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その36:再会と内なる神

「リン......」


 口から自然と零れた名前......脳内で走馬灯のように蘇るリンとの思い出......そして結局言えなかった俺の気持ち。全てがごちゃ混ぜになったような感情が心に流れ込んでくる。


「待ってエリス!」


 姫さんが何かを叫んでいるが、今はどうでもいい。


「お姉......ちゃん」


 会いたかった。

 俺はリンに会いたかった......たとえ価値観が狂っても......それでも俺は、


「また......会いたかった」


 ゆっくと歩いたのは最初の数歩ほど......それからは若干駆け足でリンとの距離を縮めていく。

 もう二メートルという所で立ち止まり、改めてリンと向かい合う。顔は若干俯いていて、目元を雨に濡れた前髪が垂れ下がって隠しているが、それでもリンだと俺には確信できる。


 感極まるとはこういう心情なのだと初めて理解できた気がする......一気に踏み出してその華奢で消えてしまいそうなくらい細い体を、力いっぱい抱きしめたくなる衝動を必死に押さえる。


「......」


 フラフラと頼りない足取りでこちらに歩み寄って来るその1歩1歩にかかる時間がすごくもどかしい。


「......っ!」


 ついに俺は我慢できずに、リンの元へ駆け出してその華奢な腰を正面から両手でギュッと抱き締めた。

 リン胸に顔を埋めると、フワッと泣きそうになるほど懐かしい香りが俺の鼻腔を刺激する。

 顔を傾け耳をすませば、トクン......トクンと、規則正しいリズムで心臓の鼓動が聞こえる。


「......を」

「え?」


 頭上でボソッと何かを呟かれたが、あまりにも小さな声でよく聞こえない。


「血を......よこせ」

「え?」


 聞き間違いでなければ確かにこう聞こえた......「血をよこせ」と―――その瞬間背部に、背中に氷を放り込まれたように錯覚するほど冷たく鋭い殺気を感じ、反射的に回避しようとする......しかし、


「なっ!」


 がっちりと背に手を回されて身動きが取れない。このか細い腕の、どこにこんな力があるのかと疑いたくなる。


(魔力の衝撃波で拘束を解く!)


 ――それをすれば彼女はどうなるの?


「!?」


 今脳内に直接声が響いたような......その一瞬の隙が致命的だった。


「しまっ、がっ!......ごふっ」


 何かの刃物で背中を貫かれた。体内に焼きごてを入れられたような熱さと、芯まで氷付けにされたような冷たさ......矛盾とも言える感覚が混ざり合って脳に焼き切れんばかりの電気信号を送る。


 吐き出した血がリンの陶磁器のような白い顔を赤く染める......それはさながら新品のキャンパスに赤い絵の具を吹きかけたようだった。


 頬を伝血を舌でペロリと舐め、うっとりとした表情は狂気すら感じる。その両目は、血が流れ込んだかと見間違うような鮮やかで......しかし、不気味さを孕んだ赤だった。


(こいつは......リンじゃない!)


 視点がうまく定まらない中、腹部を見ると、刀の切っ先が飛び出していて、途切れることなく出血しているが刀身を伝とすぐに吸収されている。


(俺の血を吸収している......妖刀......紅雪か?!)


 脳内に危険を知らせる警笛が鳴り響く。拘束を解き脱出しようとするが、血を吸われすぎたせいか足腰に力がうまく入らない。


(不味い......魔力が)


 それに先程から魔法を発動させようとしているが、魔力を練ることすらできずにいた。恐らく紅雪の呪いが影響しているのだろう。


 吸血されているせいで体内の血液が少なくなり、意識が薄れ始め思考がうまく回らなくなっている。


(ここで死ぬのか......)


 まさか自分の人生がこんな最期を迎えるとは夢にも思っていなかったな。


 けれど、よくよ考えてみれば悪くはないかもしれない......俺がこの世界で始めて出会った愛しいと思える人の腕の中で死ぬなら、それはそれで。


 けれど、せめて最期に伝えたい。残された気力を振り絞って、掠れるような声を出す。


「愛して......る」


 その言葉を最後に、視界がブラックアウトした。


 # # # # # # # # # #


「......あれ?」


 目を開けると、既視感のあるどこまでも白い空間にいた。


 温度、音、匂い――それらの感覚が麻痺してしまったかのように何も感じることができない。


「目が覚めたぁ?」


 無音の空間に、やけに甘ったるい色気のある声が響いた。


 気付けば周囲は、あの真っ白な何もない空間ではなくなっていた。代わりに白黒のツートン模様の床と天井がどこまでも続いている。


「ふふふ......はじめまして、かしらぁ?」


 後ろから投げ掛けられた甘い声に全身がビクリと反応する。振り返るとそこには、重厚な造りになっている檻があった。


 中に入っているのは、黒曜石のような黒く艶やかな髪をストレートに伸ばした美少女だ。ただし、仕草や声が見た目に似合わず艶かしい......そのギャップに内心少しドキッとする。


「お前は、誰だ?」


 警戒心を露に質問すると、目の前の少女は少しムスッとした表情で答えた。


「いきなり初対面の女の子に『誰だ?』は酷いんじゃな~い? まぁ、良いけどぉ」


 少し拗ねたように話し始めた少女は、一呼吸おいてこう答えた。


「私は、神......女神エリスよぉ」

「......え?」


 時間が凍りついた。そう錯覚するほどの言葉だった。


「おかしいと思わなかったぁ? 偽名を"エリス"と即答したのも、その偽名で呼ばれても違和感を感じなかったことも......さらに言うなら、殺人に忌避感を感じなかったことも......全て私のおかげなのよぉ?」

「なっ!?」


 それは時々思った......だが、全てこいつのせいだったとは。


「まぁ、」


 思考を遮るように、さっきよりも大きめな声が響く。


「細かいことは今は置いておくわぁ......それよりも、ここがどこか知りたくないのぉ? なぜ神がこんな所に閉じ込められてるのか、あなたの想い人がどうしてああなったのか、そしてあなたの復讐のターゲットはどうなったのか......」

「!」


 ハッとした俺の表情を見てうっすらと笑う少女の笑顔は、やはり妖艷だ。


「じゃあ教えてあげる......時間は文字どおり腐るほどあるわぁ」

まいど、四葉です。

(これだけは何があっても固定)

1ヶ月一話更新とイベントに便乗した閑話を投稿するという、自分の中の目標を達成できずに少し凹んでいます。この先は自分の力量に合った話しを書こうと固く決意しました。はい、余談です。


後書きが長いのは、もう名物だと思ってください。『四葉さんは語りたい』なのです。


もうそろそろいい加減終わらせたいですね……いえ、終わらせますとも。TS主人公ネコよりも作者がスローライフをしてますからね。


今月中にもう1~2話投稿できたらと思っております(フラグかな?)ので、頑張ります。

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