亡国の姫君
「来たわね。『恋愛の神様』」
「貴女までやめて下さい 怒りますよ」
城主は執務室に呼びつけた信繁が、茶色の瞳を怒らせて、むーっと餌袋にドングリを入れたリスのように頬を膨らませた姿に、心の中で大爆笑をする。
『面白い! 面白すぎだわ〜!!』
横腹が痙攣しそうだ
城を統べる最高責任者である彼女の特技は、決して内面を外側〜外見に現さないことである。
城主〜所長(本名;紫)は、相変わらず女子高校生ぐらいにしか見えない。
腰まで届く艶やかな黒髪を今日はしなやかに束ね、まとめた毛束は、流行のゆるめの結い方でお団子にまとめられてカワイイ。
ブスッとした信繁は呼び出されたわけを尋ねる
迷惑千万、集中力の継続を求められる体術の訓練の途中に強制的に呼び出されたのである。
『出来ればサッサと部下の指導に戻りたいぜ』
ーーーー怪我人が出る前に
「ーーーーお話しは何ですか?」
信繁はあからさまに表情を硬くし、自分の機嫌が悪いのを隠そうともせず、よくわからない性格の気紛れな上官の用向きを尋ねる。
『随分露骨よね』
真面目な性格の信繁の事をからかう様にクスクス笑う。
そして、スイッっと薄くて小さな電脳書類一式を目の前に突き出す。
「まぁそんなにむくれず 取りあえずこれを見て」
「ーーーーーお預かり致します」
それでも信繁は顔をしかめながらも慇懃に、資料のチップを受け取る。
「本当に俺が見ていいんですね?」
「どうぞ」
「では中身を確認します」
信繁は城主から人物の様々なデータが記された記録チップを渡されると胸ポケットから出した、私物である規定のコピーをさせない為の再生専門”装置にセット、パチッと起動し内容確認をした。
それは城・収監者の㊙データ
かつては銀河有数文化都市惑星と謳われた美しき惑星フレイの王家お姫様〜
王室最後の生き残りの王女、王家第5王女フレイヤ姫のデータだった。
信繁が渡された資料には、まだ足ったの20歳、現在妊娠中だと記されていた
「彼女セレブで『有名人』だから知ってるでしょ?
この方の『説得』出来るかしら? 信繁」
「ぁあ、先日収監されたばかりの何かと話題の女性ですね?
警護で収監時に俺もいましたから、彼女のお顔はわかります……が」
更に眉をひそめ、思いっきり不審げな顔をした信繁に対し、ニッコリ城主は笑いかけた。
「信繁から直接このお姫様、ここから出て行ってくれって説得をしてもらいたい訳。
凄く知恵が回って頑固なのよ。
『姫』を貴方にお願いしたいのよね〜」
「また いきなりですね・・・…」
所長から依頼された収監者、フレイヤ王女は政治上の理由で「城」に収監されている。
極悪人〜というカテゴリーからは外れる人物、城にはそう言った人物も数多くいるので特に珍しくは無い。
「今現在は どちらにいらっしゃるんですか?」
「医療棟よ」
「第5次元ではないんですね?」
「ええそう、あそこにいらっしゃるその方は、お辛い悪阻の身重の身であられますからね。
『出るのは嫌、この監獄に母子ともに残りたい』と泣きながらおっしゃっているのよ」
「逆でしょう?普通」
資料にある妊娠初期の母体に、この異常な次元帯がいい筈がない。
体調が急変、気分も躁鬱と上下しやすいデリケートな妊娠初期の身体を思い、男性として優しい性格の信繁は表情を曇らせた。
「随分とコレはまたーーー変わった方ですね?
どんな悪影響がこの先、母子ともにあるか判らないじゃないですか?
理由はーーーまぁ男の俺も確かに想像つきますが」
「そうなのよねぇ〜」
城主はふぅーーーっと溜息をつくとブツブツこう言った。
「私だって嫌かもね、あの方と同じ立場なら誰が行くか〜!ってね。
自分の国を滅ぼした敵国の王室に、掌返しの好待遇で嫁ぐだなんてね」
「でーーーー俺の他に、『説得役』を誰か差し向けなかったのですか?」
「当然そうしたわ?
