第二十五話《刹那岬メランコリックⅢ》
「…………ふん、成る程ね。あの女が第二次覚醒を迎えたのか」
「はい、ですからちょーっとこまってるんですよねぇ〜」
いつも通りのほんわかとした喋り方の麒麟に返答しているのは、金色のハンマーを携えた女性ーーノエルだ。
ただし、そのハンマーは腰につけられ、牢の中で手枷が腕につけられているが。
「ふん、それで私にどうしろと?」
「簡単なことですよぉ、ちょーっとあの二人を襲撃して欲しいのです」
ニコッと笑い、ほんわかスマイルを発動する麒麟。ただし、発せられた言葉とのギャップが凄すぎた。
ノエルは不愉快そうに、ちっ、と舌打ちして麒麟を睨みつける。
「お断りだな。どうして私がそんな無駄な事をせねばならない」
「あははー、そう来ると思ってましたよう。ですので、おひとつ条件をつけましょう」
条件、という単語にピクリと反応するノエル。その反応を見逃さず、麒麟は続けた。
「そーですねぇ、もし協力してもらえるならぁ、貴方の身柄を本校の生徒とし、解放も可能にしてあげますよぉ?」
「……ふむ、成る程……って、はぁ!?」
ノエルは素っ頓狂な声を上げ、唖然とした。
本校の生徒にする? 馬鹿なのか、こいつ。
「……嘗めるなよ、小娘」
「はいはぁい、小娘でけっこうでぇす。それで、返事は?」
「断る! 断固として、な!」
「そーですかぁ、仕方ありませんね……。では、私にも考えがありますねぇ」
ニヤリ、と麒麟は似合わない不気味な笑みを浮かべる。
そしてーー。
その二時間後。ノエルは協力することを承諾した。
ーーーーー
「……おい、刹那岬。マジでするつもりか」
「ええ、マジです。大マジです」
「……マジかよおい……」
げんなりとした様子で九々津がため息混じりに呟いた。
そう。教会の奴らがいつ襲ってくるか分からない中、魔法を使えない刹那岬が一人なのは危険ということでーー何故か、九々津が魔法禁止の間、刹那岬と同じ寮室に住むことになった。
何故だ……何故こうなった……。
荷物をリビングの隅に置き、放心するしかなかった。どうか、何も起きませんように……。
対する刹那岬だが。
先程からずっと、自分の部屋に閉じこもっている。
中で何をしているのか分からないが、バタバタと音が聞こえる。何やってんだ、あいつ。
やることもなく、暇になってしまった九々津はリビングを見渡していたが……。
「……なんだこのモフモフ感は」
そう。ソファといい、キッチンといい、テーブルといい、全てにおいて何かしらのモフモフグッズが置かれているのだ。
特にソファを占拠しているこの巨大なヤギのぬいぐるみ。なんなんだこれは。
それを手に取ると、やはりデカい。しかも無駄にリアル。誰だこんなもん置いたのは。
そう思い、そっとヤギのぬいぐるみを元の位置に戻す。
同時に、ガチャリと扉の開く音がした。
「……へっ?」
「……はっ?」
九々津と、見知らぬショートヘアの
女が同時に声をあげた。
沈黙。
そして。
「へっ……変態ィィィィィィ!」
轟! と何かが迫る音。
九々津は反射的に右手を突き出し、【分銅】を放つ。
重力が変化して、向かいくる『何か』を返すーーことはなかった。
全身が迫る何かに叩きつけられ、家具ごと吹っ飛ぶ。
「がっ!?」
「くたばれ、変態!」
手をこちらに向けてかざし、壁らしき何かが次々と九々津を襲う。このままでは部屋がめちゃくちゃだ。
九々津はガードしながら溜息をつきーー
「【竜巻】っ!」
足に旋風を纏わせ、加速して女との距離を一気に詰める。
突然の九々津の行動に慌てたのか、壁を打ち出さない女。
「え、あ、ちょっ……きゃあっ!?」
女の顔の寸前まで飛び出した九々津はそのままぐるりと身体を回して足払いを放ち、転ばせる。
ぐらりと傾いた身体を受け止め、床に押し付ける。
キッ、と女に睨まれる。
「くそっ、油断した……! 変態なんかに負けるなんて……」
「いや、まずは変態から離れろ」
「女子寮で女子の私物をニヤニヤ眺めてどこが変態じゃないんだ!」
「ニヤニヤしてねーよ! というか、お前誰だ?」
「うるさい黙れ離せ変態!」
「うおっ、ちょっ、暴れるな!」
ジタバタもがく女を抑えようとした瞬間ーー。
ガチャリ。
二度目のドアの音。
しかしそれは玄関からではなく、九々津の背後から。
殺気が伝わり、九々津がギシギシと機械的な動作で振り向く。
「…………先輩、私のルームメイトに何を?」
満面の笑みをたたえ、刹那岬が立っていた。
その日、別棟の端の生徒にも聞こえる絶叫があったらしい。
どうも、月影です。
ノエルちゃん、ここで再登場。ちなみにゼアルくんはどさくさでシュドナイと逃げてます。そしてシュドナイと、忘れ去られたであろうキャラが次回出てきます。
それと、なんか今回ラブコメ色が強い…。




