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狂い花のスイートピー

主人公の敵になる人間の過去の話です。

主人公に憧れていた。いつでも笑顔でいる主人公が眩しく見えた。悲しい思いをしたとしても、立ち直れるその強さが羨ましかった。俺は主人公になりたいのだ、と母さんに伝えたら、人は誰しも自分の物語の主人公なのよ、と母さんは言う。俺は思う。俺自身の主人公になりたいんじゃないのだと。俺は主人公に憧れているのだと父さんに伝えたら、どんな主人公になりたいんだ?と父さんは逆に俺に尋ねて来た。どんな主人公か。主人公は主人公だ。でも、どんな主人公でも良かったのだと俺は気づいた。主人公達には個性はあるが、1番の共通点もある。それは、いつでもその物語の中心に立っているということ。どんな主人公だろうが、主人公を中心に立たせて物語は進んでいくのだと。なら俺は、誰かの中心になりたかったのか。いいや違う。いつだって、友情や絆や縁があり、どんなことがあろうと最後には立ち上がり、勝利する主人公が好きなのだ。あの眩い笑顔を見せる、主人公が好きなのだ。ならばきっと俺は、勝利し、いつまでも諦めず、笑顔を絶やさない主人公になりたいのだ。そう、俺は思っていた。


主人公になどなれないのだと、1番最初に気付かされてしまったのは、化け物が妹を襲っている時。俺の両親は仕事でどっちもいなかった。俺と、妹の2人だけが家にいた。特に会話もなく、テレビを見ていたその時、騒音が耳に届き、その音の主はなんなのだろうかと妹と見に行って、それで、妹が化け物にぶっ飛ばされた。あの時俺は、ぐったりとしている妹から出ている血を見えて、咄嗟にやめろ!と叫んだその瞬間、化け物は動きを止めた。なんで化け物が動きを止めたのかなんてわからなかった。でも、化け物の動きが止まったことが酷く不気味で。あの時、俺は必死に妹を起こして、妹の手を引いて、走っていた。周囲のことなんて気にも止めずに。誰かの叫び声は、響いていた。


妹の目は、手を引っ張っている俺を見ていたはずなのに、俺の事なんて写ってなかった。ただ、妹の目は俺を写しているわけじゃなければ、俺以外を写しているわけでもなかった。何も写ってなどいなかったのだ。妹の目は、忙しなく動いていた。



両親は俺たちには秘密の話をしていた。どこか暗い顔をしていたのを俺は、俺たちは見て見ぬふりをしたのだ。その日、父さんと母さんは大事な話があるからと、俺たちに小遣いを渡しておじいちゃんの墓参りに行かせた。いつもは40分かかる道のりを35分で歩いた。途中の花屋で適当な花を買って。もう夏だったからか、もの凄く暑かった。俺と妹の間に会話なんてなかったからか、ミーンミーンと鳴くセミの声がやけに大きく聞こえた。


おじいちゃんのことが、俺は大好きだった。おじいちゃんは俺たちに色んなことを教えてくれた。竹とんぼや、紙風船の作り方、コマの回し方。将棋崩しや、オセロのやり方だっておじいちゃんに教えて貰った。大好きだった。死んでしまったのは、1年前。やけにセミの声がうるさかったのを覚えている。その日、やけに空が青く見えたのを、覚えている。その時の俺は妹と手を繋いでいた。妹は、ただ目の前をじっと見続けていた。妹の目は、揺らいでなどいなかった。


花立の中の枯れた花をとり、濁った水新しい綺麗な水に変えて、花屋で買った花を挿す。妹と2人、おじいちゃんの墓の前に並んで、手を合わせる。目を瞑って、中指を鼻にくっつけて、心の中で俺は元気だよ、と言う。父さんも母さんも来れなくて、ごめんね。2人だけで寂しかったらごめん。また来るから、と簡潔に言って目を開ける。妹の方を見ると、ちょうど目を開けるところだった。妹はこっちを見て、


「お兄ちゃん、行こう」


と感情を感じられない声で言って、俺に手を差し出す。俺はその手と自分の手を繋いで、歩き出した。俺に手を差し出した妹は俺の前を歩くことはなく、俺が妹の手を引いて歩いていた。おかしいな、なんて思っても何も言わなかった。無言こそが俺と妹の会話で、何も考える必要のない、俺たちだけの時間だったからだ。俺に手を引かれて歩く妹の目は、揺らいでいた。



