第二十八話《刹那岬メランコリックⅥ》
「……成る程。事情はだいたい察しました」
とある寮の一室は、九々津とノエル、そして刹那岬と離理倉の四人が対面した混沌に包まれていた。
「まぁ、しかしシュークリームで寝返ったというノエルさんの事はまだ信用出来ませんね」
「そりゃそーでしょ」
「まぁ……だろうな」
離理倉も九々津も、同じ反応を示す。ノエルだけが何故か不服そうだったが。
「くっ……。そ、それはそうだがシュークリームだぞ!? 目の前にあんな大量に盛られて我慢出来るかっ!」
「はぁ……。何を言ってるんですか、貴方は」
刹那岬はノエルをキッ、と睨みつけると、立ち上がって堂々と宣言した。
「ーーシュークリームより、エクレアの方が美味しいですよッッッ!」
「「ツッコむポイントが違ァァァァァァァァァァァァァァァうっ!」」
離理倉と九々津の声がハモり、二人は絶望した。
どうやら刹那岬はエクレア派らしい。ノエルは目をギラつかせ、刹那岬同様に立ち上がった。
「……貴様、シュークリームを愚弄するつもりか……ッ!」
「貴女こそ、エクレアを馬鹿にするつもりなのですね……!」
二人の間に、凄まじい火花がスパークする。離理倉と九々津は呆れ果て、げんなりしていた。
「どっちでもいいだろうが……」
「それは私も同感だねー……」
二人を差し置いて、火花の大きさは増大していく。そして。
「ーー決闘だッ!」
「ーー決闘ですッ!」
ーーーーー
「……なんで、こうなった……」
九々津はげんなりして、第一魔法修練場に対立して立つ刹那岬とノエルを見た。審判は離理倉。
刹那岬は、一時的な魔法解放をしてもらっていた。ただし、麒麟の言いつけで暴走しない五分のみ。
タイムリミットは五分間で、判定は離理倉と九々津の二人でする算段になっている。
「……負けません、エクレアの名にかけて」
「……負けんぞ、シュークリームの名にかけて」
エクレアと、シュークリーム。
たかがお菓子の争いが、魔法となって対立する。
「……んじゃっ、試合開始ィィ!」
ピーーーーーッ!!!
と、離理倉が笛を思い切り鳴らした瞬間に戦闘は始まっていた。
ノエルはビーナスハンマーで地面を殴りつけ、反動によって空へ舞い上がり、上空から【マーズメテオ】を放ち、雨のように刹那岬に降り注ぐ。
刹那岬はステップして距離を取る。
そして。
「ーー【フィン】っ!」
バサリ、と鷲の羽を広げ、それを用いて爆風を起こし、炎の隕石を掻き消した。
「……すげぇな、あれ」
遠目に見ていた九々津は、思わず驚愕の言葉が口から零れてしまった。
以前の刹那岬ならば、あれを避けて飛び、ハンマーで粉砕されていただろうが、【フィン】の威力が明らかに違う。あれが、第二次覚醒。
「くっ、【マーキュリーパレス】!」
ノエルは【マーズメテオ】が無力化された瞬間、ハンマーを掲げて刹那岬の真下から凄まじい水柱を発生させた。
「ぐうううううっ!」
刹那岬は真下からの強襲に対応出来ず、無様に打ち上げられて空を舞う。咄嗟に飛ぼうと羽を広げるが、濡れてしまって使い物にならない。
体勢が崩れ、上手く飛べない刹那岬に追撃をかけるべく、飛び上がるノエル。ビーナスハンマーを振るい、刹那岬に上から地面へ向けて思い切り叩きつけた。
「くっ……! 【ボルト】!」
刹那岬は両手を交差させ、ハンマーの一撃を防御しながら落下していく。しかし、落下しながらも全身から電撃を迸らせ、ノエルのビーナスハンマーを介し、ノエル自身に電撃を浴びせる。
「ぐうああああっ!?」
予想だにしていなかった刹那岬の反撃に、無抵抗で喰らうノエル。全身に電流が走り、ふらりと空中でよろめく。刹那岬はクルクルと回り、着地と同時に足に力を込め、地面を蹴り、ふたたび空を舞う。
「せあああっ!」
「つあああっ!」
轟! と唸りをあげ、刹那岬の虎の爪へと変化した左手ーー【クロウ】がノエルに向けて放たれる。ノエルはビーナスハンマーの柄でそれを受け止めると、弾き飛ばしてハンマーで突く。
「うあっ!」
「終わらんぞ! 【マーズメテオ】!」
ハンマーを振るい、その軌道上に幾つもの炎の隕石を作り出し、刹那岬に向けて全て撃ち放つ。
地面へ叩きつけられかけた刹那岬は受け身を取り、綺麗に着地すると同時に両手を交差させ、【シールド】で亀の甲羅を作り出し、受け止める。だが、無数の炎を受けるうちにじわじわとダメージが蓄積していく。
ーーーダメだ、こんなのじゃ。
ーーー足りない足りない足りない。
ーーーもっと強くならなきゃ。
ーーーもっともっともっともっと。
ーーーーー先輩の、ために。
「うあァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
九々津は、目を見開いた。
刹那岬は思い切り地面を蹴り、硬い対魔力合成金属で作られた修練場の床をぶち抜いたからだ。
さらに、刹那岬の右足から、赤い魔力が溢れ出るほど放出されているのだ。
まさか、暴走してーー。
「いや、あれはーーー」
「【ギガ、バイト】ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
刹那岬の放った蹴りの右足が変化してるのは、ワニではない。
あの巨大な顎。堅牢な骨格。ギラつく目つき。あれはーー。
「……ティラノ、サウルス……っ!?」
唸り声をあげ、大口がノエルへと向かい、喰らい付く。
ーーその、わずか一秒前。
「……はいっ、タイムリミット!」
あたりにピピピピと電子音が鳴り響き、刹那岬の魔法が解除された。
しかし、ノエルはあの圧倒的な魔力を目にして明らかに震えていた。
それは、畏怖なのだろうか。
「んまー、見た感じ引き分けかなーっ? エクレアもシュークリームもどっちも美味しーってことで、引き分けですねーっ。先輩もそれでいーしょ?」
「……あぁ、そうだな」
軽い口調で話す離理倉だが、明らかに刹那岬のあの魔力を見て動揺しているのが分かる。
恐らくは、ベルフェゴールと同格の魔力。
刹那岬は、ノエルと離理倉から離れ、九々津に近づきーー。
「ねぇ、先輩。私、強かったですか?」
「あぁ、お前は強かったよ、刹那岬」
甘えるように微笑む刹那岬の頭を、九々津はそっと撫でてやった。
それだけで、彼女は本当に幸せそうに微笑んだ。
まるで、最高の宝物をもらったかのように。
どうも、ホモ疑惑がかけられている月影です←
テストがあり、少しばかりいつもより英語が100割り増しでヤバイので次の更新は遅れます。もーしわけございません(;´Д`A




