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信繁という男 ①

「ところで〜そういえば、まだ私の自己紹介をしていませんでしたね?


順序が逆で、遅くなり大変申し訳ございません、私は名前を『ノブシゲ』と申します。


この施設での防衛を担当しており、小班を率いる班長職です。


今回貴方様の護衛官を任命されました。


当施設規約と個人情報保護の観点から、ファーストネームだけであることをお許し下さい。

 

以後、お見知りおきを、ほんの短い間かと思われますがどうぞ宜しくお願い致します」


「こちらこそ」


微笑みを浮かべ友好の握手に右手を差し伸べると、ぎゅっと大きな掌で包まれた


「失礼します」


2人で交わす会話が、今後話しやすい様、彼、ノブシゲに体を起こしてもらった


『??…』


この時不思議な事に何だか…”やり馴れた感じ”、奇妙に手慣れ感がした


ゴソゴソと背中を守る為、腰や背にフカフカなハウスダスト対応の、一切の細かな繊維の埃が立たない特殊枕をよいしょっと差し込む。


そんなこんなも細やかに気が利いていて動きに全く無駄がない。


”誰かの介護”をし慣れた人間独特の、滑らかな仕事

 

『……? 

意外って言うか不思議な人だなぁ』


クリストファーには、この滑らかすぎの上手く行きすぎに若干、引っかかるものがあった。


「これでいいですか?」


「完璧です」


大和の古い古語で返すと、ノブシゲの顔が『ほぅ…?』っと言う様子にゆっくり嬉しげに輝いた。


「そういえば王子様はジャパンへの留学経験がございましたね?


ここでの言語は連邦英語にしますか?

それともーー……」


「誤解を招く表現があったら、失礼に値しますので”連邦英語”でお願い致します」


「了解致しました」


「こちらこそ」

 

するとニコニコ邪気の無い微笑みが返される


『……調子狂うーーー照れちゃうじゃないか』


彼は友人では無いのだ。

クリストファーは心の中で小さく呟く。


『彼、ノブシゲーーーーという人の名前の表記は何なのだろうか?

興味があるなぁ。

ジャパンには確か独特の表記文字があった筈だ。


この国の言語で、形としてどんな文字を書くのかな?

興味あるかも?!


表現表記ーーーー”漢字”ーーだっけ?


まだ多少は覚えてるし


デモデモデモ……!


森での出会いとは随分あんまりにも印象が違う、こんな事って有るワケ??


はっきり言えば全く違う人物…”別人”、全然違うよ?!

それってどうしてなのか〜……?』

 


墜落のパニックと強烈な孤独感及び、大型肉食獣『熊』の恐怖に完全に怯えていた事も大きな理由だったとはいえ、それにしても現れた瞬間の全身から沸々と立ち上る青白い炎〜


あの異様な佇まいはただ事ではなかったと、チョット記憶を思い出しただけでブルッと体が震える。


気配は「殺気」ーーー 

いいや”妖気”と表現してもよかった


ゾッとする悪魔の様な存在。


『アレは一体何だったんだろう……?』


今現在は、全く消えているけれど?



『こう言っては何だけど、彼にそっくりさんの”悪しき双子の兄弟”とかが居て

森で会ったのが、もう片方の怖い方!

…で、今目の前のこの人が、優しい方ーーー!


ーーー絶対そうだよね〜〜〜!!』


クリストファーは頭の中ゴニョゴニョ考えた。



「あのぅ……失礼ですが、ご兄弟の方……が、こちらにお勤めですか?」


「??いえ?

私には『ブラザー』は、兄弟は居ませんが?

父の血縁、私をとても可愛がってくれる”おば姉妹”

1人は結婚して子どもが居ますが全員レディですし、もう1人はパートナーとの間に子どもはおりません。


母方も似た感じです」



「ーーーーーふぅんーーーーそう……です…か」



『じゃやっぱり……あの怖い人と目の前の人間は同一人物なのか』



しかし腑に落ちない。

言っては何だが、人間そこまで激変する物なのだろうか?