父さんと母さんの秘密の話は、まだ終わらないらしい。これから大事な話をするから外で遊んでて、と俺と妹を家から追い出すかのように、またお小遣いを手に握らせた。目の前で閉じていく玄関のドアを見て、寂しいな、と思った。父さんと母さんの秘密の話し合いが終われば、俺は、俺たちはまた笑顔で過ごせるんだろうか。


「お兄ちゃん、行こう」


なんの感情も浮かんでない目で妹は俺を見て、そう言った。手は、また俺に差し出されていた。俺はその手をとって、妹の前を歩いた。


「……何か欲しいものある?」

「特にはないかな」

「じゃあ、お菓子でも買って食べよっか」


それ以外の会話はなかったし、しようともしなかった。……妹の目は、相変わらず揺らいでいた。俺のことも、俺以外のことも何も見ていなかった。最近そんなことが増えてきたな、なんて思いはしたけど、どうでも良くなった。きっと、これからどれだけ時間が経とうとも、いつか俺にその理由を話してくれるだろうと、妹のことを俺たちを放っておく両親よりも信用していたから。俺の気持ちの天秤は、狂ってしまっていた。


公園のベンチに2人仲良く座って、ビニール袋をガサゴソとあさる。妹はぶどう系のお菓子を、俺は沢山入っている飴を買った。妹はぶどう系のお菓子を好んで買う。それ以外を買うところなんて滅多に見れない。俺は、長く楽しめるお菓子が好きだ。だから、沢山入っているお菓子をよく買う。公園の遊具で遊んでいる、妹と同じくらいの年齢の子供たちが遊んでいた。子供たちの楽しそうな声がこっちまで届いていた。前の俺だったら羨ましくなってたのかな。でも、今は……。



そういえば、今日は妹の誕生日だったなと思い出した。父さんも母さんも、もちろん妹も何も言わなかったから。まだおめでとうって言ってない。言わないと。そうだ、誕生日プレゼントは何がいいんだろう。何が好きだったっけ、なんて考えながら財布を持って家を出る。最近妹は何が欲しいかなんて言わないから、妹が何が欲しいのかなんて分からない。シンプルに花でいいかな?ずっと残るものじゃないけど、咲いている時はとても綺麗だから。なら、前に行った花屋に行こう。きっとそこに、いい花があるから。


ピンク色や紫色の、カラフルな花束を買った。花言葉は、蝶のように飛躍する、らしい。妹がそういうのを好きだったかどうかなんて覚えてなかったけど、俺はその花を可愛いと思った。妹がこの花をどう思うかはわからないけど、きっと喜んでくれると思う。


家は、静まっていた。人の気配がなかった。家の中は、いつもと同じはずなのにどこか暗くて、不気味だった。玄関には誰の靴もなかった。靴を脱いで、ロビングを目指す。いつもなら、そこで妹が静かにニュースを見ていたから。……そこに妹はいなかった。右手に持っていた花束を落として、家中を探し回った。妹の部屋は、もぬけの殻だった。


呆然としていた。どのくらい時間が経ったのかはわからなかったけど、父さんが帰ってきて、俺を抱きしめながら言った。


「ごめんな」


と。何度も、何度も言っていた。妹は?母さんの部屋も何もなかったけど、どこに行ったの?疲れてしまったのか、俺は眠くなって、父さんの腕に身を預けて眠りに落ちていった。それは、秋のことだった。



主人公になんてなれないんだと、俺たちの間から笑顔が消えてしまった時にはもう、わかっていたのだ。俺が目指す主人公像には、笑顔は欠かせないものだった。その笑顔が、壊れてしまった。そして俺は、父さんに抱きしめられた後、何処に行ってしまったのかわからない妹に会うことを諦めてしまった。俺は……。


主人公に、なりたかった。

主人公にはなれないのだと、理解してしまった。

諦めて、しまった。


家族の中で1番好きだった妹に会うことを、諦めて、しまった。妹の揺らいだ目を見ることは、なくなってしまった。



なぁ、たすけて、助けてよ、主人公。どうしようもない俺を、どうか救ってくれ。

スイートピーの花言葉には、蝶のように飛躍する、というのもあるらしいです。また、他にも、さようなら、門出、別離、永遠の別れなど。

スイートピーの花束はとても可愛いですよ。

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