2.『テンクウノツカイ』
たとえば、天空の岩石島。
あれは元々魔子族の島とくっついていたんだけど、あるとき不思議な力によって引き寄せられて離れていっちゃったらしい。
一説によると空には異界の穴が開いていて、それに吸い込まれているのではないか……という話だった。
たとえば、天空の湖。
この天空の土星島、空なのに湖がある。底どうなってるんだろうね??
気になるところだが、問題は食糧危機によって魚を取りすぎちゃって、魚がいなくなっちゃったことだ。それでどうしようって相談してる……という話も聞いた。
どうするんだろうね? 魚を他所から持ってくる? あるいは、卵を探して養殖する? どちらも、あるとしたらちょっと面白そうなクエストだ。
たとえば、天空の森。
うん、森だってある。箱庭のような小さな森なんだけど、マレ族という種族が管理しているらしい。魔子族でもマレビトでもなく、マレ族。
このマレ族には異界に干渉する力が備わっているらしくて、天空にある森もダンジョン化してるけど、管理されてて安全なんだそうだ。
いつもなら森の恵みを分けてくれるマレ族なのだが、どうやらそちらにも問題が起きているようで、森から出てこないし、森にも入れない……という状態が続いているらしい。
んんー、どれもとっても気になるにゃん!
ちなみに天空土星島の土星の輪みたいな部分については、魔子族にしか関係ないらしいので割愛。その他の種族は入ることも出来ないので、残念ながら見るだけだ。
見てる分には面白いんだけどね。道というより、塵のようなものが集まって出来ていて、太陽の光をキラキラ反射してきれいなのだ。塵の道だから、魔子族じゃないと歩けないのかもしれない。
最後の商店に荷物を卸し終えて、あんなにあったラコラやお肉たちも完売御礼。あまりのすっからかんっぷりにちょっと清々しくなるくらい。そのぶん懐はずっしり潤ったけども、アイテムが空っぽなのは寂しく感じてしまう。
しかし自由都市にとんぼ返りするのもなあ。
やはり今日はちょっと、魔子族の里を巡ってきちゃおうかな。猫にしては観光をよく我慢した方だと思う。
よし、そうと決まれば観光しよう。
まずは基本の冒険者ギルドの依頼チェックからかな。
実は猫が最初にこの里へやってきたときには、里の建物はグチャグチャ、インフラは崩壊していて冒険者ギルドも動いていなかったんだよね。ホーム更新は出来るけど、依頼やら納品やらは受け付けていなかった。
混沌が天空に近づいたことで、里にある星の結界が壊されてしまい、風と雷にやられてしまったらしい。
混沌っていうのは、最近話題のケイオスってやつかな、たぶんね。どうやら混沌はさまざまなところに迫っているらしく、今後革命――食糧危機がさまざまな街で起きるんじゃないか、という噂。
三大都市が襲われる前にケイオスを倒す方法が知りたいと、連日スレが賑わっている。戦闘職はなかなか大変そうだ。
猫?
猫はほら、エンジョイ勢だから。こないだも勝手に作られたドラゴンレース風猫族杯に遊びにいった程度にはエンジョイしてます。楽しかったな、ニャンニャン杯。
ともあれ近づいた混沌は立ち去って、星の結界が復活した魔子族の里は、順調に復興している。
食糧を納品するとNPCの体力ややる気が回復して作業が進むようになり、建築資材を納品すると施設が回復する、といった具合。
どちらも重要なんだけど、場所が場所なので重たい建築資材の納品は遅れがちで、まだまだ施設は足りない状態だ。
商売してる店舗も、仮設のテントだったり屋台だったり
露店だったりするしね。
猫も『純白ラコラ』の価格が落ち着いたら、建築資材の運搬に携わろうと考えているのだが、なかなか下がらない。
『純白ラコラ』って、バフ飯的には魔力を高める素材らしく、魔子族には人気の食材だったみたい。NPCの好物ってステータスで決まるんだなあと興味深い話だった。
考えてみると串焼き屋台のおじちゃんとかは筋骨隆々としているし、肉はパワー系食材だし、納得感はあるかも?
冒険者ギルドに辿り着いた。
ここも最初は露店というか青空の下に『冒険者ギルド』て看板があるだけの状態だったけど、今は小さなカウンターが出来ている。屋根はまだない。相変わらず青空営業だ。
通常の冒険者ギルドならある依頼や納品について記載されている掲示板もまだないので、依頼については受付さんに話さないといけないのかな?
