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Eクラスの最強魔法師  作者: 紙切虫
六夜スロウス
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第九話《六夜スロウスⅨ》

おかしい。

確実に、おかしい。

ベヘモットは、通常は大きくても

二メートル。だが、目の前のこいつはそんなレベルでは無い。

目算ではわからないが、十五から二十メートルという巨体だ。


「……あり得んだろ」


それが九々津の感想だ。

ベヘモットはまるで小石でも踏むような感覚で足を振り上げ、九々津と刹那岬に向けてそれを降ろす。

凄まじく巨大な足。踏まれれば、確実に潰れる。


「せ……先ぱっ……!?」


九々津は叫ぶ刹那岬を蹴り飛ばし、咄嗟に足の影の外へと弾き出した。

しかし、これでもう九々津は間に合わない。が、もとより逃げる気など無かった。


「お、お、お……らぁぁぁぁ!」


ミシリ。

九々津の足元が、思い切り凹む。

ーーベヘモットの踏みつけを、受け止めた。素手で、だ。


「おおおおおおおお……!」


「ブフルルッ!?」


足が地につかないことが不思議なのか、ベヘモットは声をあげた。

九々津の足元は陥没し、ミシミシと言うのは踏んでいる木ではなく、九々津の身体のほうだ。

いつも眠そうにしている顔は、今は苦痛に歪んでいる。


「が、あ、あ……っ、くそが……っ!」


「バフルルルッ!」


「ぐああああ!」


ベヘモットが、踏みつける力を一層強くする。

ミシミシという嫌な音を立てながら、九々津の身体が深く沈み込む。


「な、舐めんな……。こ、のっ、サイ野郎がっ!」


刹那岬は、眼を疑った。

ベヘモットの巨体が、持ち上がったのだ。

九々津の髪の色と眼の色は、黒色から灰色へと変化していた。

ベヘモットは宙に浮くのは初めてなのだろう、うろたえて足をバタつかせていた。


「暴れんな! このサイがっ!」


そのまま両手で足を抱え込み、バックドロップ。

思い切り地面に埋まり、ベヘモットは藻掻く。森が、いや、アレルシャ孤島全体が揺れた。

意図せずして起こった地震に、刹那岬は足元を取られて座り込んでしまった。

だが、そんなことよりも気になるのは。


「……ふう。舐めた真似しやがって」


首を鳴らす、九々津の姿だ。

黒く、引き込まれそうだった髪も、眠そうにしていた黒眼も、光る灰色へと変化している。

いや、魔力も変化しているのだろう、灰色の魔力が九々津の全身から溢れ出していた。


「せ、先輩……。なんですか、それは……」


唖然とした様子で、刹那岬は問いかける。九々津は、眼の色は変わっても眠いのは変わらないのか欠伸をする。


「なにって……信じ難いけど、ベヘモットだろ」


「そっちじゃありません!」


「じゃ、あっちか?」


「どっちですか!? 真面目に聞いて下さいよ! 髪です! あと眼の色も!」


これか? と、自分の前髪を弄くってみせる九々津。

その態度は、なんらいつもと変わらない。


「んー……。フォームチェンジ、的な?」


「ふぉ……フォームチェンジ?」


もうわけがわからない。

そうこうとしていると、ベヘモットが起き上がり、地鳴りが起こる。


「……おいおい、面倒だなあ。寝とけって。楽になれるぜ?」


が、当然ながらベヘモットには言葉は通じない。

いななき、角を振り上げて九々津へと突進する。

その巨体に見合う、凄まじく巨大な角。それが九々津の腹を貫けば、確実に即死だ。

刹那岬は悲鳴をあげかけた。が、それは喉元で止まる。

九々津が、その角を止めたのだ。


ーー片腕で。


「……おとなしく寝ろ。クソサイが」


九々津が強く握ると、角はベキベキと音を立てて、掴まれていた箇所が砕け散る。

が、芯は残っているのか九々津は割れた角に力を込め、無理やりにその巨体を『持ち上げる』。


「え? へ?……えええぇぇ!?」


およそあり得ない光景。

いや、先ほどのバックドロップも同じくらい現実離れしていたが、今回は片手、それも苦しむそぶりなど一つも見せていない。

手首を返し、今度はバックドロップではなく、直に地面に叩きつける。


「ブハフォッ!」


刹那岬は、すぐに異変に気がついた。

あのベヘモットの重量では、確かにかなり沈むだろう。

が、目の前のベヘモットの沈み方は明らかに異様だ。

まるで、物理的に押さえつけられているように沈んでいく。

ふと空を見上げると、灰色の馬鹿でかい魔法陣が浮かんでいた。


「【大分銅】」


やはり、九々津の魔法だった。

しかし、そこそこの付き合いでもある刹那岬でも、この魔法は見たことは一度も無かった。それに、普段は九々津の魔法陣の色は黒だ。ひょっとすると、髪と眼の色が変化したことが原因かもしれない。


「おい、サイ野郎よ」


動けないベヘモットに、にじりよっていく九々津。

首をいつものように、ゴキゴキと鳴らしている。

刹那岬は、明らかに立場が逆転しているその光景を、黙って見ている。


「眠る、時間だぜ」


ーー【分銅落とし】。


九々津は、開いた左手の掌に向けて、右拳を振り下ろす。

魔法陣が広がり、さらにベヘモットが沈む。

が、次の瞬間にーー。


グシャリ。


潰れた。

あまりの身体への負荷により、身体が耐え切れず潰れたのだ。

ベヘモットは血溜まりに浮かび、臓物をぶちまけていた。

刹那岬は、その状態に少し吐き気を覚えた。


「……ふ、うっ……」


どっ、と地面に膝をつく九々津。その髪と眼の色は、いつの間にか元に戻っている。

こころなしか顔色が悪い。


「……やー、やっぱり疲れるわ、あれやると」


確かに、これはいつもの冗談ではなく、かなり疲れているらしい。

顔も青く、怠そうな感じが一層増している。

が、九々津はなんでもないかのように立ち上がる。


「……さて、いくぞ、刹那岬」


「へっ? どこに?」


全くわからない、という表情の刹那岬。九々津はため息をついて、首をまた鳴らす。


「ーー島、荒らした奴んトコに決まってんだろ」

どうも、月影です。Twitterに投稿に忙しい忙しい……。え? テスト? なにそれ美味しいの?

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