幕間:轟けドラゴンレース! 3
「また負けたにゃん~~!」
しないはずだったんだけどなあ!
素寒貧になるほど賭けてる訳じゃないけどちょいちょい負けてしまって、さすがにレース観戦を終えた。いや、奥が深いし、沼が深いやギャンブルは。
トボトボと歩いていると、なんだか騒ぎが聞こえてくる。
「うっ、うう、お腹が痛い!」
「またかよお前、これからレースだってときに!」
「緊張でお腹が痛くなるんだ、仕方ないだろう!」
隅っこでうずくまる二人組。どうやらNPCであるらしい。なんだろな?
「お腹痛いにゃん? 猫がお薬買ってきてあげるにゃ?」
「あっ、いや、ありがとう、でも薬じゃ間に合わないんだ…」
「にゃん?」
うずくまってるひとりの背中を擦りながら、もうひとりが答える。お腹痛い方はさっきまで見ていた騎手に似た格好をしていて、撫でてる方は竜舎で見た服装だ。
察するに竜の騎手と、その竜の担当者さん?
「ソルベの準備は出来てるんだぞ! かわいそうだと思わないのか!?」
「おおお、思ってるよ! いたたたた」
「大丈夫か!?」
緊張で腹痛を起こしてるのが騎手さんで、竜が待ってるからどうにかしろと急かしてるのが担当者さんっぽい。
「魔法ではお腹痛いの治らないにゃん?」
「治ればいいんだけど、そういう魔法ってあるのかなあ…、いたたた」
猫も寡聞にして存じ上げない。
ふと、背中を擦ってあげていた担当者さんが猫を見上げた。そしてアッと声を上げる。
「『竜の友の証』!」
「な、なんだって?」
「にゃあ? さっき竜舎でもらったにゃんよ~」
「お願いがあります!!」
担当者さんは騎手をペイッと転がしたかと思うと、猫の両手をがっと握ってきた。これは…、強制イベントの気配!
「僕の竜を飛ばせてあげてください!!」
「にゃん!?」
どういうこと!?
担当者さんいわく、腹痛騎手が可愛い可愛いソルベちゃん――フェアリードラゴンの雄である――の担当になってから、まだ一度もレースに出れてないのだという。
緊張性腹痛持ちの騎手は常にレース前に腹痛になり、出場辞退が続いているのだとか。このままでは一度もレースに出ないまま、ドラゴンレースの夏を終えてしまう。
「それではあまりにもソルベちゃんが哀れじゃないですか! それなら誰だっていいから――いやよくない――でも竜と絆を結んでいるものであれば! ソルベちゃんを空に飛ばせてあげられるんじゃないでしょうか!」
……というわけである。
「にゃあ、猫、ドラゴンになんて乗ったことがないにゃん」
「ロバに乗れてるんだから大丈夫ですよ!」
大丈夫かなあ!?
いや、うん。たぶん猫の『騎乗』のLVが足りてるからこそ発生してるイベントなんだろうけど。ついでに緑のロゼット、『竜の友の証』が関連してるのもわかる。
それにしても展開が強引すぎる気がするぞ。素人を出場させていいんだろうか。
「何も難しいことはありません。ドラゴンレースは至って簡単、ただひたすら走って(飛んで)ゴールを目指すだけ! です!」
「またそんなこと言って、それだけで済むなら騎手が選ばれるはずないにゃん?」
「もちろん実に奥が深い競技であることはもちろんですが、基本は本当に飛んでゴールを目指すだけなんですよお~」
だからどうかお願いします!と担当者さんは猫に頭を下げる。
ちなみに場所は竜舎。目の前にはどことなくしおしおと悲しげなソルベちゃんもいる。う、うーん。
「勝てば騎手にも大金が手に入ります!」
「やるにゃん~~!」
困ってる人を助けるのも風猫族というものにゃん~!
さて。
そんなこんなでレースのスタート地点へやってきた。
村から見ていたドラゴンレースは、ゴール前の直線が近くで見える配置だった。つまりスタート地点は遠く、解説と映像が出るだけでどこにあるかはよくわからなかったんだよね。
スタート地点、すごい大きい砂丘でした。
ここから飛び下りてその滑空からドラゴンレースが始まるらしい。担当者さんの話によれば、昔は度胸試しの側面が大きくて、村で度胸のある男だけが栄誉あるドラゴンレースに参加できたらしい。
今は老若男女、さまざな騎手がプロとしてドラゴンレースを作り上げている。しかしその伝統枠として、村の若い男はみなドラゴンレースへ参加することになってるんだって。お腹痛い騎手さんは、今夏の村代表のひとりだったというわけだ。
見下ろす景色はなかなかよい。猫、高いところは全然平気。むしろ好きな方。
見晴らしがよくて、村が小さく見える。いや、結構遠いな。レース、思ったより大変なんじゃない?
しばらくするとフェアリードラゴンたちがやってきて、騎手と組み合わされる。猫の横にはソルベちゃん。
そしてレースの準備時間として与えられた時間は、なんと驚異の2分。40秒で支度しな! と言われるよりはまだマシとはいえ、いったいこの2分で何が出来るっていうんだ?
