第三十七話《六夜ライグルⅢ》
「《ストーングライア》!」
「《機械ノ魂》、マシンガン!」
「………《影ナル光》」
飛行船の外でも、魔力が吹き荒れていた。
飛行船を天狗が風で支え、ノエルが重力で飛行船を持ち上げ、千堂と輪廻と笹椿が教会の兵を蹴散らしていた。
ちなみに、ゼアルとは連絡すらつかなかった。
「おい、あのSクラスの二人はともかく千堂までパワーアップしてね?」
「まぁ、奴も激戦をしてきたからな。魔力の総量が上がっていても不思議じゃあない」
ノエルも天狗も雑談出来るレベルで敵兵が近寄って来ない。いや、近寄れない。
笹椿は影の魔法。輪廻はソウルズ系魔法のマシンナーズソウルズ。千堂は石魔法。
笹椿と千堂は魔力で構成された魔法を使うため、有る程度は魔素防御服や魔力でダメージを軽減出来るが、輪廻は実弾ーー完全なる物理攻撃だ。魔素防御服など紙に等しい。
「いっけええぇぇ!ミサイルソウル!」
外からとんでもない爆撃音。
どうやら、輪廻がミサイルをぶっ放しやがったらしい。爆風の影響で飛行船が揺れ、慌てて天狗が気流を操作する。
「あの女、めちゃくちゃしやがる……」
「私たちの中で、めちゃくちゃで無い奴など知らんぞ」
ノエルはげんなりしている天狗に苦笑する。
しかし、こうも雑魚兵しかいないと逆に不安になる。おそらく、《十字軍》の本隊はこんなものではない。
幹部クラスの魔力を放っていたあの五人。間違いなく、奴らは本隊だ。
だが、それとは別にノエルは嫌な予感がしていた。
いつか感じていた、あの感覚。
それがなんなのかは分からないが、《十字軍》本拠にはノエルの知り合いがいる。そんな気がしてならなかった。
「……ん、……さん、姐さん!」
「ふあっ!?」
いかん。思わず変な声が出た。
羞恥に顔を赤くし、自分を呼びかけた声の主である天狗をキッと睨みつける。
天狗は若干ビビりながら、飛行船の前を指す。
そこには、天空に建つ巨大な柱が存在していた。
同時に、恐ろしいまでの魔力も。
「……あ、姐さん……………」
「…………ば、バカな……なんだこの魔力は!?麒麟クラスだぞ!?」
そう。天空にそびえ立つ塔の上ーーそこにあるのは、麒麟クラスの魔力。
しかも、これはノエルの知っている魔力。まさか。
「……し、シュドナイ……!?」
あの麒麟同様に神を身体に宿し者。まさか、麒麟はこいつに負けてあの傷を?
(いや、それは無いか。もしシュドナイが麒麟とやり合っていたならば、シュドナイもただではすまんはずだ……)
しかし、感じる魔力は確かにシュドナイのものだ。ならば、麒麟がやりあったのは別の人間?
思考が働いたのはそこまでだった。瞬間、天から全てを貫かんとする雷の槍が降り注いだ。
「【アテナの聖槍】かッ!列連!」
「わかってるよッ、姐さん!」
九々津の【混沌の咆哮】にも劣らない威力だ。天狗は必死で風を操り、ギリギリで飛行船を回避させた。
だが、シュドナイもまだまだ本気ではない。おそらく、あの威力で抑えたということは、連発してくる。
ノエルの読みは当たった。すぐさま光の奔流が再び降りてくる。
「バズーカソウル、一斉乱射ァァ!」
「【シャドウエリミネイト】!」
輪廻と笹椿だ。
外から聞こえてきた魔法の破砕音がすると、光が消えた。
なんと、あの馬鹿げた威力の魔法を二人がかりとはいえ相殺したのだ。だが、すでに二人とも戦えるほど魔力を残すなら、限界といっていい。
「天狗ッ、まだ教会には着かんのか!」
「もうアイデアル大陸が見えた!もう少し、もう少し耐えてくれッ」
飛行船は天狗がほぼ全速力で教会本部のあるアイデアル大陸に向けて進んでいる。
しかし、空から落ちる雷はそんなものを待つわけもない。再び【アテナの聖槍】が落ちてきて、今度はノエルが重力で逸らす。
だが、それだけでもかなりの魔力消費だ。もう、防ぐのは無理だ。
「これ以上は持ちません!」
「わーってるっ…てぇのぉぉぉぉぉぉ!奥の手ッ、行くぜ!掴まれ!」
ーー風よ、空気よ、空よ。
ーー無限の果てまで連れてゆけ。
ーー世界の果てまで連れてゆけ。
静かに滑らかに、天狗が唄う。
高位魔法発動の引き金となる詠唱だ。
「奥の手ッ、ーー【風は我を運び去る】!!」
瞬間。
ノエル、輪廻、千堂、笹椿の世界は、ブレた。
まるで新幹線に乗ったときの風景のように、世界が流れてゆく。その速度は、ほぼマッハと化していた。
「れ、列連先輩!ちょっ、速っ、速すぎ!?」
「やかましいっ!こうでもせんと避けれねぇよ!」
流れてゆく恐ろしいまでの飛行船は、【アテナの聖槍】を振り切って進んでいく。
右に左に、しかし後ろには下がらずひたすら突き進む猪突猛進の勢い。
そしてーー
「教会にーー突っ込むぞ!」
飛行船ごと、文字通り教会本部に突っ込んだ。
ステンドグラスと魔導石の欠片が土煙と共に宙を舞う。
半壊した飛行船から全員が脱出し、そして教会の中にいたのは。
「回答します。ーーお待ちしておりました」
「貴様か、猫女……ッ!」




