的地の島までスムーズにいけるようになり、格段に楽になったという。
「メンテはなかなか大変だが、買った価値はあった」
なるほど、釣り好きはいつか船に辿り着くんだなあ。
猫も海は好きだけど、船に手を出そうと思ったことがないので未知の世界だ。とっても楽しそう。
「七つの海を大冒険にゃんね~!」
「釣船には荷が重いぞ」
そんなわけでエドさんの釣船に乗せてもらい、いざ、行くぞ幽霊船探検、ついでの魚釣りへ!
「名前からするとモデルは深海魚っぽいよな」
「『テンクウノツカイ』にゃ? 猫はサーモンみたいだと思ったにゃん」
「サーモンなあ。やったら一匹は捌いてみたいとこやな。とはいえ見た目がわからんとよう探されんし、まあ、釣ってみてのお楽しみやな!」
「フラグが立って確率で釣れるとかだと楽にゃんね~」
魚群ポイントがあるとかで、並んで釣竿を垂れている。
さすがに船のなかではルイに乗るわけにはいかないので、ルイはお留守番。今日のお供はなし。ルビーやレトは嵐が来たら風に飛ばされてしまいそうだし。それに、歌が聞こえたら耳を塞いだ方がいいのかも、となると、従魔は連れてこない方がよさそうだったのだ。
猫、お供なしは久しぶり。
いろいろ釣れて楽しいけど、残念ながら『テンクウノツカイ』は影も形もない。
まあ釣れたらいいな~くらいで、猫もそう簡単に釣れるとは思っていない。待つのも釣りの醍醐味よ。
のんびり釣糸を眺めていると、ゴロゴロと雷鳴と共に暗雲が押し寄せてきた。
「嵐だ」
「おっ、幽霊船のお出ましやな」
「猫の出番にゃんね!」
次第に雨雲は近づいて、船の中にもザバザバと雨が降ってくる。波も風もゆらゆら、立っているのが大変なくらいの揺れ。
あっちへこっちへふらふらしそうなのを、ヤマビコさんが首根っこを捕まえて支えてくれる。さすが盾職、『足場不問』を持っているに違いない。
猫と同じくらい小柄なエドさんはといえば、ぴょんぴょん跳ねながらうまいことバランスを取っている。こちらも手練れ…!
それにしてもすごい雨で、船が沈まないか不安になるほどだ。風魔法の『ウィンドカーテン』があれば雨は防げるのかもしれないが、残念ながら猫はまだ覚えていない。飛び道具の盾にもなるし、覚える候補に入れておこう。
雨風にやられつつ、ギシギシ鳴る船に揺られることしばらく。どこかから、歌が聞こえてきた。
暗雲の向こうから、ギイ、ギイ、と音を立てて黒い影が向かってくる。それは襤褸布のようなマストを立てた1艘の船で、右へゆらゆら、左へゆらゆらしながらゆっくりと近づいてくる。
船には白い人影が何人もぼんやりと浮かび上がっている。そして波音に重なるように、唸るような歌声が響く。
猫たちは目配せしあい、エドさんとヤマビコさんは耳を塞ぐ。猫は『トロンポス・ベル』を構えて吹き始めた。
特に効果のある歌の必要はないので、曲はいちばん長めにリピートされる『リリー・リリー』だ。
流れてくる歌の旋律に、『リリー・リリー』の旋律がぶつかり、重なりあう。
ふと向こうの旋律が止まった、かと思うと、倍の音量になって返ってくる。な、仲間がいるのはズルい…!
ぐぬぬ、明らかに音量で負けている。
このままでは抵抗するのが難しいかも、と思ったそのとき、ざばりとこれまでより大きな波が巻き起こった。
――転覆する!
「……あれ?」
「にゃあ……」
「これは」
思わず『トロンポス・ベル』を止めて頭上を見上げる。うっすらと虹色がかった膜に、船が覆われている。
「シャボン玉にゃ…?」
「みたいやな?」
歌は消えた。でも近くに幽霊船はいて、よくみると幽霊船もシャボン玉に包まれている。
シャボン玉は雨を弾いてくれるようで、ついでに船の中に溜まっていた水もドボドボと外へ出ていく。
「にゃん~?」
「転覆の危険がなくなったのはありがたいが」
「ラン、また変なフラグ踏んできたんか?」
「猫のせいじゃないにゃんよ~!」
なんでも人のせいにするのはよくないと思います!
などとワチャワチャしていたら、急に船が大きく傾いた。
「んにゃにゃにゃ!」
「おっと」
ヤマビコさんは猫を捕まえて踏ん張り、エドさんは器用にトンボ返りしてトトッとバランスを取る。猫、猫も本来ならああいう動きをしないといけないな。
……あれ、猫ってもしかしてどんくさい?
猫が新たに生まれた疑惑に胸をドキドキさせているうちに、船はどんどん傾いて、ついにとぷんと海の中へ落ちていく。
転覆じゃない。船の中に水は入ってこない。
シャボン玉に包まれたまま、船が沈んでいく。
評価、ブクマ、リアクション、感想、誤字報告ありがとうございます。