魔子族は小型種族なので、カウンターも小さい。猫サイズだ。ルイから降りて声をかける。
「こんにちはにゃ~、依頼についてお聞きしたいにゃん」
「はいこんにちは。冒険者への依頼は今のところこのふたつだけです」
差し出されたのは二枚の紙。
ひとつは『湖に魚を取り戻せ!』で、もうひとつは『箱庭の森を取り戻せ!』か。
「納品依頼とかはないにゃ?」
「すみません、まだ我が支部では手が回っておらず…」
「まだまだ大変にゃんね~、了解にゃん」
ふむふむ。
食糧納品もそうだけど、建築資材も冒険者ギルド納品じゃないのか。となると冒険者のランクポイントは入らない。
猫の食糧納品は『商人』と『農家』のジョブランクポイントがわずかながら入るんだけど、建築資材は何が上がるんだろうな? 『商人』は確定だろうけど、職人系は持ってないしな。
しかし微々たるものとはいえポイントも稼げるのだから、革命がプレイヤーにとってボーナスイベントと呼ばれるわけである。
「にゃあ、じゃあその依頼をふたつとも受けておくにゃ」
「了解しました」
納品依頼以外は、事前に依頼を受けておかないと、もしこなしたとしても実績にならない。受けておくに限る。依頼の数に制限はないしね。
あ、でもこれ時限付きだな。一週間以内。それまでに目標に達しないとイベントが進んじゃうやつっぽい。
だから魔子族スレが荒れていたのか、納得。
魔子族スレ、復興が進んでないからもっと依頼受けたり支援やれ派と、知らんがな勝手にやれ派が対立してやたらギスギスしていたのだ。
猫はそういうの苦手なので革命初期にチラッと見てからもう見てないけど、スレの進み具合からするとまだ荒れてるんだろうなあ。大変そう。
依頼の詳細を見てみる。
魚の方は余所から魚を捕まえてきて放して増やすみたいな内容だった。
いいの!? 外来魚じゃない? 自然保護的に大丈夫?? とだいぶ不安になったが、ちゃんと取ってくる種類が指定されていた。
『テンクウノツカイ』という魚を捕まえてきたらいいんだって。
この『テンクウノツカイ』という魚は、大雨の日に天空からこぼれ落ちて下の海に行くことがあるらしい。もちろん卵とか稚魚が、て話ね。成魚は長さ1mくらいあるそう。
で、この卵や稚魚は成長するとやはり大雨の日に天空へ登って帰ってきたりもするらしい。
鯉の滝登りかな? 竜になるの?
本来なら海に落ちた『テンクウノツカイ』は戻ってくるまで放置だが、いなくなってしまった以上、そうもいってられない。回収してきてほしい、という依頼のようだ。
海域の指定はないので、おそらくこの依頼を受けたことで『テンクウノツカイ』と遇えるようになったんじゃないかな。
『釣り』で手に入れるのか、戦闘で手に入れるのかは不明。
もうひとつ、森の方はもっと単純だ。
箱庭の森へ行き、異変を確かめてきてほしい、とのこと。
うーん、こっちは異界だっていう話だし、ダンジョン攻略かな? 魔子族の里は適正LV上だし、玉砕覚悟で一度は挑んでみてもいいけど、後回しでいいか。
しかしこれしか依頼がないってことは、猫が思う以上に復興の進みが悪いってことだ。
これじゃ観光しようにも、被災地の視察みたいなものにしかならないかも。
そう懸念した通り、集落にあたる部分は店舗も家も戻ってる人はおらず、行政施設も青空営業、とても観光なんて出来る状態ではなかった。
にゃん~、これは完全に宛が外れたな。
うーん、よしっ、今日の予定変更。
魚釣りしよう!
まずは湖へ情報収集だ。
猫、今回は観光を我慢して白ラコラの納品に走っていたので、実はまだ湖へ行ったことがない。
天空土星島はそれ自体が箱庭のような島で、コンパクトにさまざまな地形が収まっている。
湖には切り立った崖が付属していて、そこからは滝が流れている。ちなみに崖の裏側は何もないそうで、そこからスカイダイビングが楽しめるとかなんとか。プレイヤー専用というところで色々お察しいただきたい。
近づくと大きな滝の音が聞こえて、ひんやりした空気も漂ってくる。
湖からは細く川が流れていて、天空島の端からこぼれ落ちていく。途中で霧になって消えてしまうらしい。天空土星島は虹とともに見えやすいといわれていたけど、この川の流れが原因なのかもね。
さて、湖にやってきたけど、人の姿がない。まったくない。
魚の話でも聞ければと思ったんだけど、そう上手くはいかないか。
湖の水は澄んだエメラルドグリーンで、はじめから聞いているとおり、魚の姿はない。魚を戻せという依頼なのに釣りをするわけにもいかないし、ここで出来ることは何もなさそうだ。
しかし困った。
これでは『テンクウノツカイ』の情報がまったくないぞ?
一旦、集落の方へ逆戻り。
行政施設の人ならなんか知ってるんじゃないかなあ。
「こんにちはにゃん~、忙しそうなところごめんにゃん」
「いえいえ、大丈夫ですよ。なんでしょう?」
木箱に入れた荷物を片付けていた魔子族がいろいろ教えてくれる。
魔子族、性別はわかりやすいけど、お兄さんお姉さんて感じじゃなくて、魔子族の子って感じがしちゃう。いや働いてるんだから成人してるのは間違いないんだろうけど、サイズがね。小人族よりはまあ、大人びているんだけども。
「『テンクウノツカイ』は空を泳ぐ魚でもあります」
「にゃんと」
完全に予想外の情報が出てきちゃったぞ?
魚釣りだと思ったけど、これってもしかして戦闘で倒して連れてくるパターン?
だとしたら猫にはちょっと荷が重いかも。
「滝を登り、天へ駆け上がった『テンクウノツカイ』だけが卵を生むことが出来るんです」
「にゃあ、厳しい生存競争にゃんね」
「はい。なので連れ帰る個体は、多ければ多いほどありがたいです!」
鯉登りかなって思ってたけど、食べ過ぎちゃってなくなっちゃったらしいし、もしかして『テンクウノツカイ』はサーモン……?
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