幕間:轟けドラゴンレース! 2
「ああっ、なんと美しきターコイズブルー……蒼穹を閉じ込めた孤独なる魂……」
あれから早速、猫はポエムおじさんの元へやってきた。学園都市にいるので、会いに行きやすかったのだ。
ポエムおじさん、実物を見るとおじさんという年齢には見えず、お兄さんなんだけどね。もちろんルイネアだから年齢は見た目以上で、おじさんというよりおじいさんに違いないんだろうけども。
「千年の孤独は神をも癒せぬ……。いずれ生まれ出ずる混沌の心魂を誰が愛そうか?―― 否! 世界が愛するに違いあるまい……!」
おっとポエム続いてた。
『魔法のタマゴ』はたしかにターコイズブルーで、目の覚めるように青いタマゴだ。表面がかなり固くて、鶏卵より大きい。片手(人間サイズ)にいっぱいくらいの大きさ。重量こそ少ないが、持つと少しずっしりした感触がする。
そんな『魔法のタマゴ』をためつすがめつ、上から下から眺めながら、ポエムおじさんはポエムを続けていく。
「天駆ける竜の競う里ならば、『白タマゴ』を求むものもおろう。されどこの青き輝きはおいそれとは飲み込めまい。飲み込むものは、天より恩寵を授かるであろう……」
んん? なんか気になる節が出てきたぞ。
『白タマゴ』を求むもの?
なんだろ、『白タマゴ』を渡せるところがあるなら気になるんだが。
もしかしてポエムおじさんのポエムは何かのヒントになってたりするんだろうか? いや、そうだとしたら『砂漠のバラ』を渡したときのポエムが話題になってないのはおかしいな。
うーん、ただのフレーバーテキスト?
「天駆ける竜の競う里」っていうのも聞いたことないしな。
「にゃあ、天駆ける竜の競う里ってどこにあるにゃん?」
「おや、最近の若者は砂の競竜を知らないのかい?」
「砂の競竜……、ドラゴンレースにゃんね?」
ドラゴンレース。
それは砂漠の街で伝統的に行われている儀式、と伝えられているが、ゲーム的に言えばミニゲームである。競馬ならぬ競竜が出来る街として、一部層に大変な人気がある。
「『白タマゴ』を求めるものがいるにゃん?」
「さあ、私は思いついたことを歌うだけだから」
「にゃん……」
やはりフレーバーテキストかもしれない。でもこうして、具体名が出ると気になっちゃう。
ドラゴンレースかあ。全然ノーマークだったな。
猫、お金はどーんと欲しいけど賭け事にはあまり興味がない。なにせギャンブルって、意外とややこしいものだ。それなら地道に稼ぐ方が楽に感じてしまう。
砂漠の街はまだいったことのない場所だし、観光がてら行ってみるのもいいかもしれない。
「にゃあ、換金ありがとうにゃん~」
「こちらこそありがとう。珍しいものがあればまた持ってきておくれ。とっておきの価格で買おう」
魅惑的なお言葉。
でも珍しいものってなんだろうね。『砂漠のバラ』なんて稼ぎがよくなるくらいよく出るプチレアだし、NPC基準ってなかなか謎だ。『魔法のタマゴ』もルビーの例を考えると、そこまでレアとは思えないしなあ。
そんなこんなでやってきました天駆ける竜の里、ことドラゴンレースの本場、その名もドレイクヴィレッジ。竜の村である。
さぞかしドラゴンがたくさんいるんだろうなあ!という予想に反して、村の中には全然いなかった。というのも、この村で競われているのは地竜ではなく、飛竜の速さなのである。
伝統儀式というだけあって、村の中に競場があるわけではなく、村の外のルートを回ってくるものなんだって。
そしてスタート地点は村ではなく、村の上を飛竜が通るコースになっている。ときどき、飛んでいく竜が見られるらしい。それもちょっとかっこいいな。
竜は村外れの竜舎にいるとの情報を得て、早速村外れへ。
出会えたのは体調を崩してレースをお休みしているという雄竜が3匹、そして抱卵中のため身動きの出来ない雌竜が1匹。
竜の雄は速さを競って縄張りを奪い合う生き物で、子育ては雌にお任せする生態なのだとか。
「体調崩してるなんて大丈夫にゃん? 猫、これでも薬師でもあるにゃんよ」
「大丈夫ですよ。かれらは騎手がバカだから、調子に乗って『竜果』を与えすぎたんです。いくら速度が速くなるといっても、限度ってもんがあります」
竜舎にいた医者はそう言って、具合悪そうにうずくまる竜の背を撫でた。
竜は猫のざっと3倍くらいの体高があり、かなりでかい。猫なんてぺろりと食べられそう。これだけでかくても、名前はフェアリードラゴンという。いやどこがフェアリーなんだろね? 空を飛ぶから?
「にゃあ、ぽんぽん痛いにゃんね。消化不良?」
「いいえ、『竜果』には元々、毒があるんです。与えられただけ食べ続けたら、竜だって中毒になってしまいます」
「薬だって量を誤れば毒になるにゃんよ~」
「そういうことです」
『竜果』って、ドラゴンにとってはそういうアイテムなのか。制限ありのバフアイテムってとこかな?
