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※ その35:みんながみんな空回り

もう開き直って無理やりにでも進める!(察して!)

 扉の先には、和を感じさせる見事な日本庭園が広がっていた。


 庭園内には苔が生えた岩でできた人口水路を、ゆったりと水が流れている。そのそばに生えた背の低い木の枝がゆらりと風に撫でられ、その青々とした葉を一枚虚空に手放した。

 時々、コォーン、と曇った音を響かせているのは鹿威しだろうか?そんなことを場違いに考えてしまう。


 だが、ここは敵の総本山......当然だが襲撃者の侵入を易々見逃してはくれないようだ。


 城の本丸への入口には、分厚い大盾と槍で武装した兵士で前衛を固め、中衛には弓矢隊、後衛には神主らしき一団がお払い棒を振りなを唱えている。


 ほんの数分間で門番を葬ったにも関わらず、迎撃げいげき体制をすでに完了させていることと、前方から殺気の篭った視線を向けられていることに、若干気圧されてしまう。


 結局俺はまだまだこの世界の価値観に馴染めていないのだ......戦闘の場数なんて当然無いに等しく、技や駆け引きは能力頼り......人を(・・)あんなにも簡単に殺した(・・・・・・)にも関わらず、自分は死ぬ覚悟なんてまるで無い......、


(笑っちゃうよな......)


 自分自身に内心呆れながら"アイテムボックス"から二振の片手直剣を取り出して左右の腰に装備し、腕をクロスするようにして抜刀する。

 どちらも片手用にしては分厚く、刃渡りが1.5メートルとかなり長いが、今の俺なら問題なく扱えるだろう......きっと、恐らく、多分。


 右手に持つのは全体的に紅蓮色で、剣自体が常に熱を帯び炎を纏っている《炎剣レーヴァテイン》

 左手に持つのは凍てつく水晶のような剣身に絶対零度冷気を纏う《氷剣フィンブル》


 俺が今持てる全ての能力を駆使して鍛え上げた雌雄対極の神剣だ。どちらも伝説級の一品だと自負している。


「「「「「「!?」」」」」」


 突如現れた黒く渦巻く穴から取り出された直剣に、敵側から驚愕の眼差しを向けられる。

 この混乱を利用しない手はない。


「......フッ!!」


 膝を曲げて力を溜め―――そして開放すると同時に、一気に肉薄する。


「何?!」


 一瞬で間合いに飛び込んで来たことに、前衛の兵士が一瞬顔を強張らせるも、流石は熟練の武人。驚異的な反射神経で大盾を前に突き出す”シールドバッシュ”ですかさず反撃に転じてきた。


「......ふっ!」


 迫りくる大盾をフィンブルで滑らせながら衝撃を受け流す。そして死角からがら空きになった背部に回り込み、右手に持つ《レーヴァテイン》を叩き込む。


「がっ!?」


 するとどうだろう。鎧は本来の性能を活かすことも許されずに、あっさりと胴体ごと両断された。否、斬れたのではなく溶けたのだ。

 その証拠に、断面はどろりと融解していて原型を留めていない。


「っ......」


 仲間の悲惨な最期を見て兵士達から何かを堪えるような苦悶の声が漏れる。

 それをひたすらに無視して、俺は何かに取り出憑かれたように双剣を振るい次々と屍を量産していった。


 # # # # # # # # # #


「あがっ......」

「......」


 戦闘が開始してから約10秒で最後の兵士を切り伏せ、虚ろな視界で辺りを見回すと赤一色の血の池が広がっていた。むせ返る血の匂い、視界に映る死体......それを全て自分がやったことが、なぜか他人事のように感じる。


「......」


 地面に《レーヴァテイン》を突き刺し魔力を流し込む。すると、剣から流れ出るように炎が発生し、辺り一面を包み込む......5秒ほど過ぎてから魔力の注入を止めると、炎は赤い粒子になって霧散した。


(これで少しは......)


 その時だった。


「っ!?」


 上部から放たれた鋭い殺気が俺の意識を現実に引き戻す。反射的にバックステップで緊急回避すると、先ほどまで俺が立っていた場所にナイフの雨が降っていた。


「今のをかわすとはな」


 そう言いながら、空中で3回転し鮮やかに着地した全身黒一色の男......忍は、一人呟いた。

 相変わらず目元以外の露出部がない真っ黒な忍装束だ。


 ......ドクン。


「―――た」

「ん?」


 この時俺は、駅で偶然元同級生の親友にあったような、奇妙な喜びと安心感を覚えた。


 ドクン!


 心臓が先ほどよりも大きく脈を打つ。


「会いたかった!」

「っ!?!!」


 喜びと安心感......体の奥底からそれ以上の憎しみと怒りが溢れてくる。そして、そのエネルギーが流れ込んだように左目が熱く感じ、全身を包み込むように赤黒いオーラが渦を巻く。


「やっと殺せるから」


 うっとりと頬を染め、恍惚とした表情で殺戮衝動を口にする姿は、ある種の狂人。だが、いくらエリスと言えどそこまでは堕ちていない。


「っ!? お前は彼の少女ではないな!!」


 警戒のレベルを最大限に引き上げて、応戦体制をとる忍を色気のある流し目で見るエリスではない(・・・・)誰か。


「フフフ......ばれちゃった♡」


ニコッと、年相応のあどけない笑顔の奥に確かに渦巻く狂気を忍はこの時確かに感じたのであった。


 # # # # # # # # # #


 忍と対峙してからの事はあまり覚えてない。

 気がつけば、周囲は岩肌が剥き出しになっていたり、小さなクレーターがいくつも点々とあったり、地面に巨大な斬撃痕ができていたりと、悲惨な光景だった。


「がはっ......げほ」


 咳き込む声が聞こえる......それも近くから。


「?」


 視線を下げると、そこにいたのは全身を切り刻まれた忍の姿だった。

 手足は根元から切断されていて、根元は焼きごてを当てたかのように止血されている。それでも流石と言うべきか、まだ生きている生命力、しかしこの......出血量持って数分の命だろう。


