第3章 ミステリアスな長身の人物との出会い
「あーーーーーー…」
「お気がつかれましたか?」
……耳元で柔らかな優しい声がした
『…夢…?…だった?…』
クリストファーは、いつの間にかグッスリ眠っていたらしい事にボンヤリ気がついた。
カタリーー
影が差し人の気配がする
『??』
おそるおそるーーーー
顔をそちら側に向けると、恐るべき背の高い男がそこに居た。
椅子に着席していても、ソレがわかるしなやかな肉体を持つ人物。
今まで微睡んでいたベッドの側に控えていた。
〜しかし決して見知らぬ男では無かった
*****
あの樹海の出来事を思い出す、樹海でのブラックコート着用の長身の男の事。
あの時の着衣の素材は、おそらく絖光る光沢から多分きっと防火用特殊繊維製だろうと察した。
がーーー今は、見るからに清潔そのものの、糊とプレスが美しくパシッと綺麗に効いたユニフォームに着替えている。
簡素な簡易式折りたたみ椅子に座り、ジッと長い腕を絡め、緩く腕組みをし眠っていた彼を見下ろしていたのだ。
…いいや”違う”
見守っていた
『……』
男の身じろぎにキュッと椅子が音を立てた。
「どうぞ王子様」
『長身の男』はスルッと音がしそうな程悠然と腕組みを解き
ーーーにっこり悪戯っぽく笑う。
そして今度はヒンヤリするパットを、サイドテーブルから心地良い、冷却ジェルのタップリ入ったしなやかで柔らかな袋を手に取る。
金属製の容れ物から熱を持つ腫れぼったい瞼の上にフンワリ乗せてくれたのだ。
どうやらーーー
医療用金属製トレイに予め、首尾良く手配し乗せられていた物らしく、まるで見越して用意されていたとおぼしき品だった。
『うわーーー何これ気持ちいい……ッ』
鬱々とした心、疲れたモヤモヤが一気にキュッと吹っ飛ぶ爽快感。
正体不明の謎の長身の男は、素直に驚くという反応にクスッと明るく笑う。
そのまま、穏やかな声色でこう話し出すのだ。
「私は一応、語学には自信があります。
ですから王子様がお好きな、御自分が喋りたい言語で遠慮せず、どんどんとご質問下さい。
ーーー私の方が貴方様に合わせますので」
「え?」
「全く気遣い無用、構いませんから」
上品かつ穏やかに、謎めいた初対面の東洋人の男は続けた。
今現在、流暢に彼が話す言語は銀河連邦加盟惑星の数多の星々、特に故郷コロニーD-01でもれっきとした公用語の1つとして認知し尊重、扱われている主要言語”連邦英語”なのである。
非常に美しく正確で、澱みない流れるような発声と発音
『何でかなーーー?』
シンプルな物程、どんな場合も気配りや美学が際立つもの。
『素敵ーーーー』
「味も素っ気も無い」と揶揄される、単純明快な構成の言語なのに何故か、とろり耳に優しく柔らかに聞こえるのが不思議だった。
思わずクリストファーはボーッと聞き惚れてしまい、夢がまだ覚めていなかった彼にとって堪らない時となる
「白目、真っ赤ですからね、既に目を酷使しすぎですよ?
ジェルを沢山たっぷりと惜しみなく当てて、今はゆっくり充血を取った方が予後が明らかにいい」
『うーん……なんだろうーーーーー何か強烈な既視感。
僕は長い夢を見ていた様な気がする』
「……」
「意地を張られ余り無理をされると必ず反動が来ますよ、必ず後々辛くなりますから」
「そうでしょうか?」
「ええ、しかもここは特に不慣れな方には辛い特殊時空空間ですから。
ご自愛なさる方が賢明です」
穏やかな優しげな独特の甘く労る声のトーンが、痛みささくれた心にしみた。
思わず涙腺が決壊しそうになったがグッと堪える。
グスッ……!
流石に鼻を啜る音だけは誤魔化せなかったが。
王太子に謎の長身の男は、マグカップを差し出す。
〜カップ1杯のホットミルク
脇のサイドテーブルから再び取り上げ、実に優雅な手つきでスルリと差し出した
「どうぞ」
「?」
「今日 何も口になさっていないでしょう?
幾ら若いと言っても限度があります。
ホットミルクをこちらでご用意致しました、乳製品等に対するアレルギー反応が無いと言うことでしたが、如何でしょうか?」
「……いただきます」
「ではどうぞ」
差し出し出された温かな飲み物は嘘みたいに、信じられない程に美味に感じた。
『え 何で??』
ちょっと手を加えた、温めただけのミルクが?
どうしてこんなに美味しいんだろう?
ーーーいきなり驚きの強烈パンチ
しかも正に丁度いいーーー
実に舌に優しげな適温がうっとりさせる。
『美味しい!!』
ホンノリと、フワンと、しかも何か、スパイシーな香料入り。
シュガーではない、甘い香りが鼻腔をくすぐった。
〜微かな香り、心が和らぐ甘さ
何だか懐かしい味で、故郷の料理長の優しい味を思い出したのだ。
「気が付かれましたか?
ハニーを少々と、仕上げにくるっとシナモンスティックで香り付け致しました」
「ーーーひょっとして君が?
てっきり、調理の人間が配合したとーーー」
と、クスッと小さく、人懐っこい目で笑われる。
つまり、このミステリアスな男性が独自に工夫した事だと漸くわかる。
『ひぇ〜そうなんだーーー!!
