信繁という男 ②
『ノブシゲ』
ーーー案内役男性は、ピシッとアイロンのよく効いた、ここの施設のユニフォームとおぼしき長袖シャツ姿である
惑星地球の 東洋人独特のサラリと癖の無い黒髪
ほんの少し茶系が入っている輝く髪色
キラキラの光り方から言って、人工的に染めてはいないんだろうと思われた。
ウィンストン
ーーー親友とは何処か何かが違うが思わず指で手で触りたくなる美しい髪の青年
『綺麗な髪ーー!』
「王子様、どうかなされましたか?」
「いえーーー何も」
彼の柔らかな声色、痛んだ心がほどけそうな微笑みに 思わず顔が赤らむ
なんというかーーーー
見れば見るほどの誠実そうな美形
気分が落ち着いたクリストファーは、この謎めく長身の男性が、見れば見るほど凄いハンサムな青年で驚いていたのだ。
”雰囲気が既に綺麗”
オマケにどうしてなのか面食らう程、彼は透き通る気品に満ちている。
ニセモノじゃない育ちの良さを感じた。
つまり故郷D-01王宮内でも、これほどのルックスの人員は、限りなく少ないだろうという事。
『どうして自分が ”そう思う”のかな?』
理由が知りたく思いコッソリ観察した
『ふぅん』
嫌みな程長い足、プレスを効かせた清潔な制服ボトムがより一層魅力的に見せている。
確かに身体は見上げる様に大きいのは大きいが、小さなヘッド
〜頭部、整った顔立ちはむしろファニーフェイス。
悪戯盛りの悪ガキ!
まるでそのまんま大きく成長した様な風貌
けれども甘い好感が持てる抜群のルックス。
どこか親しみと共感が持てる幼い顔立ち、そんなイメージ
おまけに、表情豊かに光り輝く目をしており、くるくると感じよく動く黒と茶色がかった瞳。
甘い話しかけやすい雰囲気を醸し出す、柔らかで優しい人なつっこさを感じさせる丸目だ。
肌は適度に浅黒く、すーーーっと長い手足。
思わずその手で守られたくなる大きな掌、ガッチリした指。
嘘みたいに小さな形のよい、左右対称綺麗に整った頭部
『羨ましい!!』
見るからに日々の訓練でよく鍛えられた、引き締まった体幹が嫉妬心を掻き立てる。
王宮ライブラリーのホログラム立体映像で見た事のある、細身で素早く獲物を捕らえ、優美に木に登る金色の美しい豹ソックリだとも思う。
普通のジムなどの、滅茶苦茶な筋トレではこうはいかない。
何故ならば筋肉は重すぎるのだ。
しなやかに雅やかに風の様に、どこまでも大地を駆け抜ける事が出来る柔軟な肉体を彼は維持している。
『これでキャァキャァキャァキャァ目敏い女性に騒がれない方がおかしい!!』
ーーーいいや男性にもかも知れない。
クリストファーはそんなこんなを心の中で呟く。
『そういえばーーー!』
クリストファーは朧気な記憶をたぐり寄せた。
樹海では、見上げるほどだった長身からは信じられない程の静かで滑らかな立ち振るまいだった。
薮深い森の中でも一切の気配がしなかった。
気がついたら、全身ガッシリ拘束されていたのだ!
アレは本当に驚愕、ノブシゲは体重移動の重心のムービングのしかたが一般人とはまるで違う。
ダンサーや武道家なのか?
直感的に最も近いのがそれだと感じた。
チャリッッーーーー
「?」
微かな涼やかな音、チラリ目をやりアッと気がついた。
長袖で隠れているが、左手首に男性としては珍しい宝玉のブレスレットをしている。
『らしくない』
〜というか、どこか不自然な何だか奇妙な取り合わせの気がした。
「これですか?」
視線を感じたのかベッド脇に椅子を寄せて接近し、自ら袖をキュッと10㎝程引き上げる。
ーーーそれが何であるかを、ヒョイと見せる。
「済みません、我が儘を、何度も言ってしまって」
「いえ、構いませんよ?」
ブレスレットには3色
透き通った透明、輝く金、鈍く光りを弾く漆黒
繋がれた3種の珠
先ずは透明な石ーーーー
金色の針に見える筋が入った透き通った石
類型的には先ずは2種類
『あ、これ地球産のルチル水晶!
ということは透明な石は意味を合わせる為に水晶の丸玉だな?』
クリストファーは 尚も自身の記憶の中を探った。
『それからーーー黒い玉は ”オニキス”?
いや違うな、多分この独特の色艶は……!
オニキスーーーは、悪しきものや邪気を払う、守り石。
強固で迷いのない意志、信念の石、オニキス。
えぇ〜〜……ッっと確か……』
ーーー確か……!
