第三十話《刹那岬メランコリックⅧ》
「【グラビティ・バレット】!」
「【マーズメテオ】!」
紅の灰色の弾丸が無数に空に飛び交う。
九々津とノエルの担当するポイントでは、凄まじい数の飛行系魔獣が群れていた。
空を覆い尽くし、堕としても堕としても切りがない。
「くっそ、多過ぎんだろが!」
「間違いなく、天満の召喚魔法だな。あいつ以外、これほどの量の魔獣召喚を行える男などいるものか」
肩で息をしながら、ノエルがハンマーで水色の空飛ぶ人喰い兎ーーウィンドラビットの頭をかち割る。
九々津はギア・マンーー頭が歯車の男に向けて回し蹴りを放つ。
背中合わせに二人は戦って死角を無くしていたが、それ以上に疲弊してきている。魔力はまだまだあるが、休む暇がない。
受け止め切れない魔獣により、街が壊され、九々津の苛立ちは募るばかりだ。
「くっそがァァァァァァ! 出てこいよ、天満ィィィィィィ!」
本来は虚空であるはずの、魔獣で埋め尽くされた空へ向けて九々津は吠える。だが、その嫌味な眼鏡スーツの姿は現れることはない。
九々津は我武者羅に魔法を放ち、次々と撃ち落としていく。
だが、黒く染まった空は、未だ晴れない。
「よせ、七大罪! 魔力の無駄だ!」
もはや魔法とも呼べない魔法を構築し、放ち続ける九々津に見兼ねてノエルが止めに入る。
確かに、このまま放ち続ければ、九々津と言えど魔力切れをおこすだろう。
だが、それでも。
「分かってる! けどよ、負けたくねぇだろが!」
「ま、負け……? お前は何を言って……」
「負けなんだよ! 今、撤退すれば市街は魔獣の巣窟になる! 掃討はすぐ済むかもしれないけど、家なんかは粉々だ! 天満が何をするつもりなのか知らねぇけどよ、それは確実に負けだろがッッッ!」
「な……!? お前、馬鹿か! 今、意地をはってどうする! 例え負けてしまっても、総合的には勝利だろう!」
「総合とか単体とかそんな話をしてんじゃねーよッ! 俺が、俺の話をしてんだ! ぶっちゃけ街のことなんざ心配してねーよ! ただ、負けたくねぇっつってんだろォがよォォ!」
正論とは程遠い、遠すぎるほどの無茶苦茶な理論。
九々津は、ノエルの真紅の瞳を真っ直ぐに見据え、全力で言葉を叫ぶ。
ノエルは数秒、呆れたような目をした。
「……はぁ。お前、なんというかアレだな。馬鹿の一言につきるな」
「なんとでも。ただな……俺はもう、負けたくなんかねぇんだ」
ーーそう、×××のようなことには、もうさせたくないから。
ーー×××を、守れなかったから。
ーーだから、今度は守ってみせる。
誰にも、負けないように。
「があァァァァァァ!」
ダン! と地面を蹴って飛び上がり、魔獣と群れのど真ん中へと飛び込んだ九々津は、近くの翼竜のような魔獣の頭を鷲掴みにして引きちぎる。
鬼神のような荒れ狂い方で、魔獣を屠り続けていく。
まるで、命をその手で握りつぶすようにして。
足りない。寄越せ、もっと寄越せ。
力を。
寄 越 せ。
瞬間ーー九々津を、紫色の閃光が包み、そして。
魔力が、流れ込む。
「ーー【ギガグラビィトン・バースト】ォォォォォォ!!!」
この日、一瞬だけ、世界が歪んだ。
ほんのわずか、少しだけ。
地球の一部分が、凹んだ。
『キィィィァァァァァァァァァ!』
魔獣たちの、けたたましい断末魔のコーラスが鳴り響く。
聞いていて気持ちのいいものではない。しかし、それでも九々津は魔力の放出をやめない。
空を舞う魔獣も、陸を駆ける魔獣も、海を貫く魔獣も。
その全てが、圧縮されて死に絶える。
付近にいたノエルも、凄まじい重力場によって地面に押さえつけられて、いや、押しつぶされかけている。
だが、それでも手加減している。
手加減、しているのだ。
「……かっ、な、なっ、たいざ、い……! お前、なに、が……!?」
「悪いな、ノエル。けど制御出来るのはここまでだ。これ以上は、銀河系に影響が出る」
銀河系、という単語でノエルは悟った。こいつ、まさかーー。
「……ちっ、地球の重力そのものを、奪い取っているのか………っ!?」
吸収魔法を得意とするのは、七大罪が一つーー【強欲】のマモン。
まさか、覚醒したのか。
ノエルの予想は、的中していた。
『ーーへぇ、お前の欲、凄いな』
頭に響くような、ノイズがかった声。この感じは、サタンの時と同じ感覚だ。しかし、声色は全く違う。
つまり、まさか。
「……ありがとよ、マモン」
『はっはー、何がありがとうか知らんが、お前の【強さ】【復讐】への欲望がすげぇ。とても人間とは思えないくらいに、な。ーー気に入ったぜ、お前』
「…………」
九々津は、答えない。
代わりに、獣じみた獰猛な笑みをその口に浮かべる。
「……いいぜ、お前が【強欲】を司る悪魔ならば」
「その力、全部寄越せ…!」
お久しぶりです。月影でございまする。
リアルが色々ゴタってたので更新遅れました。申し訳ございませぬ。




