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35.非情な合成に


「おいおい、本当に行くつもりなのか?まともに剣も握れねえのに、助太刀なんてできねえだろ?」


ズーエルは純粋に僕のことを心配して強い口調で言う。

僕はラウザントたちの持ち場に現れたであろう迷企羅のアミュタユスと相対するべく動こうとしていた。


きっとやつは僕のことを嗅ぎつけてきたのだろう。だとすれば、僕のせいで多くの人が死ぬことになる。


魔王軍の幹部の力はそこらのA級冒険者では敵わない。僕の力がA級冒険者ほどある自信はあんまりないけれど、それでも僕には六欲天とも戦った経験がある。僕が行けば大なり小なり手助けができるはずだ。


僕のこの下らない卑下に拘っている場合ではないのだ。剣を取れ、戦え、ラインハルト・リューネル。


〈勇者〉かどうかなんて今は関係がない。真の勇者じゃなくとも、戦わねばならない時だってあるだろう。それが今だ。


「行くよ。僕が行かないといけないんだ」


僕は剣の柄を固く握りしめる。


「そうか……。相わかった。ラウザントとランギュムントを頼む」

「うん、頼まれた」

「はっ。そんな目ができたとはな。とっとと行ってこい!」


ズーエルに思い切り背中を叩かれた。それは彼なりの激励なのだろう。


「行ってくる。ここは任せたよ」

「今さら小僧に言われるまでもない」


僕は腰を落とし、思い切り地面を蹴って駆け出す。






とてつもない速さで駆け抜けて行ったラインをズーエルは呆然と眺めていた。


「やっぱりか」


ズーエルはやれやれと首を振る。


「いくらなんでも爪を隠しすぎだと怒りたいところだが、何にせよ今はあいつらを頼んだぞ……」





業物でもなんでもない、それでも僕の打つ物より歪みのない剣を片手に、木々の合間を縫って最短ルートで迷企羅のアミュタユスが現れた地点に向かう。


ラウザントとランギュムントの持ち場は、ルートレイの地理に明るくない僕には自信がないが、アミュタユスの放つ異様な存在感の濃くなる方向へ進めばよかった。


そうして十五分ほど走った頃、向かう先から奇怪な獣の雄叫びが聞こえた。こんな鳴き声の魔獣は知らない。


辛うじて見える先、一部更地になっているところがあった。雄叫びはそのあたりから聞こえていた。





「おや、その容貌は」

「探し人」

「陛下の宿敵」

「勇者ラインハルト」


二重の螺旋を描く首から伸びる二つの頭から不快な声が交互に発せられる。


「迷企羅の、アミュタユス」


「ぎゅガ、ギガがガガ!」


呟くと、邪魔をするようにアミュタユスが侍らせている獣が唸った。

その獣は二足で立っているが、腰あたりから逆さまに二本の足が伸びている。臍から爬虫類のような尻尾が生え、腕は胸あたりで交差するように四本ある。そして頭部はアミュタユスのように二つ。


そう、二つあった。


僕の記憶にある顔が、二つ。


「ら、ラウザント?ランギュムント?」


その獣の二つの頭部はラウザントとランギュムントのそれに似ていた。あまりにも酷似していた。脳が情報の処理を拒む。


確かに、体は人型の生物を二つ分くっ付けたようではある。半分が僕と似たような肌、もう半分は爬虫類のような、つまりはリザードマンの肌。


「ご明察」

「ニンゲンとトカゲビトの華麗なる融合」

「勇者を殺せ、ラァト」

「やれ、ラァト」


ラァトと命名された、ラウザントとランギュムントだったそれは、創造主の命令に従って動き出した。


ひとつの手には燃えるような赤い刀、ひとつの手には刀身の幅の広いバスターソードに近い剣。

歪な剣筋から二本が繰り出される。出鱈目だが、とてつもない膂力だ。


後ろに力を逃がしながらいなし、後方へ飛んで距離をとった。


「ラウザント!ランギュムント!僕だ、ラインだ!」


呼びかけに対する答えは不愉快な咆哮だった。


「無駄だ無駄だ」

「合成に成功した時点で既に死んでいる」

「陛下のお力とて、合成した生物を元に分解することはできぬ」

「そのままで生きるか、そのままで死ぬか」


アミュタユスの嘲笑は、剣戟に消えた。




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