第三十一話《刹那岬メランコリックⅨ》
更新さいかーい!o(`ω´ )o
ーー戦闘開始から、およそ三時間。
魔法都市及び一般地区の凄まじい数の魔獣の掃討は、まだ三分の一すら片付いていなかった。
こんな時に限って麒麟はいない。いや、こんな時を狙って襲撃してきた、というべきか。
「あーあーあーあー、何体いるんだよこれ……。俺の魔法でも把握しきれねぇとか、どうなってんだ」
魔法都市で最も高い場所に位置する、魔法羅針盤が設置された時計台の頂上で、天狗は【風の言霊】を限界まで展開し、演算能力の全てを駆使していた。
しかし、それでも把握しきれない数。尋常ではない。
「……加えて、六夜並の魔力反応が、六夜とは逆方向にもう一つ。多分、天満だろうな」
というか、天満と六夜以外にこの馬鹿げた魔力があってたまるか。
しかし、一応はその魔力の持ち主を特定しようとして【風の言霊】の密度をあげていくとーー。
「ガラァァァァッ!」
「ぎゃあああっ!?」
密度を上げたことにより、範囲が狭くなっていた【風の言霊】の範囲外から魔獣が突っ込んできた。しかも、AAランクの魔獣。
天狗は、情報能力にこそ長けるが戦闘能力は低めだ。
慌てて回避するも、すぐさまその魔獣は攻撃を仕掛けてくる。
「【ストーンヘンジ】ッ!」
人型の魔獣の斧が、立方体の頑強な石によって阻まれる。
立方体の石は細かく、十分の一ほどの大きさに分裂すると、弾丸のように魔獣に向かって跳んでいく。
石の弾丸は、動き回る魔獣に合わせるように宙を舞い、ぶち当たる。
魔力の篭った石を全身に食らったことにより、魔獣は墜落していく。
「助かった、千堂!」
「阿呆、周りにも警戒しろ!それで、天満の居場所はわかったのか」
「あぁ、わかった! 今すぐ六夜に伝えーーっ!?」
魔獣が見えなくなった次の瞬間、天狗と千堂の全身に、凄まじい負荷がかかる。
二人は耐え切れず、地面に倒れ伏す。
「が、あっ……!? な、なんだこれ……!?」
凄まじい重力場。おそらく、これほどの重力は六夜でもそうそう出せないだろうが、しかし重力使いなど六夜以外思い浮かばない。
それに、不思議な感覚がする。まるで、重力というより、地球そのものに押し付けられているような感覚。
そして、数秒後にその魔法は消え、身体は自由になる。
起き上がり、辺りを見回せば魔獣はほぼ全滅していた。かなり広範囲へ打ち出された魔法らしい。
「……まさか、あいつ新しい悪魔が覚醒したのか……!?」
「正解だ、天狗」
ふわり、と扇情的なレオタードを着た女性ーーノエルと共に、天狗の前に九々津は降り立った。その目と髪はは紫に染まっている。
明らかに、悪魔の王とも重力の悪魔とも異なる悪魔だ。
「ろ、六夜。お前、その悪魔は何なんだ……?」
「マモン。略奪と強欲の悪魔だ。……主に、吸収系や模倣系、合成系の魔法が得意な悪魔だ」
「……ドレイン、コピー、ミクシムって……。またエグい能力の悪魔だな……」
やはり、先ほどの魔法は吸収と合成の二つの魔法を使ったのか。
地球の重力を『吸収』し、ベルフェゴールの重力魔法と『合成』。
単体ではほぼ戦闘能力はないが、他の悪魔と組み合わせればかなり強力だ。
「実は、マモンは陽見池のヴェルゼバブを抑えた時から微妙に覚醒してたんだ。力を貸してくれたのは初めてだけどな」
「……マジか……つーか六夜!それはそれでスゲーが、こっちもスゲーぞ!」
「なんだ、やかましいな」
「天満らしき魔力を見つけた!つーか、ありゃ絶対に天満だ! お前と天満、麒麟校長以外にあんな魔力あってたまるか!」
天狗は六夜の頭に触れ、情報を一気に流し込む。
膨大な情報量に、九々津も一瞬だけ意識が揺らぐ。が、すぐに意識は晴れ、天狗の情報の全てが六夜に渡る。
瞬間、六夜の顔つきが明らかに重いものへと変わった。
「……なるほど、確かに凄まじい魔力だな。しかし…どうにも、引っ掛かる」
「引っ掛かる? ……何が?」
「あの策士が、こうもあっさりバレるような隠れ方をするか?」
言われてみれば、と天狗は思った。確かに、全方位を調べたがそれにしてもあっさり見つかり過ぎている。本当に、天満なのか?
