↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Eクラスの最強魔法師  作者: 紙切虫
陽見池グラトニー
22/39

第二十一話《陽見池グラトニーⅧ》


飲み込む。

大気を、街を、魔力を飲み込む。

空腹し、飢える悪魔は止まらない。

全てを飲み込み、喰らうーー。


「ろ……六夜、なんだありゃ!?」


「……陽見池だ。ただし、ヴェルゼバブが外へ出た状態の、な」


ちっ、と舌打ちをして九々津は答える。

陽見池の目は虚ろに、美しいサファイアの色だけが輝いていた。

髪も蒼く蒼く染まり、ゆらりと揺れる様はとても美しい。

暴食(グラトニー)のヴェルゼバブ】。その能力は、空間を裂くことではない。


ーー喰らう、のだ。


「……刹那岬、よく陽見池が空間に穴開けてたろ?」


「は、はい。あれって空間を切って……」


「違う。喰ってんだ。そして、すぐに空間が閉じる、ってわけさ」


「しかし……なんで覚醒なんか……?」


当然の疑問を、天狗が口に出す。

九々津がそれに答える。


「……あいつの中にいるのは、暴食(グラトニー)を司る七大罪だ。おそらく、かなりの間何も食べてなかったんだろう。耐えかねたヴェルゼバブが出てきたのさ……」


『正確にゃ、100分間だけどな』


脳内にサタンの声が響く。

だが、今はそんな時間のことなどどうでもいい。もう、タイムリミットは過ぎてしまったのだから。

九々津には、なにも出来ない。魔力が、尽きてしまった。

刹那岬も天狗も、半端な魔法では飲み込まれる。

九々津は歯噛みした。なにも出来ない自分を嘲笑うように、陽見池の侵食速度は増していく。

勿論、腹が満たされればヴェルゼバブは引っ込む。が、それまで陽見池の身体が耐えられるとは思えない。

ゆっくりと、陽見池ーーいや、ヴェルゼバブがこちらを向く。

瞳孔の開いた、蒼い瞳が無気力に三人を映し出す。

口を歪に開き、不気味に笑って、ただ一言。


「…………オイシソウ……」


その言葉に、三人は即座に反応し、その場から飛び退く。

ヴェルゼバブは一瞬で地に降り立ち、九々津のいた場所を喰らう。

戦慄。九々津はさらに距離をとる。

が、喰らいつけなかったと認識した瞬間、ヴェルゼバブは九々津目掛けて突っ込んできた。

九々津は飛んで避けようとしたが、魔力が無い事を思い出し、横に思い切り転がる。

転がった瞬間、九々津の黒い靴をヴェルゼバブが掠め、靴裏が少し齧り取られた。


「んなもん喰って、腹ァ壊すぜ!」


「キミハ……オイシイノ?」


天狗がヴェルゼバブに向けて、威嚇の【言霊風切(ウィンドワード)】を放つ。が、ヴェルゼバブは【風】の刃を掴み、噛みちぎる。


「はぁ!?」


「オイシク……ナイ!」


ヴェルゼバブは叫ぶと、顔を歪めて天狗へと駆け出した。速い。一瞬で天狗との距離はゼロになり、天狗は慌てて飛び上がる。が、足を掴まれてガクリと態勢を崩す。

喰われる。

そう確信し、ヴェルゼバブが口を開いた瞬間ーーあたりに光が撒き散らされた。


「【フラッシュレイン】!」


カッ! と、突如として天狗の後方より放たれた光の雨。

天狗はそちらを向いていなかったため、目は無事だが、ヴェルゼバブは直に食らったのか、驚いて目をつむり天狗を離す。

天狗はその隙を逃さず、後ろへと飛ぶ。


「…………メ、イタイ……」


ゴシゴシと目をこするヴェルゼバブ。

天狗が飛んだ先には、サタンに一瞬でのされた男ーーゼアルがいた。


「ちっ。普通は悶えるレベルの光だぞ……」


「……おいおいおいおい、なんでアンタが俺を助けてんだよ?」