何か凄いぞ この人は』
「気分が落ちついたら、事情を聞きたいとシロヌシが〜
あぁ こちらの施設・総責任者の『通称』です。
是非貴方と直接お会いしたいそうです」
ーーー優しい声での、弱り切る彼に対する依頼。
穏やかな声質だからか、綺麗な滑らかな言葉がスッスッと頭に入ってくる。
温かなミルクのお陰か少し頭がハッキリする。
『意識は思ったよりしっかりしている』
クリストファーはホッとした
「判りました」がーーー内心焦る
『~直ぐにでもーーー国の誰かと話さなければ!』
嫌な予感が脳内を駆け巡る。
『D-01の御父上が心配だ!
ーーー暗殺の手が回り、手遅れになる前に!』
「御父上様の御身は心配しなくても宜しいですよ?」
俯く頭の上からポンと、慌てる様子が一切感じられない、ごく普通な調子で声がかかる。
『え?』
心を読まれた気がし心底ギョッとし、驚きで、つい手からつるりカップが落ちそうになってーーーー
「おっと」
すかさず素早く大きな手が底部に添えられ、悲惨な中身ぶちまけの危機は回避。
液体は一滴も零れてはいない。
整った貌の動きは平然ーーーそのものだ。
「お手に火傷はなされませんでしたか?王子様」
「ーーーいいえ、それは貴方の方こそ」
『この人 一体何者なんだ?』
ーーー忍者か?
彼のいぶかしむ不審そうな視線を察したのか?
長身の男はニコリと滑らかな声で話し、躊躇わず右手をヒラヒラ差し出した
「ホラなんともありません」
『ーーー少し朱くなってるじゃないですか!』
揶揄われ軽く見られた様でちょっとばかりムッとした。
にしても……
『どうして〜左手の中指に小さな変形があるんだろう?』
何となく手書き用のペンとか、筆記具の跡な気がするーーー
右手にも同じく盛り上がる小さな固い部分が存在し、想像について変な気がしたが、目の前の勢いに飲まれて、小さな違和感と疑問は直ぐに流されて何処かへ行ってしまった。
『アレルギー反応かーーーー』
それについては一応無いのだが、クリストファーは生まれつき、先天性の障害がある。
端的に言えば、体内にメラニンが少ない。
少ないというよりも、ほぼ欠損しているのである。
単純には『アルビノ』と言われる。
実験動物で色素を白化に固定化したラットが居るが、彼は自分では『王家の出』故……
こうした特殊な遺伝子が”青い血”、尊き古き血脈・純潔を尊ぶ結果、通常では有り得ない『同じ様な事』が、遺伝学上に起きたんでは無いかと内心思っていた。
事実彼の、実親である国王は際立って美しい繊細な容姿であると同時に、体も弱く病気に罹患し易い体質である。
この事が、コロニー都市を支える優秀な医師団を常にハラハラさせていた。
「でもしょうがないよ…」
産まれてきた場所なんか体なんか選べないし?
今ある環境を感謝し、肉体的な禁忌を上手に避けて細く長く生きればいい。
そりゃ……確かに、普通の人よりは確かに寿命が短いとは思うけれど?
「それがどうって言うの……?」
1日を3倍にも5倍にも充実させ、自分なりに命の火を光り輝かせて精一杯生きれば良いのだ。
そうして夜のとばりが落ちるようにーーーー
人生の命の灯りが全て消える時、きっとキャシーが僕を迎えに来てくれるだろう
「よく頑張りましたわね」
トロトロ霞む夢の中で
「貴方なら大丈夫って信じていましたわ!」
ーーーそう言って欲しい
僕の全て、君が本当に本当に大好きで、今だって大好きなんだよ?
クリストファーは少しもの悲しくそう思う
本当は「僕が君を」……迎えに行きたかったのに。
『順番が逆になっちゃったね……?』
ねぇ愛しい大切なキャシー……
『アルビノ』ーーー
個人差があるが彼の場合、幼い頃は特に紫外線に少しでも当たるとあっという間に皮膚が朱く腫れて大変なことになった。
細やかな調整の〜度のついたサングラスと全日 光をブロックする薬剤と、特殊な長袖の洋服が欠かせない生活を送っていた。
健康の為、結果的に生活も夜型にならざるを得ず、ただそうすると”暗い”……
「周囲が見えにくい」
つまり、ぶつかったり距離感が取れなかったり、以前、そう、こんな事があった。
”前から人が来る!”とーーーーヒョイッと道を空けたら、どうしてか向こうも同じ行為をする。
「アレレ??」
またヒョイヒョイッとリズミカルに体をかわすと、気をつかったのか同じタイミングで前方の人物も同時にする。
「何やってんですか?クリス様…『姿見の前』で?
アァ〜ひょっとして、わかりました、シャドーボクシングの練習ですか?
素晴らしいです、運動にも極めて熱心であられますね!」
「うんそうなんだ、凄いでしょ?」
「お見逸れ致しました
では業務後私が『お相手して』差し上げましょう」
「やったぁっっ!」
ーーー知り合いの心優しい衛兵が教えてくれなければ、ずっとずっと……!
エンエンと行っていたのに自信があった。
つまり視力が極めて悪い彼にとっては、日中も夜間も『大変さ』『難儀さ』『可笑しな出来事』ーーーは、さほど変わらない