 

クリストファーは綺麗な眉をキュッとひそめながら考え込んだ



「あのぅ『ノブシゲ』ってどんな表記文字を、ジャパンの文字で表現するんですか?」


すると、あぁーーーといった感じで視線が動く



「差し支えなければ、是非教えて下さい」


「まぁーーーいいか?

名前の個人情報も開示してしまったし、この程度〜は」



ほんの僅かな迷いを見せた後、引き締まった形の良い唇に、整う白い歯並びを覗かせる口内が優しく動いた。



「『ノブシゲ』の名前は、2つの漢字です

『ノブ』が誠ーーー


真実、誠実さを意味する1文字で。


成り立ちは『横向きの人』と『口に唇に取っ手のついた刃物を突き刺している』


”善く解釈”して、突きつけている様な怖い形の象形文字からです。


つまり、”お前この私に嘘を言ったら解ってるだろうなぁ〜!

グッサリ口の中に今すぐ剣を突き刺すぞっ!”


……という究極の真偽を問いかける形


『二心無い事を誓わせる』そういう意味合いを含んでいます

 

ちょっと怖いし重いですね?」



ノブシゲは自ら説明しながらクスクス悪戯っぽく笑う



「ま、諸説あるのですけれどね。

でーーー残りの『シゲ』は、綺麗な女性の、象形文字の成り立ちの意味から言ってセレブの女性が。

ーーーーまぁ『多分』ですが?


自分が思うに、優雅にお付きの人とヘアセットする様子から来てるんです」


「へーーーー〜〜〜!!どんなどんなですか?」



「えぇ、表記左側のゴチャッとした部分が髪飾りをつけて『髪を結う女性』を指しています。


漢字を紡ぐ時代の”古代人”で、女性が髪飾りをつける程となると、もうこれは族長か豪族の相当な特権階級の妻か娘でしょう。


古代、普通人は狩りや農耕に従事してそれどころじゃない、揺すられて、農地を渡る風に煽られて、綺麗にゆっても直ぐに乱されてしまう。


だから自分は、情景を頭の中に再現してそう思うんですよ?

  

文字の持つ『ストーリー』では、結い上げた美しい繊細な髪

ーーーーその上に更にまた『より糸』のお洒落を行うのです。


今で言う、特別のお気に入りのリボン飾りをサヤサヤ誰かにして貰ってる


頭の後ろなんて自分じゃ見えませんからね?


今、賑やかに美しく着飾ろうとしている


和気藹々する瑞々しい情景、和みと気品ある晴れやかさーーー


なんとも言えない幸福な艶めく爽やかさを、後の”時代”


この文字を使い、春の若木の健やかに茂る生命力に例えました。


つまり『ラック』

運気、運命のアップです。


事実、草木が茂るように大いに豊に栄える事ーーー


『ハンエイ』の言葉の文字にも使用されています


つまり究極の真実、誠と、人生富み栄える様に〜!

ーーーと言う様な〜まぁ。


どこの国でもよくある、平和的意味合いを込めた名前ですね」


「へーーーーーっつ!!」


クリストファーは菫色の瞳をキラキラさせて、思わず聞き入ってしまった



「つまり素敵な詩的で綺麗で、お洒落な雰囲気のネーム

お名前なんですねっ!」



そうウキウキ返すと、フッと嬉しそうにノブシゲは彼に微笑み返した



『ーーーえ?』



その屈託ないーーーーキラッキラの微笑みに、つい思わず胸がギュッとつかえ ドキドキした。



『うわ〜〜〜ーーーーこの人、絶対女性に大人気だろうなぁーーー!』



そんな人に親切に大切にされて、一緒にいられるのはウキウキ楽しいのである。



そしてクリストファーは元々こうした知的好奇心をくすぐるロマンティックな話が大好きであった。



ほんの一時


辛い現実の記憶から解放されたのだ





『でも、この名前


何処かで絶対〜確かに聞いた覚えがあるぞ?


えーーーっと何だったっけーーー?


ーーー何だっけ??』



何かがチクンと引っかかり、心の中で思いだけがグルグル空回り、空転する。


『ノブシゲ

絶対何処かで確実に聞いたことがある!!』


頭の中がモヤモヤで一杯にふくれあがった

 


『ほんといったい 何だったっけーーー?』

 


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