ーー魔力は、どんどん大きくなっていた。
ーーーーー
「…………」
暗い隔離室の中、一人の少女はその隅っこでぽつりと体育座りをして俯いていた。
魔法が使えないから、ここに匿われているのだ。
「……私、本当に役立たずだな…。なんで、こんなときに何も出来ないのかな……」
少女ーー刹那岬は、誰に聞かせるでもなく独白した。
第二次覚醒。
そんな凄い力があるのに、どうしてこの力を使いこなせないのか。どうして、使ってはならないのか。
魔法とは、人々のためにあるもの。
それは、一人の《魔法撃退師》が教えてくれた言葉。
人々のためーーなのに、どうして自分はここで座っているのか。
この魔法を封じているリングさえ壊せれば、今すぐにでも彼のもとへ向かえるのに。戦えるのに。
きっと彼は優しいから、仕方ないだとか、お前はお前で頑張ってる、とか、そんな優しい言葉をくれる。
でも、欲しいのはそんな言葉じゃない。
前みたいに、よくやったな、強かったと言って欲しい。撫でて欲しい。
あぁ、愛しい彼のもとへ向かいたい。
なんで……私はここにいるの…。
「……出して」
返事はない。代わりに、自分の声だけが無情に響く。
「…出して。出して、出して、出して……出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して出してェェェ!!!なんでっ、なんで私はここにいるのっ!!先輩のっ、先輩のためだけに私はいるのに!強くなれたのに!!なんでなの、なんでなんで、なんで……!!!」
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ!
魔法の使えない、脆弱な両手で重い扉を思い切り叩きつける。
扉は、閉じられたまま刹那岬の声が届くことはない。
刹那岬はズルズルのへたりこみ、涙を流していた。
「……先輩……。私、やっぱり役立たずです……。こんなの、いない方がいいんです……」
刹那岬は、その魔法性ゆえに人一倍頑張ってきた。ソウルズ系の魔法は、人体とは異質なものを身体に合わせるため、苦痛を伴うものも存在する。それは、刹那岬の【アニマルソウルズ】も違いはない。
それでも、強力かつサポートも出来るーー最強と呼ばれた九々津と相性のいい魔法だからこそ習得出来た。
なのにーーどうして、私は今、彼の隣にいないの?
「……もう、どうしていいのか…わからない……」
『なら、教えてあげる。与えてあげる』
ーー不意に、頭に声が響く。
優しい、優しい女性の声。
刹那岬はハッとして涙で濡れたままの顔を上げる。しかし、どこにも姿は見えない。
『力があるならば、使えるようにして上げる。愛しい彼のもとへ飛び立つ羽があるなら、広げなさい。私がーー手助けをして上げる』
声が響くと同時、閃光を撒き散らして腕の魔法封じのリングが砕け散る。
そして、封じこめられていた魔力が一気に刹那岬へと戻っていく。
そして、新たな魔力もーー。
『我が名は、マギディエル!燃え焦がれし恋を叶えし者……さぁ、飛びなさいツバメよ。貴女には、その翼があるはず』
そして、刹那岬が手にした翼は、以前のような脆弱なものではない。
光り輝く、大鷲の翼。
一人の恋焦がれし少女が、今宵その檻を壊して抜け出す。
愛すべき彼のもとへ向かうために。




