その46:また会えたあなたは
3ヶ月ぶりの更新です。
「お姉ちゃん……」
その一言を絞り出すように呟くことしか、俺にはできなかった。
涙腺はその機能を完全に停止し、止めどなく溢れる涙が収まる気配は一向にない。
そんな俺をリンは何を言うでもなく、ただ黙って抱きしめてくれる。涙が止まりそうになっても、愛する人に抱きしめられる安堵と多幸感によりまた涙が溢れるという、イイ意味での悪循環……結局俺が落ち着いたのは、それから少し先の事だった。
「落ち着いたかい?」
「はい……おかげさまで」
泣きすぎて腫れた目をリンの胸でこすり、鼻をすすりながら返事をする。
「結局その喋り方か……」
懐かしさを噛みしめ、今を残念に思ったような……そんな雰囲気を纏ってこぼれ落ちた独り言。
「私の最期……あの時はずいぶんと、男前な告白をしてくれたじゃないか?」
「うっ」
だが次の瞬間には圧倒的な羞恥心となって、俺の身に降り注いできた。顔が一瞬で耳まで真っ赤になり、リンの胸に顔を深くうめることで照れ隠しを試みるが、
「確か『俺はリンを愛してる』だったけ?」
「うっ!?」
無駄だった。むしろ追撃と言わんばかりに俺の心のHPをゴリゴリと削ってくる。しかも若干演技が入っている分、よけいに質が悪い。やめて! 俺のHPはもう0よ!
湯気が出ているんじゃないかと思うほど熱を帯びた頭に、ひんやりと程よく冷たい手が置かれる。
「私はね。嬉しかったんだよ……本当に」
不意に呟かれた声は先ほどとは打って変わり、切ない喜びを自分に言い聞かせているようだった。
俺の頭を抱きしめている腕に少し力が入ったが不快感は全くない。むしろ安心感が増すくらいだ。
ーーー懐かしい。
まるで出会った当初の、湖での一時に戻ったように錯覚するほど懐かしい。
今となっては遠い昔に感じる過去に思いを馳せて、無意識にリンの鼓動に耳を澄まそうとするが……昔は聞こえた心臓の音が、鼓動が、聞こえない。
その事実がたまらなく悲しい。どうしようもないほど寂しい。喪失感と寂寥感が溢れてくる。
「ほら、また泣いてる」
気がつけば俺はまた泣いていた。この人の前では本当に涙脆くなってしまう、そう自覚すると去ったはずの気恥ずかしさが再び込み上げてきて、悲しんだか、寂しいんだか、恥ずかしいんだか、何がなんだかわからなくなってしまった。
「ねぇ、エリス」
「グスッ……なんですか?」
上目遣いで見上げると、息がかかる距離にリンの顔があり、目が合う。
肌に当たる吐息の甘い香りと、貫くような真っ直ぐな視線に、不覚にもドキッとしてしまい、猫耳がビクッとなった。
それを知ってか知らずか、リンの口元に微笑みが浮かぶ。
「そんなに寂しいかい?」
何を言うかと思えば……その問いの答えはあの日から既に決まっている。
そんなの、
「当たり前じゃないですか」
ふとした拍子に溢れ出す寂しさの器に蓋をしながら、俺はこの人がいなくなった白黒の世界を生きてきた。今でこそ若干落ち着いているが、気を抜けば心が壊れてしまいそうになる。それほどまでに俺は、精神的にリンに依存していたのだ。
「じゃあ、そうだね……寂しくなくなる魔法をかけてあげる」
「……愛の魔法ならもうかかってるので効きませんよ?」
「あははは、そんな事言われたら、今すぐ押し倒したくなるよ」
「良いですよ、いつでも来てください」
そう言った瞬間リンが物凄いナニカに耐える素振りを見せ、深呼吸を繰り返してやっと落ち着いた表情になった。謎い。
「まったくエリスは……ほら、さっさと目を閉じて」
「むぅ~」
急かされて、リンに流されるままに目を閉じた。真っ暗な世界が視界を支配する。目を開けたらリンがいない……ふと考えてしまった。
途端に怖くて、恐ろしくて、体の感覚が抜け落ちていく。今抱きしめられているのかすらわからなくなってしまい、焦燥感にかられ急いで目を開けようとした瞬間、
ーーーチュッ。
キスされていた。心臓が跳びはね、体が小刻みに痙攣を繰り返す。
この夢のような甘美で幸せな時間が、いつまでも続けばと思わずにはいられない。唇を離すと、お互いに少し息が上げっていて、それが可笑しくてどちらともなく笑った。
「お姉ちゃん……暖かい」
「結局はその呼び方かい?」
「その時の気分で変えます」
「あはは、なんだそりゃ」
向かい合う形で抱き合ったまま他愛ないことを話し、しばらくして俺は今最も確認しておきたいことを切り出した。
「お姉ちゃん……また、会えますか?」
「会えるさ」
その返事は実にあっさりとしたものだったが、ただ、と付け加えてリンは俺に説明してくれた。
彼女の話では、今は『霊体』と呼ばれる存在で、別名を精神生命体と言うらしい。悪魔や悪霊と似たようなものだと言われた。
しかし、生きていた頃の人格と記憶は欠落している部分が少しあるらしく、俺が悲しそうな顔をすると優しく頭を撫でてくれた。
「私はエリスが知ってる『リン』じゃない……けど、それでもいいかい?」
それに対して俺は抱きしめる腕に力を入れ、無言で肯定の意を示した。
「残念ながらエリスから私に会うことはできない……今のところはね」
今だって少しずつ溜めた俺の魔力を使ってやっと会うことができている状態なんだと教えてくれた。
「でも方法が無いわけじゃない」
その言葉を聞いて、俺の胸には希望の灯火が宿った。
「依り代があればそれに憑依する形で存在の安定化ができるし、エリスの方からも会うことができるようになると思う」
あくまで予想だが、やってみる価値は十二分にあると思う。
「うっ……」
唐突に抗えないほどの、凄まじい眠気が俺を襲う。これは恐らく現実の目覚めを意味するのは直感で理解した。
「また会おうエリス。少しのサヨナラだ」
リンがいなくなって一番嫌いになった言葉を当の本人に言われる。そのことに皮肉を感じずにはいられないが、その後の記憶は濁流のような睡魔に流されてしまった。
まいど、皆さんご機嫌よう四葉です。
今回はとある方からの強い要望と、四葉の願望を合わせた一話でしたが……いかがだったでしょうか?
四葉の感想は「姉妹百合は最高だぜ!」の一点です。そしてやはり、小説を書くのは難しいと痛感する今日この頃ですが、次回の更新は相変わらずの未定です。気長にお待ちいただければと。
では。