レース開始前の待機所にソルベちゃんと立ちながら、途方に暮れてしまう。なにかお買い物を出来るわけでもなし、誰かと話せるわけでもなし。
ふと隣の騎手を見ると、話しかけながら竜に魔法を掛けていた。
あっ、なるほどバフ!?
バフOKなのかドラゴンレースって!
しかし猫の使えるバフはほとんどが従魔法のもので、従魔にしか効果がない……と思いきや、このドラゴンレースの時間だけ、ソルベちゃんは猫の従魔扱いになるようだ。やったぜ、それなら出来ることがある。
何が役に立つかわからないので、猫の出来るフルバフを掛けておく。
バフ魔法を掛け終えた頃、ちょうど高らかにパパラパーーとラッパの音が鳴り響いた。
「各ドラゴンは前へ!」
今度はドドン!と太鼓の音が鳴り響き、竜と騎手は共に前へ出る。
「騎乗!」
ドドドン! で竜に乗る。ちょっと高さが足りな…、あ、踏み台が用意されている。ありがたい!
階段状の踏み台を使って、ソルベちゃんに騎乗。鞍と手綱がしっかりしているし、不安定さはない。驚くほどしっくりと馴染む。『騎乗』ってすごいんだなあ。
「構え!」
ソルベちゃんが頭を低くして翼を掲げるのに合わせて、猫も体を低くして浮上に備える。空を飛ぶ生き物に乗るのは初めてだ。捕まれたことはあるけど。いやあれとこれでは訳が違う。ドキドキである。
目の前に『READY』の文字表示が出たかと思うと、3、2、1、のカウントダウン。
『GO!! 』の表示と共に銅鑼が鳴り、フワリと身体が浮きあがった。ソルベちゃんが力強く翼を開き、向かい風を捕まえる。
滑空。
「ヤッフーー!」
「やってやるぞーー!!」
騎手たちの気合いの歓声が風の中に聞こえてくる。猫はしがみつくだけで精一杯だ。なにせ速い!! ジェットコースターみたいに滑り降りている。
ふと、ふわりと風の膜が猫を包み込むのを感じた。同時にスピードがほんの少しゆるむ。
くるる、とソルベちゃんの喉が鳴るのがわかった。
「にゃあ…、気遣ってくれるにゃん?」
ソルベちゃんったら賢い。
すごいけど、しかしこれはいけない。騎手の不安や恐怖は、竜に覚られてしまうということだ。
これはドラゴンレースなのに、猫が怯えていては速度が出ない。
いや、別に1位になろうとかは思ってないけど、やはり出たからにはレースを満喫したいじゃないか。
「やってやるにゃん~!」
気合いを入れて手綱を掴み直す。猫を気にしていたソルベちゃんが、空へ視線を向け直すのがわかった。
他の騎手はすでに前へ進んでしまっている。でもレースはまだ終わっちゃいない!
担当者さんによると、ドラゴンレースには四つの段階があるようだ。
まずはスタートの滑空。ここでいかに風に乗るかは竜の性質と騎手との一体感による。
次に直線の羽ばたき。ここは竜のスタミナと騎手の励ましやバフにかかってくる。
次にカーブ。ここでいかにきれいに曲がれるかが騎手の腕の見せ所であるらしい。
最後にもう一度、ゴールへの直線。ここも竜のスタミナと騎手のバフにかかってくる。
猫は騎手としてダメダメだけど、バフなら従魔法で充実している。竜のスタミナやスピードは、従魔と同じくゲージが出ていてわかる寸法。従魔の健康管理なら猫は慣れている。
滑空を終えて、直線の羽ばたきに差し掛かる。
「『スピードアップ』だ!」
「なんのこっちは『スタミナアップ』でいくぞ!」
騎手たちがそれぞれの竜へ魔法をかけていく。スピード派とスタミナ派がいるのか。
スピードを上げればスタミナ消費は増えるが、スタミナを上げてもスピードは落ちない。ここはスタミナか、と思うけどスピードを掛けた竜、速いなあ!
「『スタミナポーション』!」
「こっちは『竜果』だ!」
おっ、アイテムも使えるわけね。それならここは『スピードアップ』で行こう。
「『スピードアップ』にゃん、ソルベちゃん!」
クアッとソルベちゃんが応えてバフがかかり、スピードがぐんと上がる。
強風がびゅんびゅん押し寄せてくる。手綱をしっかり握ってしがみつく。
『スタミナポーション』にはクールタイムがあり、連続での使用は出来ない。使用タイミングが重要になってくる。
スタミナ20%を切ると速度がガクンと落ちるので、その前に使用する必要がある。しかし竜のスタミナを計算すると、スタミナポーションひとつで80%回復。ギリギリを攻めてフル回復を狙うか、無難に90%回復でよしとするか。
クールタイムを考えると一本しか使用出来ないし、これは悩ましいぞ。
バフ飯を利用する手もあるけど、猫は持ち歩いてないんだよなあ。ちなみにこのゲームのバフ飯は、投げつけても効果がある。効果が75%に落ちるのであまり使用されないが、最近実装された「あまりの不味さに死者が甦る」とされる『ププリリ』という食事アイテムなど、ほぼ投げ専用のアイテムもある。なおこのアイテム、生者が食べても悶絶するだけで特殊効果はない。
最近実装されたアイテムは謎の効果のものが多いんだよね。
……と、荷物の中を回想していて思い出した。
『白タマゴ』だ!
