恋愛の神様 ④
「そこを何とか〜〜〜!!信繁大明神さまっ!」
「聞くまでここを離れんからな〜!!」
「俺っちにそんなに冷たい事を言うだなんて信じられねー
化けて出てやる〜!」
口々にオウオウ大混乱のワケワカラン奇妙な雄叫びを上げる厳つい同僚達
嫌そうに見回し、とうとう信繁は、はーーーっ根負けし勉強の手を止める。
おどおどと〜先程から『雲の上の人』
全新人隊員究極の憧れの殿上人にすっかり威圧された新人君。
彼は既に可愛そうな程萎縮し、顔色は青を通り越しとっくに紙色のように白く血の気が無い。
「……しょうがないな」
着やせする身長200cm近いスレンダーな信繁は、ボソッと呟くとおもむろに机と椅子との空間を空ける。
彼の全身から発する気迫に圧迫されまくり、プルプル身体を震わせる哀れな新人君の方に、そのまま椅子を微かにキュッと鳴らすと体ごと向ける。
スリムで長い足をスーーーッと事も無げに美しく組む。
一応は信繁なりの、少しリラックスした雰囲気を醸し出させる経験的見せポーズらしい。
カッカといきった同僚らですら、思わずボーッと見惚れるナニその麗しのその姿勢!!
『うわコイツマジかよッッ 最悪だろ、男でも魅入られるだろうがっっつ!!』
だから当然、美しく信繁が姿勢を変えた途端、案の定〜!
彼を取り囲む男達の背後からキャーー……っ、悲鳴に似た甲高い大きな響めきが聞こえた。
十重二十重の人垣のほんのちょっぴりの僅かな隙間からもっと何とか魅惑の姿を見ようと粘る気配、ドドドドドと大移動が起き始める靴音が響くのだ。
しかし信繁はそんな下世話な事柄には一向に頓着せず、いつも以上の誠実極まる様子でまだ初々しい表情の残る新人隊員君にこんこんと諭した。
「あのなぁ……
女性の喜ぶ言葉言葉って男はやたら騒ぐけどさ?
言葉って、言われた後から思い出して グッとくるもんだろ?
だったら、今お前が1番伝えたい言葉を、きちんと。
目を見て正直に伝えれば、それでいいんじゃないのか?」
「……」
ーーーーーーオイ、ちょっと待てや信繁ッッッ
そいつぁー聞き捨てなんねーぞ?!
ーーーービシッツ!!
取り囲んだ同僚達の眉間に怒りの皺が寄る
何だとコノヤロウ!!
「っっ信繁ェーーー
そりゃあ何したってどうしたってお前、年がら年中、女にモテるからいいけどさあ」
「俺達はオメーと違うんだぞ?!」
「そんな単純で良かったら、こんな苦労しないぞ!」
隊員全員で「ばっきゃろーそーだそーだ」、怒濤の大ブーイング大会が開催される。
信繁は再度肩をすくめる。
「それだったら、俺じゃ無くて子龍や雅に聞けよ?
ソモソモ人選がなんで俺なんだよ?
そういう事はアイツらの専門だろ?」
信繁の言に場は益々燃え上がり、シューシューとヒートアップ!
「オィ〜信繁〜〜
おとなしい俺達を馬鹿にしてんの?
子龍この前、何だかよくわからん、俺達が一生に一度も過去現在未来聞く予定もなさげな謎の言語で女口説いてたぞ?」
「雅がよくするバンビちゃんみたいなカワユイ”ウィンク”
今からマスターしろって〜のか?!
嘘だろオイ参考にならんわーーーっ!
”練習”だけでヨユーで人生終わっちまうぞ?」
「……」
「子龍みたいに壁にドッカリ手をついて美人の瞳を見つめつつ、全身カユクなる愛を囁くって、んな蕁麻疹が出そうなゾワゾワな事まともなジャパン男が出来るわけねーだろっ!」
「アイツらどいつもこいつも異常に上級テクすぎるわ〜〜!」
信繁はフーーッと、盛り上がって荒れまくる厳つい男達を見上げ、仕方なさそうに大きく溜息をついた。
『ヤレヤレ』
女性以上に長い、パッチリ綺麗に整う睫毛が悩殺的にユラリと揺れる。
信繁は起動させていた「最新式軽量化ノート式電子記録」をパタンと閉じる。
どうも片手間では無く本気で後輩に、本格的にしっかりアドバイスをする気になった様子である。
新人隊員の俯きがちの、自信の失われたオロオロ弱々しい表情を、信繁は椅子に座った下方から一途で真剣な目で覗き込む。
途端にブワッと艶めく信じられないオーラ爆誕、真面目で強烈な眼光を放つ茶色っぽい瞳が、グッと彼の柔らかな心を深く撃ち抜く。
「あのなぁーーー
お前の心から好きな女って。
〜本気で自分を好きだっていう男から、そんなキザな安い事言って欲しいと思ってるわけ?」
「えっっっっっーーー?!」
「よく考えてみな。
好きになるだけの理由がある人、素敵な誠実な女性なんだろ?」
「「「「「〜〜〜〜〜」」」」」
「あぁ……それと これやる。
子どもの頃から自分が好きな奴だ。
それ食って頑張れ。
俺もその恋、応援してるからな」
信繁はガサガサと手渡しで何かの小袋を新人隊員君に突きつけると、以後は再び何事も無かったかのように勉強に戻る。
再びノート式電子記録電源を立ち上げ、大量の資料と格闘しながらの資格試験勉強を再開させ始める。
まるで夢から醒めたようにボーッと元の席に着いた男達は、今し方〜
信繁より有り難く直接新人隊員が貰ったばかりの小袋を、その場の全員で早速検分することにした。
新人君の掌には信繁の常備菓子?
