第18話 セレーネさん
次回は明日更新予定です。
「痛っ」
ドスンッと私の体は地面に落ち、尻もちをつく。
「えぇ、魔法陣浮いてるじゃん」
落ちた方向を見ると、魔法陣は案の定宙に浮いていた
。
「……ユナさん」
隣には私と一緒に尻もちをつき、痛そうな顔をしているルークが居た。
「大丈夫、ルーク?」
痛みを堪えながら彼に手を伸ばす。
すると「すみません……」と言いながら申し訳そうに私の手を取った。
魔法陣はいつの間にか消えていて、周囲を見渡すと田舎景色が広がっていた。
「ここは……どこなんでしょう」
ルークが呆然としながら、そう小さく呟いた。
……確かに、さっきまで見ていた景色とは全く違う場所に来てしまった。
「取り敢えず、人を探しに——」
「……あら?」
突然、女性の声が背後から聞こえた。
振り向くと、白いワンピースに茶色のコルセットを付けた可愛らしい女性が立っていた。
「貴方は……」
私がそう聞くと、彼女は「ふふっ」と優しい笑みを浮かべた。
◇
「はい、どーぞ」
「……ありがとうございます」
カタッと机の上に置かれた料理を見てお礼を言う。
「まさかこの村に来客なんてねぇ、セレーネが連れて来た時は驚いたよ」
「助けて頂き……ありがとうございます」
あの女性の名前はセレーネさんと言い、彼女は私たちを自分の住んでいる家へ連れて来てくれた。
どうやらここはアルナ王国にある小さな村だと言う。
無事王国に入る事ができホッとしたが、村は王国の中心部からだいぶ離れている為、今日はこの村で一晩過ごす事にした。
彼女に連れられ家へ着くと、彼女のお母さんが笑顔で迎え入れてくれた。
「ははっ、本当に美味しそうに食べるねぇ」
彼女はそう言うと、もぐもぐと食べているルークを見つめていた。
「……っん!!す、すみません……」
「良いのよ、良いのよ。たくさんあるから好きなだけ食べてちょうだい」
恥ずかしそうに下を向いてしまったルークに、彼女は優しくそう言った。
……いや、さっきまで市場で食べてなかったけ。ちょっと食べ過ぎじゃないか?
私は隣で良く食べているルークを見つめて密かにそう思ってしまった。
「ルーク、ちょっと……」
私は彼に呼びかけ、「何です?」と振り向いた彼の口元をナフキンで拭き取った。
「……んっ?!」
驚いたのか、彼は目を見開きながら顔を真っ赤にした。
ルークを見ていると弟を思い出してしまい、つい世話を焼きたくなってしまう。
戸惑っているルークを横目に、私は小さく「はぁ」とため息をついた。
——ガチャッ
突然物音がして音の鳴った方向を見つめると、先程まで出かけていたセレーネさんが家へ帰ってきた様だった。
「ごめんなさい……祭りの準備をしていたの」
「……祭り?」
セレーネさんはそう言うと、私たちの元へ駆け寄り椅子に腰をかけた。
そんな彼女をセレーネさんのお母さんは呆れた様子で見つめていた。
「……もう、すぐどっか行っちゃうんだから」
「えへへっ、ごめんなさーい」
セレーネさんはそんな言葉に聞き耳を持たず、楽しそうに笑顔で微笑んだ。
「今晩この村で年に一度の祭りが開かれるのよ。それでこの子、張り切っちゃって」
セレーネさんのお母さんはそう言い、苦笑いを浮かべる。
——お祭り。
その言葉を最後に聞いたのは随分前の事だ。
私の居た村ではそういう行事みたいなのは滅多になかったから、私は少しだけ祭りという言葉に胸が高鳴る。
「ねぇ、この子……とっても綺麗な瞳ね」
「えっ」
セレーネさんはそう言い、ルークが被っていたフードを外そうとした。
——あ、やばい。
そう思った時には遅かった。
食事をしていたルークは抵抗する事ができず、フードは頭から外れてしまった。
「まぁ……!!」
ルークの顔を見た二人は息を呑む様に彼を見つめる。
ルークは固まってしまい動けなくなってしまった。
「見られた」と瞬時に脳が理解する。
——どうしよう、どうしよう、どうしよう。
私はパニック状態になってしまい、体からは冷や汗が溢れ出る。
「ねぇ、この子名前は?もしかして貴方達は姉弟か何かっ?」
セレーネさんは目を輝かせながらそう言った。
——そうだ、姉弟……!!
「そ、そうなんですっ!! 私たちは姉弟でっ!!」
私は咄嗟に考えたその設定で彼女たちを誤魔化す事にした。
セレーネさんはどこか不思議そうに私たちを見比べたが、しばらくして「そうなの」と返事を返した。
あからさまに信じてくれてないのが分かる……。
「あ、あのっ……お祭りって今晩ですよね? 私たちも参加しても良いですかっ?」
話を変えるために二人にそう問いかける。
するとセレーネのお母さんが「ええ、もちろんよ」と答えてくれた。
疑っていたセレーネさんも「きっと村の住人も喜ぶはずよ」と笑って微笑んだ。
「良かった……」と私は内心ホッとし、安堵のため息を吐いた。