至極当然の質問を、天狗はゼアルに投げかける。

ゼアルはなんでもない口調で答えた。


「いや、お前が喰われそうだったからだろう?」


「…………はっ? いやいやいやいや、だからなんでそれで? お前、六夜とか襲ってたよね?」


「ん? あぁ、お前たち何か勘違いしていないか?」


「へっ?」


勘違いとは、なんだろうか。

ゼアルは眼が回復しかかっているヴェルゼバブを警戒しつつ、再び答える。


「私たちの目的はあくまでも【七大罪】そのものだ。だから、六夜と言ったか、あの男から【七大罪】を引きずり出すのが目的であって、別にお前らと敵対するつもりなどこれっぽっちもないのだよ」


「……うそん」


「嘘などついてどうする。どのみち、このままでは私たちも危ないのだ。……おい、【七大罪】。アレを止める方法とか知らないのか?」


天狗を軽くあしらい、魔力が無くなって肩で息をしている六夜に声をかける。

六夜はゼアルの方を向こうともせず、答える。


「……一つは、ヴェルゼバブが満足するまで食わせる。けど、それまで陽見池の身体が持たない」


「……一つ、ということは他にもあるのか?」


「あァ、二つ目は倒す。が、無理だ」


「だろうな」


ゼアルは即座に肯定した。が、あの荒れ狂う暴食の悪魔を見れば、誰であろうと肯定するだろう。


「……では、三つ目は?」


「……俺が、触ることだ。俺の身体にはヴェルゼバブより高位のサタンやルシファーがいるし、なだめ役を買ってるマモンもいる。触りさえすりゃ、なんとか収められるはずだ」


「……この荒れ狂う魔力を掻い潜ってか?」


周囲には荒ぶる風が吹き、とても生身では近づけそうにない。

だが、やらねばならない。

九々津は膝を使って立ち上がる。

そのまま吸い寄せられるように陽見池へと歩いていきーー。


「まぁ待てよ。一人じゃこの課題、終わらねぇんじゃね?」


「ですね。先輩は要領が悪いですから」


二人が、六夜の前に立つ。

天狗はいつも通りニッ、と笑い刹那岬は少し微笑んでいる。

何故笑っているのか、九々津には理解出来なかった。

だが、それでも、九々津は笑った。


「……くっ、ははははっ。そうだな。一人じゃ厳しいし、手伝ってくれよ?」


「はいはいっと。仕方ねぇなぁ、後で奢れよ?」


「ですね」


何気ない会話。

だが、それはいつも通りでは無く、一人足りなかった。

陽見池が、足りない。

ギラリ、と九々津の目が光る。


「……行きますよ、先輩っ!」


刹那岬は九々津に抱きつくと、背中から鷲の翼を生やし、地から飛び立つ。


「……トリサン、オイシソウ……」


虚ろな目が、刹那岬を捉える。

空間が開き、飛翔する刹那岬を喰らうべくヴェルゼバブも口を開く。

全てを飲み込む悪魔の口が、大気ごと吸い込み気流が乱れる。


「くっ……ま、まっすぐ飛べません……!」


ふらふらとよろけ、態勢が安定しない刹那岬。

これでは近づけない。

が、突如として気流が安定した。振り返ると、天狗の周りに幾つもの魔法陣が展開されていた。


「行け! 風は気にすんな、俺がいくらでも安定させてやるよ!」


「……っ、ありがとうございます!」


これほど天狗の魔法が頼もしく思えたことは、六夜にもなかった。

荒ぶる気流は天狗がすべて【風の言霊 (スフィアワード)】で風と対話し、退けてくれる。


そして、二人は飛ぶ。


友人を救うため、友人へ向けて。

どうも、月影です。

更新遅れてすみませぬ。次回はちゃんと一週間後になると思いますので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。