そうしたらどの人もこの人も『ミイラ取りがミイラ』になっちゃったの、困った事にね。
王女様は多分そうした場合における反証の訓練をしてるのよ、かつて学校で優等生でならし成績も抜群に良かったようだし?
でーーーーーーー!!
彼女に激しく同情し、お姫様は、城から出る必要がないってね。
それじゃ困るの全く、交渉のプロが逆に相手に説得されてどうするのよ」
城主は執務室の 立派なキャスター付き椅子をクルクーーールっと遊具の様に1回転させた。
回しながらピタリと止まった所でヤレヤレと小さく首をすくめる。
「『城』から姫君をさし出す事は、ほぼ確定と言うよりも、妊娠がわかった時点で先方との契約が大きく覆った〜
で、結び直した新たな取り決めによりこの話は最初っから決定事項なのですか」
「そうよ、彼女の生国、フレイの王家&政府をぶっ潰した軍事惑星トール政府機関『王城』側と〜
後、『長いものに巻かれろ』な、日和見主義ジャパン内閣府から、もうヤイノヤイノと矢の催促。
正直、下準備とお膳立ては完璧に出来ているの、で、後は王女様の了承と承諾、意思だけ。
でもね?信繁
此処に入れたり出したり、そう簡単に出来るものですか!!
馬鹿にするのにも程があるわっ、あなたそう思わない?
そうねぇ、どうしても〜!と王女様が言うならば仕方ないわ。
この先のことを考えると針のむしろの地獄しかないから可愛そうだしね
何だか戦国時代のお姫様みたいよねぇ。
ーーーまるで戦利品の様に反乱分子を黙らせる人質同様。
でも今の感覚では、自分の家族や仲間を殺した相手組織に組み込まれるっていうのは流石にちょっとねぇ」
「ーーーーーーまぁ」
「それに今回のジャパン政府筋の横暴さ勝手さにムカついて腹立たしいし?
で、規約に無い、例の『唯一つの願い』として、王女様を堂々当施設に受け入れてもよいと個人的には思う訳。
そういう事になったらま、しょうが無いから〜ね。
城最高幹部連『五人会議』は私が説得します」
城主は一気に状況を喋ると、フンッと腕組みをして高らかに宣言。
「そうですか、では1度俺が第5王女様と面会しましょう」
「やってくれる?」
「仕方がありません、ですが俺がやれる範囲で。
ーーーでも自分はネゴシエイターの資格持ちではありませんよ?
交渉人ではありません。
上手くいくかーーー行かないか、保証の限りではありません」
信繁の不服そうな嫌そうな表情。
「そんなの 全然構わないわ?
ベテラン勢の彼等が、全員失敗したんだもの、あの方は凄腕よ?
色のついていない、マニュアル通りの発想で無い突飛な人間の方が、この際むしろ有り難いわ?
多分論破、自らに精神面を誘導する教育、王女様かなり受けてるわね。
だから手強いわよ?
姫君気が強くて凄い負けず嫌いだしね」
「貴女には負けますよ」
明らかな厄介ごとを押し付けられ、『又かよ』と、諦観の域に入った信繁は大きな溜息をつき天井を見上げた。
「俺は元々、負ける喧嘩はしません、どんな時も必ず勝ちます。
今までずっとそうしてきました。
でも今回ばかりは守備範囲ではありませんので、結果は期待しないで下さい。
貴女の依頼、準備もなにもあったもんじゃないですし、お引き受けは今回は特別です。
ですから”俺の流儀”でやらせていただきます。
次回の後任者は、正式に警察か国防から、必ず絶対に腕のいいプロフェッショナルを引っ張って来て下さい。
ーーーーー俺の様なこんな素人ではなくて。
いいですね??それが王女様のお為です。
あなたが本当に口で言う様に、お姫様の境遇を案じておられるなら」
暫くシンと無言の時間が流れる。
信繁は本気だった。
「わかったわよ、約束するわ?だから……」
「仕方ないですね、俺としても『試し』ですよ?
じゃぁ今後の仕事の為詳しく、貴女の知る姫君の資料に載っていない話をお聞かせ下さい」
信繁は再びしかめた険しい顔を隠しもせず、嫌な渋々っと言った風情で強気な王女の説得を試みることを承諾する。




