第十五話《陽見池グラトニーⅡ》
九々津が学校を休むようになってから三日目。
刹那岬は、憂鬱だった。
特に意味もなくボーッとしたり、授業に集中出来ていなかった。
昼休みも、大好きなはずのお弁当も箸が進ま無かった。
「……竜胆さん、どったの? 具合でも悪い?」
そんな刹那岬を心配したのか、友人である離理倉が声をかけてきた。
しかし、それでも刹那岬は生返事だ。
「…………ううん」
「むう。なんかあったのか?」
「…………ううん」
「……………………」
こりゃ、なんかあったな。
離理倉は、なんとなくだがそう思った。
なにしろあの真面目な刹那岬がここまでボーッとしているのだ。
なにかないと思わない方がおかしい。
「あ、そーいえば演習のことだけ」
ガタアンッ!!!
『演習』という単語を聞いた瞬間、刹那岬が机を叩いて思い切り立ち上がった。
クラス中の視線が、刹那岬に集中するが、刹那岬は泣いていた。
それも合わさり、ますます騒ぎは広がっていく。
「……先輩…………!」
嗚咽を鳴らす刹那岬を心配し、クラス中の生徒が集まってきた。
皆、必死に慰めようとしているが泣き止まない。
「り、竜胆さん。どうしたの? 演習のとき、何かあったの?」
「いえ……、演習の、ときに、私たちを逃がして、先ぱ、先輩がぁ……っ…………!!!」
「あ、先輩ってあのEクラスの?」
「はい……それで、怪我をして、もう三日も学校に来てなくて……」
なんだ、やっぱEクラスだな。
焦燥の中、そんな声が聞こえた方向へ向けて刹那岬は鋭い視線を向ける。そのセリフを言ったのであろう坊主頭の男子生徒が顔を引きつらせた。
「だ、大丈夫だよ! 私も先輩にかばってもらったんだし……」
「しかも、しかもその相手が………犯罪魔法師の、天満 現世で…………」
「ああ、あの有名な……って、はぁ!?」
再びクラス中にどよめきが起こる。
それはそうだろう。
《天満 現世》と言えば、誰でも知っている犯罪魔法師の名前だ。
Eクラスが、そいつと戦い、後輩を逃がせた。
怪我、ということは死なずに帰ってきた、ということと同意義だ。
つまりは、どんな方法であれ、あの現世を撃退したのだ。
「……で? やっぱなんだって?」
先ほどまで刹那岬を慰めていた女生徒が、坊主頭に嫌味ったらしく言う。坊主頭は罰が悪そうにそっぽを向いてしまった。
「ふーん、で、竜胆さんの好きな相手がその先輩なんだよねぇ?」
茶化したように、向かい合っている離理倉がにやけながら刹那岬をからかう。当然ながら、刹那岬の反応は。
「な、な、ななななにを!? べっ、別に先輩の事なんか好きじゃにゃいです!」
「うっわ、わかりやすいツンデレ。しかも噛んでるし」
「つ、ツンデレ言うな!」
「ならヤンデレか」
「病んでないです!」
予想通り、大慌てだ。顔を真っ赤にしてツンデレとヤンデレを否定する姿は非常に滑稽なものだった。
クスクスと、笑い声がクラスの外から聞こえてきた。
刹那岬がそちらを向くと、黒髪ツインテールの、チョコレートを片手に持った女生徒がいた。
「……陽見池、先輩?」
「やっほー、刹那岬ちゃん。六夜のことで落ち込んでるって聞いたから来てみたよ」
カリカリとチョコレートを齧りながら喋る咲希。そのたびに、パラリとチョコレートの欠片が落ちる。
「でも、なんか大丈夫そうだね?」
刹那岬の周りに集まるAクラスの友人たちの姿をみて、安心したように頷く。
ちょいちょい、と、刹那岬の肩を離理倉は突っついた。
「ちょい、竜胆さん。誰よ」
「ああ、陽見池先輩の事ですか? えっと、六夜先輩の友達の方でーー」
「……本当に友達?」
「えっ?」
「……あの女、怪しい……! その六夜? 先輩だっけか、気になる……!」
何故だか、離理倉は咲希を敵視していた。
刹那岬の知る限りでは、この二人は初対面のはずなのだが、なにかあったのだろうか。
首を傾げていると、ぐいっ、と離理倉に首を引っ張られた。
「よし、竜胆さん。今から先輩の家に行きな」
「え……えええ!?」
「いんだよ! とっとと行くの!」
「な、なんですか!?」
「そんで、先輩の家に入ったら!」
「は……入ったら?」
「押し倒せ!」
「できるかっ!!!」
なんてくだらないやりとりをしていると、外がなにやら騒がしいことに気がついた。
騒がしい、というよりかはざわついているのだろうか。
気になって外を見てみると、校門に人だかりが出来ているのが分かった。一年生から三年生、男子も女子も関係なしに集まっている。いったいなんなのだろうか。
「……? なんだありゃ」
「さあ? とにかく行って見ませんか? その方が早いですよ」
そーだね、と立ち上がる離理倉。
しかしーー。
「ひっ……陽見池先輩!?」
人だかりを見た瞬間、凄まじい勢いで飛び出した。窓から、だが。
慌てて窓から顔を出すと、魔法陣を足場にして宙に立っていた。
ほっとしたのも束の間、咲希は魔法陣をさらに展開させ、それを使ってどんどん地面に近づいていく。
「ふぃ、【フィン】!」
バサリ。
鷲の翼を生やし、飛びながら運動場へと舞い降りる刹那岬。
そこで目に入ったのは。
青服に十文字の入った《十字軍》と、対立する咲希の姿だった。
ーーーーー
「君が九々津君の友達かい?」
「……で? 《十字軍》が六夜になんのよう? 彼は宗教なんかに入んないですよ」
「いえ、それはそれで悲しいのですが、用件は別にありましてね」
青服は本当に悲しそうな顔を見せたあと、数瞬迷ってから、
「……九々津君に、【七大罪】が取り憑いていると匿名の通告がありましてね」
その言葉に、周囲がざわり、と反応した。
当然の反応だ。【七大罪】を知らぬ魔法師などいない。
そして、咲希は数少ない九々津の秘密を知る人物でもあり、秘密を共有してもいる。
九々津のことが知られると、咲希としても不味いのだ。
「……出鱈目でしょ。そんなわけないじゃない」
「いえ、本人に合えばわかりますから。住所、教えてもらえますか?」
「教えるわけないでしょ? なんでそんなーー」
ざわり。
嫌な魔力が、咲希の身体にまとわりつく。その魔力は、明らかに目の前の青服から溢れ出している。
青服は相変わらずな、友好的な表情で。
「教えてもらえますか?」
咲希は苛立ち、歯噛みした。
咲希としても知られてはならない。
こんなとき、九々津ならば。
どうするだろうか。
そんな回答は、ただ一つ。
「ーー私に、勝てたらね」
実力行使、だ。
すみません、今週忙しくてあんま文字数あれでした。次回からバトルなので、六千か七千字にはなると思います。ほんとすみません∑(゜Д゜)




