第十話《六夜スロウスX》
「……おかしいなぁ。こんなところにバーサーカーなんていたかな?」
咲希は戸惑う。
アレルシャ孤島には、海を渡る以外にはここへくるルートが存在しない。ならば、何故、海を渡れないはずのバーサーカーがいるのだろうか。
そんなもの、答えなど一つしかない。
「……誰かが、召喚したかな?」
ーー召喚魔法。
魔法陣から、その魔力に応じた強さの魔獣を呼び出し、使役する魔法。
ただし、これにはコントロールがいるため、高い集中力を要する。
仮にバーサーカーを同時召喚するならば、普通の魔法師ならば四体程度が限界だろう。
しかし、九々津からも天狗からも千堂からも、それぞれ三体のバーサーカーを見た、との連絡が入っている。
合計で十二体。
手練れの魔法師ならば、不可能な数ではない。
しかし、先程の地鳴りといい、天狗の見た死んだ森といい、かなり上級の魔獣もいるようだ。
「……犯罪、魔法師でもいるんですかね」
そう言ったのは火賊徒だ。
火賊徒は咲希とは中学が同じで、チームを組んでいたのだ。
「うん、それかもね。てか、それしかないか……」
もしそうだとすれば、アレルシャ孤島から立ち去り、学園に申告すべきだ。
もちろん、咲希も火賊徒もそうしたい。しかし……。
「六夜、変なところで意地張るからなぁ……」
ーーーーー
「え? ど、どういうことですか!?」
九々津から、アレルシャ孤島に犯罪魔法師がいる、との説明を受けた刹那岬は慌てふためいた。
オロオロとする刹那岬の脳天に、九々津は無言でチョップを振り下ろした。
「いたあっ!? な、なにをするんですか先輩ッ!」
「そりゃ俺のセリフだ、ボケノ岬。なにを慌ててんだ、お前」
「誰がボケノ岬かぁっ! 慌てもしますよそりゃ! は、犯罪魔法師って……。急いで申告しないと」
「なんで?」
「へっ?」
九々津は荒れた森の中をどんどん進んでいく。犯罪魔法師がいると言うのに、呑気すぎる。
だが、そんなことはまるで気にしていないかのように、九々津は進んでいく。
その背中を、木の枝に、スカートの裾を引っ掛けながら追う刹那岬。
「ちょっ、先輩!? なにガンガン進んでんですか!? は、犯罪魔法師がいるんでしょう?」
「うん。いるよー」
「軽ッ!? だ、だったら……」
未だ慌てている刹那岬に、呆れたような顔を向ける九々津。
ため息をついて、またも無言でチョップ。
「いたっ!? だからなんでチョップ!?」
「なんだ、バックドロップのが良かったか?」
「ベヘモットの件があるのでシャレになりませんよ!?」
「むう……。まあいいけどよ、お前、二年になりゃ単位とる為に犯罪魔法師の検挙とかせにゃならんのだぞ? そんなんで大丈夫なのか?」
言われてから刹那岬は気がついた。
月読魔法学園は、二年生からはクエストがあるのだ。しかも、規定の単位が取れなければ補習、追試か留年。
一年生も、冬休み前に一人でクエストを行う実習もある。
パニクっていたため、それをすっかり忘れてしまっていた。
「そ、そっか……。そうですよね。先輩なら、こんな程度の犯罪魔法師なんてイチコロですよね」
安堵からか、ホッと胸を撫で下ろす刹那岬。
九々津も振り向き、ニッ、と笑って、
「ん? このレベルのは検挙したことないけど?」
「帰らせてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッ!」
絶叫する刹那岬。
無理、ホント無理、マジ無理だから帰らせて。なに? 自殺するの?
刹那岬は、もう終わりだ、と内心で叫んだ。
対して、九々津は逃げようとする刹那岬の首根っこを掴んで、森の中を進んでいく。
「……やっぱ、そんな簡単に見つからねえか……。天狗の魔法がいるな」
諦めるのが早過ぎる。
九々津は言うやいなや、ポケットから携帯を取り出して、耳に当てた。
「……お、天狗か。ちょっと頼みたいんだが」
『それで殴られるのを回避出来るなら、別にいいぜ』
「そうか。じゃあな」
『うそぉ!? え、なに? 俺を殴ることってそんな大事なことなの!?』
「まぁ。それなりには」
『………………せめて威力を落としてくれ』
「それくらいならいいぜ。お前の魔法で、犯罪魔法師の居場所探れるか?」
『楽勝』
どうやら、天狗もこの異変が犯罪魔法師のものだと気づいていたようだ。ブツリ、と通話が切れる。
そして、数秒してから九々津と刹那岬に風が吹いてきた。
風は思ったよりも強く、スカートがめくれ上がり、中のクマさんが顔を覗かせた。
慌てて刹那岬は裾を抑えたが、もう遅い。
「…………み、見ました?」
「その年になってまでクマさんはちょっとマズいかな」
「うわあああああああああああんッッ!」
冷静に返す九々津の発言に精神的ダメージをうけ、刹那岬はその場に座り込み、顔を自身の膝に埋めた。死にたい。
「気にすんなって、パンツ見られたくらい」
