その38:前を向いて
1ヶ月も間が空いてしまってすみませんm(__)m
「お姉ちゃん......リン、俺はリンを愛してる」
泣きながら告げる喋り方が戻っている俺の告白を、リンは少し目を見開いた後に微笑みながら答えてくれた。
「その喋り方の方が似合ってるよ......ありがとう、エリス。 私も愛してる」
ーーチュッ。
リンとの最初で最後のキスは甘く甘美で......少し涙の味がした。溢れる涙が目尻に溜まってはこぼれ落ちる。
2~3分くらいだろうか?余韻を残しながらも、顔を離してリンの顔を覗き見る。目にかかっていた前髪を人差し指で避けると、閉じた目蓋から涙か雨水か、はたまた俺が流した涙かはわからないが、液体が伝っている。
元々白かった肌は血の気が引いてさらに青白くなり、全身から絶え間なく冷気が放出されている。
心臓に猫耳を当てて心音を聞いてみる......何も聞こえない。
首筋に指を当て脈を探ってみる......何も感じ取れない。
ーーもう死んでいた。
「あっ......あぁ」
リンの体を抱えていた腕には、じわじわと嫌な冷たさが染み込んでくる......実際には、コートを着用しているからそんな感覚はないはずなのに......。
「がっ......はぁ......はぁ」
呼吸が荒く乱れていくのを止めることができない。
頭の中が真っ白になっていく......辛い、苦しい、寂しい、悲しいーー感情の受け皿から負の感情が湧き水のように止めどなく溢れていく。
「うっ!?」
突如左目に激痛が走った。
熱した油が目に入ったような......焼きごてを目に押し付けられたような......とにかく左目が熱くて痛い。
「あ、ぐっ......あ、熱いっ!」
心臓が脈を打つごとに、どんどん痛みと熱量が増しているようにすら感じる。自分で自分を制御することができない。
「ぐっ......がっ、があ"ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーっあああああ!!!!!」
そして俺は胸に渦巻いていた負の感情がごちゃ混ぜになったような苦痛を、感情に任せて解き放った。
ーーーーーその後のことは......よく覚えていない。
# # # # # # # # # #
「......」
どこまでも広がる"白"一色の空間。その中にポツリと存在する椅子......否、椅子と呼ぶにはいささか装飾が多いことから"玉座"と呼ぶ方がしっくりくる。
その玉座に腰を下ろしているのは、エメラルドグリーンの瞳に砂金のようなプラチナブロンドの長髪をサイドテールにしている美少女だ。
幼く見えるが容姿は非常に整っており、美の神が全身全霊で創造したビスクドールのようだ......いや、事実上の"美の神"である女神フレイヤにとってはそんなこと1万年と2千年前からわかりきっていることだ。
ネタを少々挟んだが、そのフレイヤは目の前にある巨大なスクリーンを食い入るように見ている。厳密に言えばスクリーンではなく、神ならば誰しもが扱える"神の窓"と言う能力で、主に神が下界を監視する際に用いる。
今フレイヤが見ているのは、当然エリスだ。
しかし"神の窓"にエリスの姿はなく、代わりにすさまじい爆音と光が映る映像を支配している。
「エリスちゃん......」
名前を呼んだところで返ってくる返事はない。だが、呼ばずにはいられなかった。
やがて轟音が鎮まり、目映い光が消え失せる。そして、再び映像を映した"神の窓"に......、
「なっ?!」
そこに『王都 桜木王国』は存在していなかった。
爆心地もなにも関係なく、王都全域が目測でも最低50mは陥没してる。そこから立ち上るのは、核爆弾を彷彿させる雷を纏ったどす黒いキノコ雲だ。
フレイヤは時間が経つのも忘れて、目の前に映る悲惨な光景をただただ見ていた。
「......あっ」
思わず喉から飛び出した声......その理由は、立ち上る漆黒の煙の中から小さな小学生ほどの背丈の少女が、自分よりも大きな女性をお姫さま抱っこしながら出てきたからである。
「えっ......ウソ」
フレイヤの反応は最もだ......その出てきた少女は、背丈こそ違えどエリスその人なのだから。
# # # # # # # # # #
視界が白銀の世界に支配される。
踏みつける地面は雪と氷に覆われ、俺が足を踏み出すたびにしっかりと俺の足跡を刻んでいる。
「......」
