その47:嫌な懐かしさ
約半年ぶりの更新です。
ブクマを剥がさずに待ってくれている読者の皆様に感謝を。
目を開けると、水面に写る曇天の夜空が見えた。実際は溜まった涙で視界がぼやけているだけだが、暗い天井と寝惚けが合わさってそんな事を思った。
肌に当たる空気はうっすらと冷えていて、しかし不思議な懐かしさを感じた。
「あれ、俺は……」
何か夢を、それも凄く幸せな夢を見ていた気がするが、何一つ霧がかかったように思いだせない。瞬きをすると溜まった涙が頬を伝って流れていく。それを拭おうとした時、初めて俺は自身に感じていた違和感の正体に気が付いた。
「なんだ……これ」
空気が冷たい、当然だ、薄い布切れしか身に付けていないのだから。
違和感を感じた、当たり前だ、手と足には無骨で重厚な枷が付けられているのだから。
漂う空気に懐かしさを感じた……それもそのはず。
「なんで……なんで、俺が檻に入れられているんだ?」
忌々しい過去を彷彿とさせる、人を決して逃がさない為に作られた檻に監禁されていた……その事実は、僅かにあった夢の残幸感を塗り潰すのには十分だった。
パニックに陥りそうになる思考を必死に押さえ付け、恐る恐る周囲を見回す。すると同じような檻が7つあり、囚われている者は皆目が死んでいて、生ける屍のような有り様だ。ちなみに全員薄汚れているが、整った顔立ちの女の子。やったぜ。
気がかりなのが意識を失う直前まで共にいた鬼っ娘と、その際に離ればなれになってしまった火無華だ。まぁ、後者は最強で最狂の護衛が付いているから多分大丈夫だとは思うが、それでも心配してしまうこの親心……いや、親じゃないけどさ。
それはさておき、いつまでもこんな状況でいたいと思う特殊な性癖はあいにく持ち合わせていないので、さっさと鬼っ娘を探して脱出させてもらうとしよう。
枷に魔力を流すと、案の定魔法が発動しない。既にこのシチュエーションにもいい加減慣れた自分に、少し呆れてしまう。
手慣れた容量で枷の許容量を越える魔力を一気に流し込むと、枷がバキンッと音を立てて外れた。枷はアイテムボックスに収納しておく。
そして申し訳程度に体を隠している布切れをパージして、素早くいつもの戦闘服に着替える。全身を包み込む固い感触の服に安心感を覚えながら、金属製(魔法付与あり)の扉をヤクザキックで蹴り壊した。
檻から出ると同じように囚われている少女達が、ハイライトの消えた虚ろな目でこちらを見ている。これがゲームだと選択肢が出てきそうだが……残念ながらここはゲームではないし、選択肢を選ぶのは彼女達だ。
「俺に付いて来るか、ここで死ぬか……選べ」
俺が言い終えると同時に、全ての檻が一瞬揺らいで消失する。行き先はもちろんアイテムボックス。限りある資源を大切にする精神は大切にしたい……決して無料で手に入る鋼材に目が眩んだわけじゃない。ないったらない。
そして既に後の祭りなのだが、今言った自分のセリフは少しーーいや、かなり恥ずかしい事を言ってしまったのではないかと思ってしまった……穴があったら今すぐ飛び込みたい。
内心でまた似合わない面倒事を拾ったと自分に呆れるが、性分だから仕方ない。今から火無華に言う言い訳を考えなければならないことを思うと、頭が痛くなりそう……絶対「ご主人の浮気者~!」とか言われそうだ。
きっと目尻に涙を溜めて、大した威力もないパンチでポカポカと叩いてくるだろう……なにそれ、絶対に可愛いだろ!俺を萌え死にさせる気か!見たい、是非とも生で見たい!
「あっ……あの」
「ハッ!」
声をかけられ我に帰ると囚われていた少女達が一ヶ所に集まっていて、彼女達を代表して恐る恐るといった感じで茶葉色の髪をした女の子が目の前にいた。この娘が話かけてくれなかったら、俺は妄想という名の大海原から帰ってこれなくなるところだった。危ない危ない。
「あの……わ、私達を救ってくれるんですか?」
この娘の瞳を覗き込むと、僅かな希望にすがりたい気持ちや、不安、疑心、諦めなどがごちゃ混ぜになったような感情が浮かんでいた。その証拠に、彼女の瞳は暗く濁り、希望よりも絶望と諦めが色濃くうかがえる。
目の前に現れた蜘蛛の糸を見て「掴まっても、どうせ千切れるでしょ?」と言った心境だろうか。あいにく、それを黙って見捨てれるほど俺は器用な性格をしていない。例え偽善者だと言われようとだ。
「君が救いを求めるのなら、俺は力を貸そう」
「でも私は……私達は、あなたに渡せる物がこの体と命しかありませんーー」
それでも自分達を救うのかとーー彼女の目は言わずとも語る。
「あぁ、もちろんーー」
そして俺は今の会話の間に組み上げた魔法を行使する。一ヶ所に集まっていた彼女達を取り囲むように魔方陣が展開され、銀と紅が混ざった魔力が渦巻いて光が強まっていく。
あまりにも突然の出来事で皆唖然とする中、茶葉色の髪をした彼女だけが俺の目を見つめていた。
「悪いけど、先に行っててくれ。ちょっくら暴れてくるからさ」
転移魔法が発動する瞬間に彼女が何か言っていた気がするが、残念ながら聞き届けることはできなかった。
しかし唇の動きで汲み取った彼女の言葉は何とも口元がにやけてしまう。
「無事で……か」
誰もいない監獄は相変わらず冷たい空気に満ちているが、後にする俺の心は温かく使命感に溢れていた。
まいど、半年ぶりの四葉でございます。
今さらですが、うちの子はよく気絶するな~と、書いていて思いました。ネタやイメージがある時はすぐに繋げて書けるのですが、それが無いときに気絶されたらどうなるか……このザマです。はい。
そして気がつけばもう少しで今年&平成が終わるという……一年は早いですね。
年を越す前に2話更新を目標に頑張ります!
では。