持久力がつくと聞いている。ソルベちゃんに卵を投げるかと思うとちょっと絵面に気が引けるが、仕方あるまい。
よしそれなら次のバフを、と思ったタイミングでカーブが迫ってきた。ちょうど『スピードアップ』は切れた。ドラゴンレース中は、バフの効果時間が短く設定されているらしい。
カーブは騎手の腕の見せどころ。猫の『騎乗』技術を見るがいい!
必殺、全てを任せて身を委ねる!!
………いやあ、ロバのルイもフルクのリカもお任せでいい感じに連れていってくれるものだから、猫、操縦しようと思ったことがなくて……。
手綱をゆるく握って身を低くし、膝の力を抜く。するとソルベちゃんはぐんと身体を伸ばすように縦に長くなりカーブへ突っ込んでいく。
そ、その速度で大丈夫かソルベちゃん!?
カーブの曲がり方にはそれぞれの竜に個性があった。トップスピードで突っ込んで180度曲がるもの、速度をゆるめて最小のロスで曲がるもの、その中間。
ソルベちゃんは180度タイプかと思いきや、途中で翼をわずかに膨らませて減速し、思いの外きれいに曲がりきった。
曲がりきったタイミングで速度が完全に落ちてしまっているが、そこは猫の出番だ。
「『スタミナポーション』に『スピードアップ』にゃん!」
ソルベちゃんの翼が力強く空を叩き、一気にトップ争いへ躍り出る。速いぞ、ソルベちゃん!
とはいえ、5頭の竜が並んでいる。まだまだ勝敗はわからない。
最後の直線、どの竜もぐんぐんスピードを上げていく。スタミナは前半の比ではないほどガンガン減っていく。
『スタミナポーション』温存しておいて正解だったな。いや、でもこれはスタミナがゴールまで持たないかもしれない。
しかし幸いにして『白タマゴ』はたくさんあるし、クールタイムもない。
「『竜果』! 『竜果』!」
隣の騎手が『竜果』を連続で与えて、竜がスピードを上げた。なるほど『竜果』のバフ効果がすごい。
猫は持ってないから地道に『白タマゴ』と『スピードアップ』で対抗だ。
トップは『竜果』を与えられている竜。
ワーーッと歓声が竜や猫たちを包み込む。
ゴール前、ドラゴンレース観戦場になっている村の上を飛んでいるのだ。
いやあ、さっきまであそこにいたのに思えば遠くまで来たもんだ。
2位以下は猫たち含め4頭団子状態、1位は独走。
このまま決着が着くかと思ったとき、1位の竜が急にふらついてコースアウトした。
チャンス到来!?
しかし『スピードアップ』の効果時間中だし、重ね掛けはしても意味がない。スタミナは十分。あとはソルベちゃんにお任せするしかない。
……いや、本当にそうか?
もうひとつ、猫には出来る魔法があるじゃないか。
「――『キャリッジ』にゃん!!」
本来は荷が重ければ重いほど速度が出る魔法だが、荷が少なくても騎獣の速度を増す効果がある。
わずかながらソルベちゃんがスピードを上げ、猫たちはトップへ――
「惜しかったにゃん~~!!」
いやほんと残念。勝ったと思ったんだけどなあ!
隣の騎手が温存していた『竜果』を与えて、急激なスピードアップ。さすが竜専用のバフアイテム、猫たちの微々たるバフでは敵わなかった。
くぅ、次があるとしたらフル重量で挑みたい……、いや、それは竜に対して負担になるか。
「ソルベちゃんに負荷なくレースを終えてくれたことに感謝ですよ! 2位でも十分素晴らしい! 快挙です!」
担当者さんはソルベちゃんが無事レースに出れたことでニコニコだ。
途中でトップがコースアウトしたのはやはり『竜果』の中毒だそうだ。過ぎたるは猶及ばざるが如し。
「『竜果』は癖になるから、竜の望むままにあげてはいけないんですよぉ」
「好物が毒物なのも良し悪しにゃんね~」
なお1位を獲ったのもプレイヤーだったらしく、大金を手にしていた。猫も2位賞金もらったけど、1位と2位では桁が違う。あと少しだと思ったからこそ悔しい。猫にも『竜果』があれば……!
いや、でもドラゴンレースに出るなんて予想もしてなかったもんね。やはり不測の事態に備えて、荷物にはいつでもなんでも詰めておくべき。
竜舎の上をフェアリードラゴンたちが通過していく。
観戦も参戦も奥が深いドラゴンレースだった。収支もプラス、来てよかったな。
さて、次はなにしようかな~~。
1.4倍くらいに増量でお届けしました。
次回はもう1本の幕間、久しぶりの掲示板回です。
評価、ブクマ、リアクション、感想、誤字報告ありがとうございます。