「気にしますよぉぉ! ……って、ち、ちょっと!?」
九々津は刹那岬をひょいと担ぎ上げる。バタバタと暴れるが、全く拘束は解けない。
「はーなーせー!」
「痛い痛い! 引っ掻くな! 落ちるぞ!」
「落ちるって……えええ!?」
九々津は刹那岬を抱えたまま、足に風を纏わせる。
九々津の身体が地面から離れ、森を抜けるほど高く上昇する。
「天狗からのメッセージ。『いた。上空から見てみろ』……だ、そうなんでね」
「えっ? れ、列連先輩の魔法って一体なんなんですか?」
「【風の言霊 】。簡単に言えば、風と対話出来る魔法さ」
ーー【風の言霊】。
【ワードソウル】と呼ばれる、五元素の魂と対話する魔法である。
ただし、その元素となる元が汚れていたり、仲が悪いと魔法の起動は不可能である。
さらに、攻撃には向いていないので、【魔法情報科】として将来活動したい魔法学徒にウケがいい。
天狗は、将来は世界を回るカメラマンになりたいため、この魔法を選んだ。
「……刹那岬はさ、将来はなんになるんだ?」
「なるものはわかりませんね。なりたいものは有りますけど」
宙へ浮いていく間、ハッキリとした言葉が聞こえた。なるほど、真面目な彼女らしい。
九々津は苦笑して、問い直した。
「じゃあ、なんになりたいんだ?」
「……【魔法撃退師】、です」
「……え、【魔法撃退師】? なんでまたそんな……」
「ほっといて下さい」
不貞腐れた、というよりは照れ臭いのか黙りこんだ刹那岬。
なにか事情でもあるのかと思い、九々津は追求するのを辞めた。
「……! 刹那岬、捕まってろ!」
「え、へ? ふあぁっ!?」
九々津はいきなり吠え、刹那岬を担ぐ態勢からお姫様抱っこの形に切り換えた。あまりにも唐突なことだったので、言われたとおりにしがみついてしまう。
次の瞬間、槍が刹那岬の頬を掠めた。
「…………え?」
「魔獣だッッ! 振り落とされるなよ!」
ガガガガガガガ。
羽音とは思えない羽音をたて、尻尾が槍になっている蜂の魔獣ーー
スピニビー。それが、凄まじい数でこちらに向かって来ていた。
「な、な、な、なぁっ!?」
「なんつう数だ! しかもこいつも島に居ねぇ魔獣だし!」
九々津はすかさず【花火】を複数放つ。が、的となる魔獣が小さ過ぎるのか数匹しか落とせない。
スピニビーの槍には毒がある。掠った程度では痛くも痒くもないが、あの数に刺されれば命に関わる。
ちっ、と舌打ちをして九々津はさらに上昇。当然、スピニビーも追ってくる。
「刹那岬! お前、飛べるか?」
「は、はい! 飛べます! ……【フィン】!」
【アニマルソウルズ】。刹那岬の背中から鷲の羽根が一対生える。
バサリ、バサリと音を立て、浮かび上がる。
「よし、ならちょっと離れてろ! 巻き込まれるぞ!」
そういって、九々津は刹那岬の背中を押した。
再び九々津の眼と髪が灰色へと変色していく。
十分な距離まで刹那岬が離れたのを確認し、九々津は魔法を起動させる。
「【大……分、銅】ぉぉぉぉッ!」
上空にベヘモットの時と同様に、巨大な灰色の魔法陣が出現。ミシリ、と音がして、スピニビーを全匹撃墜させる。
そして、下に広がる森までもが陥没した。
「……す、凄い」
思わず刹那岬は、感想を口に出していた。それほどの迫力のある光景だったのだ。三ケタはいっているであろうスピニビーを、範囲魔法とはいえ一撃で撃墜させたのだ。とんでもない威力の魔法。
トップスピードで飛び、九々津のもとに駆け寄ろうとした刹那岬。
「先ぱ……」
「くるな、刹那岬ッ!」
「え?」
突然に発せられた怒声。
気づいたときには、もう遅かった。
ーーウィングレックスが、牙の生えた大口を開けていた。
「……あ……」
呑み込まれる。噛み砕かれる。
そう思い、口が閉じられて視界が狭まっていきーー。
口は、とじ切られなかった。
「【ストーンヘンジ】ィィィィィィィィィィィィッ!!!」
「【ジ・イーター】ァァァァァァァァァァァァッ!!!
ガキン! と、ウィングレックスの口が石で塞がれ、次にウィングレックスの身体が全て空間に開いた【穴】に喰われる。
振り向くと、いたのは。
「……ウチの後輩にずいぶんなことをしてくれるな」
「刹那岬ちゃん、大丈夫?」
宙に浮かぶ石と、青髪に変化し、魔法陣を足場にしている千堂と咲希。
安堵からか、涙が出そうになってしまった刹那岬。
「……驚いた。ウィングレックスを一撃ですか。最近の学生はレベルが高いですねえ……」
九々津の前に浮くーーいや、翼の生えた大型魔獣に自身を掴ませている、スーツを来たロンゲの男だった。
「いやはや……君もそのクチですかな?」
「うるさい。黙れ面倒だ」
ゆっくりと、九々津は口を開く。
「第一級犯罪魔法師ーー《天満 現世》」
現在、二万PV突破。ユニークはもうちょいで五千。読んでくれてありがとうございます(^人^)!




