第十九話《陽見池グラトニーⅥ》
「六夜、大丈夫?」
カリカリとリスのようにチョコレート菓子を齧る咲希。その髪は、鮮やかな青色に変化している。
唖然とするノエル。
しかし、ノエルの反応も当然だった。自らの魔力を振り絞り、放った渾身の魔法が平然と消されたのだ。唖然ともしたくなる。
「な……な……何者だお前……」
「私ー? 私はチョコ好きな只の魔法少女だよ?」
九々津は内心でツッコンだ。
天体を飲み込む魔法師が、ただの魔法少女とは。
ジョークにしては笑えない。
九々津は立ち上がり、咲希の横に並ぶ。
「とりあえず、俺は刹那岬を助けてくるから、陽見池はあのアホを捕まえてくれ」
「了解だよ」
言うや否や、全力で走り出す九々津と陽見池。
陽見池は一直線にノエルへと向かっていく。
「くっ……」
「えっと……よくわからない天体魔法師さん、確保します!」
「な、嘗めるな!」
陽見池の接近とともに、慌てて【マーズメテオ】を放つノエル。が、明らかに魔力が足りないのであろうノエルは、掠れた炎がくすぶるだけだった。
「くっ……! くそ!」
即座に背を向け、フェンスから飛び降りるノエル。それは、すでに刹那岬を安全な場所まで移動させていた九々津が追う。魔法陣を足場にする陽見池より、直接飛べる九々津の方が空中戦は得意なのだ。
「こっからはまた俺だな」
「貴様……! あの女、何者だ!」
「さあな?」
一般区域の上空を走る二人。
完全に魔道交通違反だが、いたしかたあるまい。
九々津は体内の魔力をかき集め、後ろに向けて【竜巻】を放った。
速度にブーストし、一気にノエルとの距離を詰める。
「くっ! ……シュドナイのやつ、あんな化け物女がいるなんて聞いてないぞ!」
「……なにをゴタゴタ言ってるのか知らんが、捕まえた後でそのシュドナイとかいう阿呆のことをーーっ!?」
あと二センチ。
あと二センチで手が届く距離まで追い詰めた。
ーーが、一瞬にしてその距離が開く。縦方向に、だが。
上空から何者かに攻撃をうけ、一般道路のド真ん中に叩きつけられた九々津。コンクリにめり込み、凄まじい鈍痛が背中を襲う。
「か……はっ……!?」
なっ……なんだ!?
九々津はよろけて立ち上がり、空を見上げーーられなかった。
『何者か』に腹に膝蹴りを喰らい吹き飛び、続けて光の奔流に飲み込まれたからだ。
熱い。悪魔の身体にこの聖魔法はヤバいーーっ!
脱出など出来るわけがなく、九々津はビルにぶつかり、気絶した。
「まったく……なにしてんだノエル」
「ゼアル! 貴様、なぜ……?」
「大罪を俺も探しに来たんだっつの。……で、どっち?」
「は?」
ノエルは金髪長身の男ーーゼアルの言う「どっち?」の意味がわからなかった。
いや、どっちもなにも、倒れている九々津のはずだろうに。
「匂いがーー二方向からする」
ノエルは、その言葉にピクリと反応した。バッと振り返ると、魔法陣を蹴飛ばしながら走ってくる咲希の姿があった。
「ちっ、あの女か。気をつけろ、ゼアル。馬鹿げた魔法を使ってくる」
「了解だ。【フラッシュレーー」
ぞくり。
ノエルとゼアルに、ほぼ同時に凄まじい悪寒が走った。
慌てて振り向いたときには、もう遅かった。
ーー砕け散れ、小僧ども。
「【混沌の咆哮】ァァァァ!」
赤黒い、悪魔の咆哮が二人を飲み込む。
悲鳴をあげる暇すらない。
闇の閃光があたりを照らし、吹き飛ばす。勿論、一般の道路にも凄まじい被害が出た。
「ちっ、てめぇら、よくも主人の身体をボロクソにしてくれたな。俺にもダメージが及ぶってのに」
ガラガラとビルの破片を吹き飛ばし、立ち上がったのは九々津ーーいや、悪魔の王 《サタン》だった。九々津の気絶と共に、覚醒したのだ。
幸い、怪我人は出ていないがそれにしたっての被害だ。
まぁ、元々あまり人間に興味のないサタンに言っても仕方がないが。
「……こいつが、《憤怒》」
「……明らかに、違うな。先ほどまでとは……」
二人が、ゴクリと息を呑むーー隙も与えない。
サタンと化した九々津は、ゼアルの腹部に強烈な蹴りを入れる。ゼアルは文字通り、錐揉み状態で吹き飛び、先ほどの九々津の二倍ほど、ビルに深く埋まった。
「か……っ……」
「やられたらやり返す。倍返しだ」
「ゼアル!? お、おのれ! 【マーズメテオ】!」
吹き飛ばされたゼアルを見て、それに気づくことの出来なかったことに驚愕するノエル。
が、仲間をやられたという意識が先に働き、残った魔力で炎の弾丸をばらまく。
しかし、悪魔の王の前にそんなものは意味をなさない。
「ガァァァァッ!」
サタンが咆える。
ただそれだけで、【マーズメテオ】は消し飛ばされた。
「なっ……!? め、滅茶苦茶だ!」
「てめぇこそ、悪魔の王に理屈が通じるとでも思ったかボケが!」
ゴウッ、と閃光のような速度で距離を詰めるサタン。ノエルに飛びかかるーー直前に、天から落ちてきた落雷に気付き、急停止する。
しかしそれは一つだけではなく、まるで雨のように降り注ぐ。
「くそが!」
飛来する落雷を殴りつけ、破壊していく悪魔の王。およそ考えられないが、事実、比喩でもなく壊す。
市民にも被害が及び始め、警察が誘導して避難させているのが目に入る。
「てめぇ出てこいや! わかってんだよ、いるのは!」
頭上へピンポイントで落ちてきた落雷を掴み、あたりへ投げ捨てる。
サタンは、この落雷の魔法の使い手を知っている。
「出てこいや! ……シュドナイ!」
「変わりませんね、サタン」
遥か上空には、気絶した青髪の咲希を抱えるシュドナイがいた。
ゼアルくんの扱いがwww