「なんで......、」


 その直後だった、


「あなた!!」

「......!?」


 ボーッとして反応が遅れたため、危なく反射的に殺そうとした右手を慌てて静止する。

 そして必死の形相で叫びながら、俺に一瞥もせずに通りすぎて行ったのは、基地前で別れたはずのキヌネだった。


「あなた!!ねえ、嘘よね......返事をして!!あなた!」

「キヌネ......あんた」


 この僅かな間に俺は気付いた......いや、気付いてしまった。


「あんた達......夫婦だったのか」


 今もなお懸命に、手を握りしめながら叫び続け、延命処置をしている絹音を見てると、いたたまれない気持ちになってくる。


「ねえ、どうして......? ねぇどうしてよ?!ねぇ!答えなさいよエリス!!」

「......」


 胸が痛む......だが逆に言えばその程度。今までこの忍がした事を考慮すれば因果応報の自業自得―――と、思ってしまう俺の価値観は正しいのだろうか?


「うっ......き、キヌネ......」

「あなた!!」


 全力で絞り出したであろう、掠れるような小さな声で話す忍の言葉に、俺は黙って耳を傾ける。


「その少女......を、恨んでは......いけない。俺が、してきた......ことを、考えれば当......然の......報い、だ」

「そんな......そんな事って!ない、ないよぉ......」


 俺の勝手な予想だが......忍はわかってたんだ。自分の行いが間違っていると。罰せられるべきだと......それでも......心を削りながらでもそれをやりつずけた理由ってなんだ?

 家族さえ騙し、あまつさえ自分にも嘘をつきながらでもやりたかった事ってなんだ?


「さよなら、絹音......あ、愛して......る」

「私も......私だって!あ、」


 愛してる。


 そう言い切る前に忍の手が絹音の手から滑り落ちた。最期の忍の顔は、憑き物が取れたような安らかな表情だった。


「うぅ......ひっぐ。 最後まで......言わせてよっ」


 俯いていて顔は見えない、だが泣いている事だけはわかった。

 空を見上げると、絶え間なく雨が顔を濡らす......けど俺は目に水が入ることも気にせず空を見続ける。


「今日が......雨で良かった」


 愛する人に先立たれた彼女の、悲痛な泣き声を雨音が書き消してくれるから......止めどなく溢れる涙を雨水が流して誤魔化してくれるから。


「何やってんだか......」


 自嘲気味に笑い呟いた言葉も、雨音に溶けて消えた。


「うっ......ううぅ。 えぐっ......一人に、しないで」


 この女性ひとが今までどんな人生を送って来たのかなんて俺にはわからない。けど......きっと孤独だったであろうことは今の言葉で容易に想像できた。


「......エリス、さん」


 消え入りそうな声音で俺の名前を呼ぶキヌネ。


 ハッと、後ろを振り向くスローモーションのように流れる視界の端には......涼しい微笑みを浮かべ、てに握った忍の小太刀を首に突き付けたキヌネの姿があった。


「......?!」


 口パクで声は聞こえなかった......だが何を伝えたかったのかはわかった。


 ──娘をよろしくお願いします。


「止め......!」


 ザクッ......。


 小さな音と共に、キヌネの身体が忍に重なるように倒れた。その表情もまた満足そうなのだからやりきれない。結局キヌネは自分と娘を天秤にかけて、自分を選んだ......そして尻拭いを全て他人に丸投げした。


「娘を選ぶのが普通......親ってもんじゃないのかよ......!!」


 罪悪感より怒りが込み上げてくる。


「"アイテムボックス"」


 空間が歪み、そこに吸い込まれるように二人の遺体はその場から消え去った。俺の"アイテムボックスに"生きているものは入らない"......この事実が俺に二人の死をより強く突き付けてくる。


「俺は......!」


 その時だった......破壊音と共に、二つの魔力反応がこちらに飛んでくる。身体強化魔法を使ったのか、かなりの勢いだ......案の定、勢いを殺しきれずに着地もとい墜落したのは、


「チッ、しくじった!」

「うっ......」


 いつか会った姫さんと、キヌネの娘であるイトナだった。

『なぜ二人が一緒に?』という疑問が頭に浮かぶ。だが、次の瞬間には頭の中から消えていた。


 ピキッ、バキッ......バキバキバキ!!


 城が氷に包まれていく......比喩ではない、本当に城がビキビキと音を立てて凍りついている。そして、バキッ!と、亀裂が生じたと思った次の瞬間......砕け散った。

 城は完全に消滅し、氷の破片が粉雪のように降り注ぐ。それはまるで、深海に降り注ぐマリンスノーのようだ。


 そして、


「......リン」


 幽鬼のようにフラフラと歩み寄って来るのは、リンその人だった。

まいど新年あけましておめでとうございます!!


いやはや恐ろしき”絶対に笑ってはいけない”......腹筋が崩壊しています。

三箇日を使ってできるだけ書き溜めをしたい......しかしリア友の多摩さんに『クトゥルフ神話TRPG』に誘われて......うむぅ~、悩ましいものです。


この作品を書き始め早1年......毎日ブクマーク数を確認するのと、先の展開を寝る前に考えるのが日課になっています。そしてここまで書き続けられたのは、ひとえに読者の皆様のおかげです、本当にありがとうございます!


今年も頑張って書くので、うちの子をよろしくお願いします!

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