個包装された小さなオヤツが握られている。
「……なんだそりゃ?」
「菓子?ナニナニ『黒い稲妻』?
えーっと??
パッケージから察するにチョコレートのコーティング菓子か」
「そーいやそれって信繁班の奴らが、いつも何だかバクバクよく食ってんな」
「子龍も食ってたし?」
「なー?」
「確か雅もだし」
「そっかーーー
成る程ねー、出所は信繁、リーダーのアイツの常備食、大好物だった訳か。
確かにチョコって脳みそに効くらしいしなぁ」
「アノこれーーー
僕が本当にもらっちゃっていいんでしょうか?」
「なー食い終わった後のパッケージ、俺に御守りにくれよ?」
「アホっっ!!」
余計な口出しした隊員は、年かさの同僚にパコーン!
「お約束」として綺麗にどつかれる。
「あのさぁ、ソイツーーーいいか?
信繁さんから直でもらったんだから”魔法の菓子”だ。
大切に食って気合い入れろ。
きっと、世界一難易度の高い告白だって上手くいくさ。
知ってるか?
あの人、信繁さんにはさ……相棒の子龍としか絶対飲まない特別の酒があるんだぜ?
彼の生まれ故郷で造る、限定出荷の非常に手に入りにくい地物のウィスキーさ。
皆いつかは、それをサシでお相伴に与りたいって思ってるんだが中々〜ねぇ。
俺達の間では、優秀な彼に直々に認められた人間しか飲めないって噂の的だ。
アレ程じゃないが、きっとプレミア級の素晴らしい御利益があるぞ?」
「!!……そうなんですね!」
「酒の逸話、少なくともある程度のランクの猛者達〜上はみんな知ってるよ」
「ぁ〜〜マジで良かったなぁ〜〜〜〜!!
告白どっちに転ぶかは神のみぞ知るだがさ?
告白後に信繁の好きなタマゴとマヨのサンドイッチ、買って”お礼ですっ”て持ってけよ?
そうすりゃきっとお前の男気 喜んでくれるさーーー
いつもアイツ、今日見たく特別気合い入れる時モリモリ食ってんし?」
「はいっ!」
先輩達の頼りがいのある親切な励ましの言葉に、ずっとオロオロ不安そうだった新人君の表情は漸くパァッと明るく変化する。
キラッキラに星の如く純情な瞳が綺麗に輝いたのだった。
*********
さて
ーーー告白の結果はというと、信繁の「言ったとおり」で。
「素朴で正直なところがとってもカワイイ♡
貴方大好き♡
恋心を試したり変に策を弄する男はサイテ〜!」
ずっきゅーーーーん!!
決死の勇気を振り絞ったものの。
今にも医務室に担ぎ込まれそうなプルプル顔面蒼白の唇まで真っ白な新人隊員君に対し、麗しの彼女はニコッと微笑みそう返事をした。
「ホントに可愛い♡
食べちゃいたいわね〜〜君」
チュッ!
予想だにしなかった、マウストゥマウスの親愛のバードキスに、新人君は突然ガクッと膝から崩れ落ちる。
「ぎゃ〜〜〜!死んだぞコイツ!」
「大変だ!!」
「うわ大丈夫かよ?!」
ーーーブラックアウトーーーーー
完全に天国へと昇天した彼の元に、物陰で様子を不安げに伺っていた先輩諸氏は全員で慌てて駆け寄った。
「もう〜〜〜ビックリしちゃった」
彼女の『お座布団決定』〜の新人君が、担ぎ込まれた先の職場医務室で漸く何とか息を吹き返すと、夢にまで見た麗しの天使〜
ベッドで横たわる彼の目の前には心配そうに覗き込む、憧れて止まない愛しき人が付き添って居た。
それだけでは無く、彼の手をギュッと不安そうに両手で強く握り優しく、蕩けそうにしっとりと安堵の微笑みを投げかけているのだ。
「もぅ〜〜〜心配させないでよねっ?」
「好きすぎてごめん」
「ーーーー……バカ」
2人の傍目にも微笑ましく仲むつまじい様子。
『噂』はあっという間に拡散ーーー
凄まじい勢いでビュンビュンとそれはもぅ。
ーーー以来信繁は「恋愛の神様」
「縁結びの神ッッ!!」
「是非恋が叶うように握手して下さいっっ」
城、男性職員から別方面でも崇め奉られる事になってしまった。
購買部からは”最強告白必須アイテム”として、例のチョコ菓子は職員にワラワラ爆買いされ、常にソールドアウト状態!
「ヤッパ”黒い稲妻”、今日も売り切れだってさ信繁ーーー!
〜入荷は『未定』」
「ーーーー」
「も〜〜〜箱買いで製造元か卸より個人で取り寄せるしか無いでしょ!」
「ぁーー食えなくって残念だなぁーーー」
「……」
子龍と雅の発言の通り。
肝心な信繁の口に入ることは以後当分無く、彼が溺愛するチョコ量多めの好物の小さなチョコ菓子は暫く入手困難だった。