しかし、肌を突き刺す寒さも側面から吹き付けられる風雪も、今は全てが他人事のように感じられる。
「GAAAAAAAAAAAAAA!!!」
例え目の前にこの雪山の支配者である氷竜がいたとしても無関心......そこにあるのは冷静さなどではなく、恐ろしいまでの無感動。
そうしている間に、氷竜の噛みつき攻撃が迫ってくる。
大型トラックでさえ一飲みにしてしまえるような巨大な口......そんな生命の危機が目前に迫ってるというのに、額縁の外側の景色のように感じてしまう。
抱き抱えているリンを落とさないように注意しながら、タイミングを合わせて竜の顎を蹴り上げ、さらに空中で回転による遠心力を加えた横凪ぎの蹴りで竜の頭を蹴り飛ばす。
「?!??!!」
今起きてる現実が理解できていないのか、目を白黒させながら吹き飛ぶ氷竜......それを無視して、先に進む。氷竜が追って来ないことを一瞬不信に思ったが、すぐにどうでもよくなってしまった。
しばらくしてたどり着いたのは、直径60メートルはありそうな円形状の開けた場所だ。この場所は不思議なことに風が吹いていなく、ただちらちらと淡雪が降っている。
その中心に氷魔法で棺桶を創造し、その中に抱き抱えているリンをそっと寝かせる。
光が氷に射し込んで乱反射し、キラキラと輝いている。その眩い光の中で眠っているリンは、神々しく......そして、とても美しかった。
「リン......おやすみ」
額にそっと口付けをして棺桶に蓋をする......そして棺もろとも魔法で氷付けにし、解けないように結界を施す。そして結界の媒介として『氷剣フィンブル』を墓標のように突き立てた。
一瞬凄まじい冷気が氷剣フィンブルを中心に吹き荒れる。そして凍っているまつ毛を気にしながら目を開けると、そこには決して溶けることのない氷の結界が完成していた。
そして先程までに胸の内を支配していたモヤモヤは、いつの間にか晴れていた。あるのは穏やかな爽快感と、前を向いて生きようと思える活力があるのみだ。
「お前は......いったい何者だ?」
突然投げかけられた言葉に振り向くと、白と蒼を基調とした振袖の和服に身を包んだ美しい美女がいた。
青白いメッシュの入った白銀の髪を後ろで束ね、その縦長の瞳孔が特徴的な眼はこちらの全てを見透かしているように鋭く凛としている。
頭の横からは短いが竜の角が生えていることから、この絶世の美女が氷竜だということはすぐにわかった。
「何者、か......俺自身でも......よくわからないんだ」
「なぜだ?」
「なぜ?......わからない」
「そうか。では、なぜお前はここを訪れた?まさか......我が目的ではあるまい」
スッ、と目を細めて目的を問うてくる氷竜。
恐らく今までも氷竜を目的に山を登ってきたならず者達がいるのだろう......竜の牙や鱗は、武器や防具にうってつけの素材だからな。
その他にも爪や体毛、内蔵や瞳に至るまで余すとこなく利用価値がある竜は『富、力、名声』の象徴とまで言われるほどだ。
だからこそ俺は嘘偽りなく目的を話す。
「ここには......姉を眠らせるために......墓を造りに来た」
一拍置いてから、目を合わせてはっきり告げる。すると氷竜は、虚空を見つめて少し何かを考えるような素振りをした後に、どういう風の吹き回しかこんなことを提案してきた。
「墓、か......ならば、我がその墓を護ってやろう」
「......えっ?」
「聞こえなかったか?我がその墓とやらを護ってやると申しておる」
「......なぜ?」
「さぁな......自分でもよくわからん」
目を閉じてフッと口元に笑みを浮かべて、先程俺が言った答えをそのまま返す氷竜。俺も目を閉じて思考する。
(結界は一応張った......しかし絶対的な保証はない......守護者はいないよりいた方がいいか)
目を開けて氷竜にゆっくり歩み寄り、目前で止まってから魔法で足下の氷を持ち上げ、目線が合う位置まで高くする。
(あれ、今気づいたけど背が縮んでる......まぁ、いいか)
一瞬浮かんだ疑問をどうでもいいことだと瞬時に割りきる。
「氷竜......お前の名前を聞きたい」
「名前?我にそんなものはない。氷竜でも何でも勝手に呼ぶがいい」
勝手にと言われてもなぁ......そうだ、
「俺が名前をつけてやる」
「な......何?!き、貴様の正気は確かか!」
急に慌てふためく氷竜......何か問題でもあったか?
