第二十六話《刹那岬メランコリックⅣ》
「……先輩のド馬鹿。こんな広い寮に私一人なわけがないでしょう」
「……すまん」
リビングの冷たいフローリングに、九々津は正座させられて説教されていた。しかも後輩に、だ。
自分のことを変態呼ばわりし、いきなり襲いかかってきた生徒ーー《離理倉 多々羅》。なんでも、刹那岬とは同じクラスの友人らしい。
ふと九々津は、アレルシャ孤島へと行く前の第一魔法訓練棟騒ぎのときにいたなぁ、と思い出した。まぁ、どうでもいいけれど。眠いし。
「つーか竜胆さん! しばらく一緒に寮生活するってどーゆーこと」
「……私の第二次覚醒、とか言うものがありまして、暴走した罰則として、魔法を禁じられてしまったのです」
申し訳なさそうに、右腕につけられた腕輪を離理倉に見せた。
「うん、第二次覚醒は何なのかわからないけど、魔法禁止なのは分かった。でもなんでこの変態がいるの!?」
「この前の、屋上での教会と繋がりのある人物に襲われまして。いえ、襲われたのは変態、間違えた、先輩なんですが、私にも被害はないとは言い切れないらしく、変態が一緒にいることに」
「おい待て刹那岬。今、ありえない間違え方したよな? そして最後、変態で訂正してねぇからな!?」
「だからなんで変態なの! それなら火賊徒くんだってこの寮にいるでしょーが!」
「火賊徒……?」
あぁ、あれか。
しばらくしてから、九々津はそいつが咲希と同じ中学のやつだったことを思い出した。ついでにアレルシャ孤島でのチームも、咲希と組んでいたことも。
「つーかあいつもこの寮か。うわめんどくさ」
「確かに規則だどうこう煩いけどさぁ……そこそこ頼りにはなる魔法だよ?」
「それは先輩よりも、ですか? それはないです。威圧されて私たち、一歩も動けなかったのに」
「そりゃそうだけどさぁ……」
「でしょう? というか、多々羅さんはなんでそんな嫌がるんですか? 先輩、後輩に手を出すような人ではありませんよ? ヘタレですし」
「ちょっと待て刹那岬。最後のは反論するからな?」
だが、九々津のセリフなど無視し、刹那岬はどこかムッとした様子でボソリと何かを呟いた。
「……ヘタレじゃないなら、二人きりのとき押し倒すくらいして下さいよ……」
よく聞き取れなかった。
まぁ、今聞いてもどうせロクな事を言われないだろうから、黙っておいた。
「……アレルシャ孤島か。あいつ、何処にいるんだ……」
「……天満 現世、ですか……」
現世は、アレルシャの一件以来、目撃情報すら全く無くなった。おそらくは何処かに潜伏し、何か企んでいるのだろう。
「……兆候がないわけでもないがな。ここ最近、都市部に魔獣の被害が多くなってきてるが、おそらく現世の仕業だ」
「と、いいますと?」
少し興味深そうに、離理倉が目を光らせて問いかける。
九々津は少しウトウトしながら、それに答えた。
「まず、ここのモレア都市部だが、この近辺にはいないはずのレドゥガアが出現して大混乱になっていた。二つ目、レドゥガアなんて希少な魔獣、わざわざ都市部に現れるわけがない。三つ目、俺の勘だ」
「……か、勘って……」
「後輩くん、一つ教えてやろうか。勘も結構大事だからな」
言うだけ言うと、立ち上がってその辺の壁にもたれかかり、目を閉じる九々津。
そのまますうすうと寝息を立て、睡眠に陥ってしまう九々津。
よくもまぁ、硬く冷たいフローリングの上で、しかも座って寝られるものだ。呆れるを通り越して、尊敬してしまう。
「って、ちょっと先輩! そんなところで寝たら風邪ひきますよ!」
「なんかあったら起こしてくれ。それに、寝るところなんてないだろ?まさかお前らのベッドで寝るわけにもいかねぇし、ソファは使うだろうし」
くあぁぁっ、と大きく欠伸をして、やはり座ったままだと寝にくいのか九々津はごろんっと寝転がった。
いくら冬ではないとはいえ、これでは九々津駅でなくても風邪をひく。
「……うぅ……そ、その……は、半分だけなら……」
「……ん、何がだ?」
ボーッとして、目をゴシゴシ擦りながら聞き返す。
刹那岬は、顔を真っ赤にして半ば叫び気味に言う。
「わ、私のベッドを使っていいって言ってるんですっ! ただし、半分だけですよ! いいですね!」
「うわっ!? いきなり叫ぶなよ、刹那岬」
「うるさいですよぉっ! いいから早く寝てきて下さい!」
「……なんで俺、怒られてんだ」
理不尽な怒り方に不満を覚えつつも、やはりベッドで寝られるのはありがたい。九々津は後輩の気遣いに甘んじて、休ませてもらうことにした。
すっと立ち上がり、【RINDOU】と、ネームプレートのついた部屋に歩いていく。
が、ドアノブに手をかけ、中に入る前に、九々津は刹那岬の方を向いて。
「ありがとよ、刹那岬」
ニッ、と笑って礼をした。
ーーーーー
「あーーーーうーーーー!」
ずるい、ずるすぎる。
最後の笑顔は反則だ。あんなの魅せられたら、もう赤くなるしかないではないか。
ソファの上のヤギのぬいぐるみーーヤー君をモフモフして赤い顔を離理倉に見られないように必死に隠していた。
まぁ、見えてしまっているため離理倉はニヤニヤしてその様子を眺めているが。
「み、見ないで下さいよぉっ!」
「やー、なになに、竜胆さんの言ってた先輩ってあの人? 言わないけどそこそこいい男じゃん? あ、大丈夫だって、取ったりしないから」
「うるさぁぁぁぁいっ!」
既に顔を真っ赤になりすぎて涙目にすらなっている刹那岬。
しまいには魔法を使おうとしたが、使えないことを思い出してポスポスとヤギぬいぐるみで叩き出す始末。
そして、離理倉は気がついていた。
刹那岬が何故、「半分だけ」ベッドの使用を許したのか。
残りの半分は、なんなのだろうか。
しっかりと手をうっている友人に、思わずくすりと笑ってしまった離理倉だった。
エタってる。ヤバい。




