第三十六話《六夜ライグルⅡ》
「うぐお、おあ、あああ……!離せ、天狗……!」
「馬鹿馬鹿、動くなぁ!?死ぬぞお前!」
ヴェルゼバブが九々津の身体に戻ったことで魔力の総量が増加し、さらに魔力回復力も劇的に高まったことで、作戦決行の日に九々津は意識を取り戻していた。
しかし、とてもではないが動ける身体でもない。それでも無理に立ち上がろうとするのを千堂と天狗に押さえつけられていた。
「お前阿呆か!?魔力欠乏状態に加えてその大怪我、刹那岬ちゃんと聖属性の魔力、まだ身体の中に残ってんだろ!」
「ざっけんな!だいたいの話は聞いた。刹那岬、渡しちまったのは俺の悪魔なんだろ?なら、俺が行かなくてどうする!」
「やかましい!さっきまで死にかけてたお前が行ったところでなんになるって言うんだ馬鹿野郎!」
千堂と天狗の言うことは、最もだ。今でも、まだ左腕と右足にかなりの違和感があり片耳は聞こえず、左眼はぼやけて見える。どう考えても、戦える身体ではない。
「……刹那岬ちゃん助けたいなら。治して、俺らを追ってこい!」
天狗が、吠えた。
九々津は、俯いて頷くことしか出来なかった。
千堂と天狗が病室を去ったあと、ノエルが来た。ノエルは、新魔法の開発に成功したらしく、代償として少し消耗しているのが分かった。
「……七大罪。落ち込むな。お前の気持ちは、分かる」
「落ち込みもする。……なんでお前らが戦ってるときに、呑気に点滴打ってんだよ俺は」
「それが嫌なら、文句言わずとっとと魔力を回復させろ。ヴェルゼバブがいるなら、食って回復も出来るだろう」
「……分かったよ、分かった。くっそ、情けねえなぁ」
九々津はそれ以上言わず、咲希の見舞い品の中からチョコレート菓子をつかみ取った。
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「……揃いましたね、みなさん」
集まったのは、六人。
麒麟、ノエル、天狗、千堂。
そして、灰色のポニーテールの少女ーー救世 輪廻と黒いフードで表情を隠した長身の少年ーー笹椿だ。
二人は、月読学園の中でも規格外とされるSクラスだ。
「うっし! 悪たる十字軍の殲滅とは、燃えますね!」
「……………………………」
やる気に満ちている輪廻と、無言の笹椿。対照的だが、雰囲気は強者のそれだった。
輪廻は天狗、千堂、ノエルに向かって丁寧にお辞儀をした。
「初めまして!救世 輪廻と申します!この度、悪の殲滅のために力添えに参りました」
「…………………笹椿。よろしく」
「……また、個性的だな」
「ですが、実力は保証いたしますよぉ」
苦笑するノエルに苦笑で返す麒麟。そんなことはノエルも重々分かっている。
さて、問題は、目の前にあった。
「私たちの動向。悟られてましたね」
麒麟たちがいるのは、第七区にある魔導飛行船離陸場だ。魔導飛行船で、なるべく魔力のロスを少なくして敵地まで向かうつもりだった。
ーーしかし、教会側がそれを察知してか。
離陸場に、およそ数百の敵兵を差し向けてきた。
「……雑魚が数百。あなた方は、飛行船で予定通り向かって下さい」
「え、麒麟校長は!?……まさか、あの数とやる気か?」
「そのつもりです。……さぁて、久々ですが、負ける気など皆無ですのでぇ」
ケタケタ笑う。
数百の兵を前にしてこの余裕は、やはり神使いとしてのものか。
「さぁさぁ、さぁさぁ、舞いましょう。ーー燃え咲け、《朱雀ノ焔羽》!」
背中から、紅に燃え盛る二対の炎の羽が生える。それは、全てを燃やし尽くす神の翼。
ケタケタケタケタ笑うのは、神の化身。
「行きなさい!……必ず、刹那岬さんを助けて!」
もう、五人は何も言わず駆け出していた。
後からくるであろう一人の少年と、神使いを信じて。
ただ。走っていた。