毒があるってことは、毒薬に加工できたりするのだろうか。いや、あったとしてもそれよりドラゴンに美味しく食べてもらいたい気がするな。
「あっちの竜に比べると、こっちはずいぶん痩せてるにゃん」
「抱卵中は、あまり食べ物を口にしないのですよ。『魔法のタマゴ』だけは別ですが」
「にゃあ、『魔法のタマゴ』にゃ?」
「ええ、抱卵中に『魔法のタマゴ』を食べると、両親を越える力を持つこどもが生まれてくることがあるのです。それを竜も理解しているのか、『魔法のタマゴ』だけは与えると食べるのですよ」
「不思議にゃんね~」
野生下でドゥドゥーを襲ってまで食べることはないらしいが、雄が雌への求婚に『魔法のタマゴ』を渡す、ということはあるらしい。ふむふむ、竜の生態も面白いな。
『白タマゴ』の交換のために来たのだけど、『魔法のタマゴ』もまだ余っている。1個くらい、渡してしまってもいいかもしれない。
「にゃん~、猫、『白タマゴ』と『魔法のタマゴ』と両方持ってるにゃん。竜にあげてもいいにゃん?」
「おお! 『魔法のタマゴ』をいただけるのでしたらありがたい。竜も喜ぶでしょう。それに『白タマゴ』は竜にやると持久力がつくのですよ。もちろん『竜果』には敵いませんが……」
おや、『白タマゴ』も竜のバフアイテムになるのか。それは知らない情報だった。
医者に『魔法のタマゴ』を渡すと、早速抱卵中の竜の前にタマゴを持っていく。卵を温めていた竜はうっすらと目を開けて、目の前のターコイズブルーのタマゴに気がついた。
パチリと瞬膜が開いて、瞳孔が開く。わあ、本当に爬虫類な感じだ。目が大きいので変化が鮮やかに感じられて、ちょっと感動。
竜が鼻先を上げて猫を見た。でかいので迫力がある。
「猫は食べないでほしいにゃんよ~」
「はは。竜は賢いので、誰が『魔法のタマゴ』を持ってきたのかわかっているのですよ。お礼を言いたいのでしょう。手を差し出してみてください」
「に、にゃあ」
そんなことして大丈夫なのか?
不安に思いつつそっと手を差し出してみると、ふんふんと大きな鼻息で臭いを嗅がれたあと、つんと湿った鼻先が甲に当たった。すると、ふわりと金色のリボンが現れて手首に結ばれる。
これは、妖精のリボン!?
え、フェアリードラゴンって妖精族なの!? フェアリーだけに!? そ、そういう命名!?
猫が驚いていると、更に猫の手から5色の光が虹のように立ち上ぼり、くるくると編み込まれながら1本のリボンを形作っていく。そしてそれは再び猫の手首に巻かれて、白い炎のように輝いて消えた。
「ああ、気に入られたようですね。猫さんは妖精族だからでしょう。フェアリードラゴンは妖精族と親しく、友誼を結ぶことがあるのですよ」
「びっくりしたにゃん~~」
竜がリボンをくれたことにもびっくりしたけど、そのあとに光を放ったことにも猫は驚いた。でも、医者には後者の光は見えなかったみたいだ。
これはもしかしてもしかすると、猫の妖精のリボンは進化したんじゃない? 以前は絆が足りないと断られていたけど、今度こそ絆が足りたような予感がするぞ。
「ドラゴンに認められた人には、これを差し上げることになっています」
「にゃん?」
医者が差し出してきたのは緑のロゼットで、どうやらアクセサリーであるらしい。受け取ってみると、『竜の友の証』とある。そのままだな?
「我々人間には竜の友が見た目ではわかりませんから、それを判別するためにお渡ししています。村で役に立つでしょう」
要は、村で特別な扱いを受けられるアイテムであるらしい。入れない場所に入れるようになったり、特殊な売店が使えるようになったりするようだ。
「ありがとうにゃん~!」
「こちらこそ、竜に『魔法のタマゴ』をありがとうございます」
さて用事は済んだし、観光でもしようかな~とうろうろしていると、ふと足元に大きな影が落ちた。
頭上を仰げば、たくさんのフェアリードラゴンたちが空を渡っていく。どうやらレースが始まったらしい。
わあ、フェアリードラゴンの翼って半透明でキラキラしていて、トンボの羽根みたいだ。青空が透けて、水色に輝いている。
巨大な竜の群れの滑空。力強い羽ばたきによる強風、キュルルーッと高い口笛のような鳴き声が響きわたる。
日光を弾いて光る鱗の残像を残して、竜たちはあっという間に地平線の彼方へと飛んでいった。ずっと向こうにゴールがあるそうだ。
座ってるところも大きくてすごかったけど、飛んでいると本当にド迫力だな。これはドラゴンレースに賭け事だけじゃない人気があるのもわかる。間近でゴールを眺めてみたいもの。
………いくか、ドラゴンレース。
いや賭け事はしないよ? しないけどね!
次回、ようやくドラゴンレースへ!
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