目の前で表情をおもしろいくらいにコロコロ変える氷竜を放っておいて、俺は勝手に氷竜の名前を考えることにした。
(氷竜......氷......雪......ん~)
悩むこと数分。
「決まった。お前の名前は氷もとよりアイスからとって『アイシャ』だ」
「アイシャ......それが我の名前......」
「どうだ?気に入っ......ぐっ?!」
氷竜......いや、アイシャに名前をつけた途端に猛烈な倦怠感に襲われる。しかし、この感覚には覚えがある......まるでスニルと契約したときのような、
「まさか......今ので"従魔契約"が完了、したのか......?」
通常なら対象となる魔物を瀕死まで追い込み、屈服させたところで"名前'を媒介に対象を縛り従属させる儀式だが......"竜"とて魔物の一種。この一連のやりとりで契約が完了したということは、その条件を知らないうちに満たしていたのだろう。
「アイシャすまな......んぐっ?!」
勝手に契約してしまったことに微かに残された罪悪感が刺激され、謝罪しようと思って顔を上げたら強引にキスされながら押し倒された。
体格差のせいで俺が無理矢理襲われているように見えなくもないこの状況......『お巡りさん、この竜です!』と言いたくなる。イェス ロリータ ノータッチ......OK?
「ん、ちゅっ......ぷはっ、このエロ竜......いい加減にしろ~!」
全身に雷を纏う魔法を、アイシャを抱き締めながら発動。
「んぐっ?!......アバババババババババババババババババババ!!!」
魔法を止めるとそこには、全身をビクビクと痙攣させながら白目を剥いて気絶している残念な美女がいた。
# # # # # # # # # #
色々トラブルはあったが、心強い味方が増えたことは素直に嬉しい。これで俺は多少なりとも安心してこれから旅に行くことができる。
頭だけで振り返ると、吹雪に包まれた雄大な雪山がこちらを見下ろしていた。あの頂上に愛した人が眠っていると想うと、登るときには感じなかった感慨深い気持ちが込み上げてくる。
こうして自然を感じていると、自分がとてもちっぽけに思えてしまうのは何も俺だけではないだろう。
「ここまで来ればもう大丈夫だ。ありがとな、アイシャ」
「......もう、行ってしまうのか?」
ここまで律儀にも送ってくれたアイシャに背中越しに感謝を述べると、とても寂しそうに出発を惜しむ声が投げかけられる。
「俺はこれからやらなくちゃならないことがある......その為にも歩き続けなくちゃいけないんだ......リンの為にも」
「......そうか」
お互いに沈黙が流れる......猫耳に当たる風の音がやけに大きく聞こえる中、先に静寂を破ったのはアイシャだった。
「たまに......たまにで良い、気が向いたら顔を見せてくれ」
「あぁ、わかった」
その言葉を最後に俺は歩きだす......しかし、50メートルの距離からでも俺の優れた聴覚は後ろから聞こえる涙声の嗚咽を聞き漏らさなかった。
「......あ"ああぁぁあ、もう!!」
バッと身を翻し、進行方向とは180度反転してアイシャの元まで全力ダッシュする。
風と音を置き去りにして、あたかも瞬間移動のように一瞬でアイシャの目の前まで戻って来る......一拍置いて風が雪を巻き込んで吹き荒れる。
へたりこんで、両手で顔を覆っているアイシャの手を強引に引き剥がすと、両目からは頬を、夜空に降り注ぐ流星のように大粒の涙が流れている。
「お前に......まだ言ってなかったことがある」
「えっ?」
泣いたせいで赤く腫れた両目をぱちくりさせるアイシャ。
「名前だ......俺の名前をまだ言ってなかったな」
ただの自己紹介なのになぜか涙が止まらない。
「俺の名前はエリス......ただのエリスだ」
その名はいずれ伝説になるとある女王の名前......しかし、エリスがそこまで辿り着くのはまだ先のこと。
まいど、四葉です。
まずは、第2章の完結をここに宣言いたします。今まで告知詐偽のようなことを何度もしてしまい、申し訳ありませんm(__)m
これからも至らない所があるとは思いますが、何とぞよろしくお願いします。
そして次話から第3章に入りたいと思います。四葉もシリアスはもうお腹いっぱいなのでネタあり、笑いあり、百合ありな話を書いていきたいです......がっ、これからの展開はハッキリ言って未定です。
よくもまぁ、プロットなしでここまで来たものですよ......なので、今月はもしかしたら更新は難しいかもしれません。ですが、もう一話投稿を目標に頑張ってみます。
長くなってしまってすみません......そして改めて、ここまでこの作品を呼んでくれてありがとうございます!m(__)m




