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36.異形と相対す



迷企羅のアミュタユスにラァトと呼ばれた、ラウザントとランギュムントだった怪物は徐々に肉体の動かし方に慣れてきたのか刻一刻と動作が巧みになってきている。


「ぎ、ゅるるるルル」


二本の剣と二本の腕が縦横無尽に繰り出される。しかもそのうちのひとつはただの剣ではない。

敵を切れば切るほど持ち主を癒す転回の魔刀コペルニクス。

その轟々と燃えたぎるような刀身が、真紅の残像を扇状に放って迫る。


「くっ」


剣の腹で斬撃を滑らせていなす。

完璧に受け流せているはずが、手には痺れ。尋常ならざる膂力だ。

四本の手にばかり集中し、五本目が存在することが思考から完全に外れていた。


五本目、つまりは蜥蜴の尻尾が僕の脇腹を殴った。


「がは」


そのまま薙がれて横に吹き飛ばされる。転がりながら受身をとってダメージを減らす。


明らかに僕の剣を振るう腕が鈍い。

単純に握っていなかったからというわけではないだろう。

ラウザントとランギュムントを元に戻せる可能性があるのではないかという考えが頭をよぎり続け、動きを大幅に鈍らせていた。


アミュタユスは戻らないと言っていたが、それだってブラフかもしれない。


「ぎゅルルる……ら……イと」

「ころし…ぎぎギ」


歪んだラウザントとランキングだった頭部から言葉が聞こえた。


「ラウザント!ランギュムント!まだそこにいるんだな!?」


再度の問いかけに対する返答は一閃。だがそれは今までより明らかに緩慢で、避けるのは容易かった。


「丁寧に合成しすぎて定着に時間を要しているのか」

「今一度手を加えようか」


背後で戦闘に参加せず観戦しているアミュタユスはゆっくりと異形に近づき、その太い足に触れた。


「みギャァァァァァァァァァ!?」


とても生き物の発声とは思えない絶望的な絶叫がこだまする。


一見すると何も変化はないように思える。ただし、雰囲気が豹変していた。


今までのどこかぎこちない不安定な印象が消え、そう、たとえるなら一個の生物としての存在感があった。


「ィギュギュ」


予備動作なく繰り出された右からの一撃を受けきれないと判断し、跳躍。

先程までいた地面は人ひとりが埋まるほど抉れ、土煙が高く舞い上がっている。


「ラウザント。ランギュムント」


もはや二人の救出を考えて立ち回れる領域を超えてしまっていた。あの一撃はおそらく本気ではない。本気ではない攻撃だが受けられないだろう。

僕の力不足のせいだ。


いつだってそうだ。

僕自身の力はいつだって足りない。足りていない。

そのせいで、もう少し力があれば助けられたであろう命を取りこぼしてきた。


こんなのが勇者だなんて。


「とんだお笑い種だ」


剣を握り直す。


「ラウザント、ランギュムント…僕は――」







キュリアス最高クラスの冒険者パーティー、明けの明星の一行の車は巨大な三頭の獣に足止めされていた。


三匹という意味での三頭ではない。三つの頭を持つという意味での三頭の獣である。


「あの魔獣は知っているか?バンス」

「見たことねえなあ。三つ首のワン公なんざ。不気味すぎるぜ」

「ルーファスさん、バンスさん、気を引き締めてくださいね」


ケースは慣れた手つきで二人に強化を施す。


「小手調べついでに全力で行こう」


ルーファスは金色の髪をたなびかせながら馬車から飛び出し、


「纏爪牙――反日蝕、反月蝕」


両手に弧を描く光の剣が現れる。獣人固有の能力、纏爪牙だが、彼のそれは爪というより二振りの刀剣だった。


「切蝕」


二閃の剣筋が交差し、異形の魔獣を食らう。


「ぎゅるオオオォォォォオオオオ!」

「ちぃっ」


三頭魔獣は唸り、体をめちゃくちゃに捩る。

その巨躯との衝突を避けるために、ルーファスは犬を足蹴にして軽やかに飛び退いた。


「A級以上の魔獣だな。S級と呼べるほどではないが。こんなのがいたことなんて今までないが」

「考えるのは後でいいだろ?先に潰しちまおうぜ」


眺めていたバンスは拳を鳴らしながら獰猛な笑みを浮かべる。


「早く倒して下さいね。面倒なので」

「はっ、当然!」


バンスは小型の盾のような篭手を装着し、魔獣に向かって一直線に突っ込む。


その後ろにルーファスがぴったりとついている。

三頭魔獣は脚をデタラメに振り回して攻撃を当てようとするが、バンスが篭手で鮮やかに受け流した。力に全て任せそうな見た目でありながら、技術は非常に繊細で卓越している。


防御をバンスに任せたルーファスは自身の出せる最大火力の技で仕留めきれなかったことから、ダメージを蓄積させる方向に戦法をシフトさせていた。


同じ位置に斬撃を浴びせ、まず一本の足を切り飛ばす。


だが、足を失ったというのに魔獣は何も気にした様子がない。まるで元々それは自分の足ではないと言わんばかりだった。


「次」


ルーファスは気にせず作業のように魔獣の足を切り続け、十本を落としたところで魔獣は腹から地面に倒れ込んだ。もはや自重を支えられない状態だった。


「動けなくなったとはいえ、こいつを放置するわけにはいかねえよな」

「ああ」


するとルーファスはバンスに切りかかる。

一撃、二撃と攻撃の手を休めず、バンスは腕を交差させて篭手で防ぐ。


「……おい、そろそろいいだろ」

「そうだな」

「遊んでただろ絶対」

「念には念を、だ」

「あー、そうかよ!」


バンスは受けた攻撃を蓄積して返すカウンターを魔獣に向けて放った。


「攻撃は最大の防御ってなァ!」


三つ首の魔獣はひしゃげ、どす黒い血が溢れ出た。


「危なげはなかったとはいえ、今までとはどこか違うな」

「気のせいじゃねえか?」

「いえ、妙ですね。今の魔獣もおそらく記録にない個体でしょうし」


明けの明星は考え込むが、あまりに情報が足りなかった。


「ひとまず誰かしらに合流するとしよう」

「全員死んでなきゃいいけどな」

「罰当たりですね。バンスさんが死んだ方がいいです」





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