『確かーーー伝説の恋と美の美神ヴィーナス
別称 ”女神アフロディーテ”の美しい爪を息子であるキューピッドが悪戯をして
恋の矢じりで、美人ママが眠ってる最中にカットし、仲良しの精霊や女神に自慢して見せびらかしたんだ。
それでキューピットに見せて貰った、余りに艶めく美しさにときめきを覚え感動した運命の女神達が
「ぁあ〜なんて美しいのかしら」
「こんな美しい物は無くさず永遠に残しておきたい」
……見惚れて神の力で、何色もの色味を輝かすお洒落な宝玉に変えたんだっけ?
オニキスは地球ギリシャ語で、爪。
確かそうだった筈だ
今は何でか”ブラック1色のものだけ”を”オニキス”って言うんだけ……ど?
元々は、アゲートっていう物凄く細かい石英の結晶体
粉粉が水に溶けて…その地下水とかが、地下の空洞とか岩石の穴に入り込み途轍もない地圧でギュッと圧縮されて出来た鉱石だ
地球東洋の言葉では瑪瑙
鉱石が出来るこの過程で、時間をかけてゆっくり滲む様にユラユラ固まるからグラディエーションの美しい暖色の虹みたいな縞や、時に中心に ”水入り”なんて物もある。
全部”受け売りだけど”
ーーー堅い縞々鉱物全般を指してるって
色むらの無い物を”カルセドニー”
レッド系顔料の名前でもある”カーネリアン”
後〜ジャスパー
ブラッドストーン……
クリソプレーズ…
ーーーって言うくらい、とにかく種類が豊富。
でもって元々成長過程で石が圧縮して出来てるから、鉱石には目に見えない細やかな穴がある。
それを利用しイオン溶液を染みこませて高温で焼くと、素晴らしい着色が出来るのだ!
何せ石英だから熱にも丈夫だ
綺麗なグリーンとかに染まるんだよね!
行きつけの自然史博物館・館長さんが言ってたぞ?
カルセドニー……
数多産出のギリシャの街の名前〜…カルセドンから名命され、黙示録にもエルサレム城壁土台石一部として登場する。
そうだ、アゲードも言い伝えでは神々の神話の舞台の海洋に浮かぶ島、シチリア島”アカーテ”川のほとりで発見されたからこの名前になったんだ
彼のブレスレットの石は何だろう?
オニキスかな……?
う〜ん違うと思うな
だってだって軽そうだもん
うん、オニキスは重いのだ……!!
だからたった1つ条件に該当する鉱石がある
シンセティック系かは〜流石に僕にはわかんないけれど
多分ーーーこれは…!!
ブラックダイヤモンドだ 絶対!!』
彼は自然史博物館館長に”四方山話のネタ”としてこう教えられていた
「元々、ダイヤモンド自体が古来からパワーと権威の象徴ですが。
いつの頃からかーーー
ブラックダイヤモンドはパワーストーンの中でも最強の石とされたんですよ
潜在能力の強化、未来を切り開く”圧倒的な力が宿る石”だと。
そう正に正しく『パワーストーン』だとね。
本当にそんな強力なエネルギーがあるのかは持ち主の思い次第でしょうがねぇ?
ーーーですが何事も気分からです。
ほら私もこうして〜ね♪
ただ……個性が強すぎて情熱的すぎるとも?
戦闘に向くアグレッシブな男性がつけるといいのでは無いかと思われますよ?」
館長はニッコリ笑い、自身の指に嵌まった太いアームのリングを、つぃっと彼の目の前にさしだして見せてくれ、ハッと思わず息をのむ。
「ウワァ〜凄く……格好いぃーー!」
「えぇそうでしょ?」
館長は満足げに慇懃に、目を興奮でキラキラ輝かす好奇心一杯の、彼「お気に入りの勉強家」である王太子に微笑んだ。
確かに思わずそう呟く程に、そこには説明の、”黒い大きな鈍く光る石”が、リング中央しっとり上品に輝いていたのを思い出す。
信繁のブレスレットには、ポイントに点々と、ざっと直径が水晶の丸玉と同じ位のサイズ。
おそらく推定の、ブラックダイヤモンドとおぼしき宝玉が全部で合計6個、6石使用されていた。
よって相当ーーー高価な品と思われた。
所々キラリと光るのは黒地にそれぞれ、2×3の丸い刻印のせい。
特徴的6つの配列。
輝く金線でうがたれている為である。
水晶も所々配置でカービングが施されている様で、図柄はパッッと見た感じでは
残念ながら、磨りガラスに似ているせいで何も判別できない。
『だけどーーー!!』
ただ2×3の丸配列の図案にはピンッ!と心当たりがあったのだ。
それ等全てが一気に頭の中で組み合わされた結果、ヒュッと喉が鳴り思わず声が出そうになってしまう。
『思い出したっ!!
ここはジャパンーーーー日本だ!!
あぁだから、彼 ノブシゲ なんだ!』
クリストファーには、ノブシゲが どんな『漢字』〜表記文字なのかもハッキリ、クッキリと
ーーーーーーーー全て見当がついた
『多分ーーー 信繁だ!』
もぅ間違いないだろう。
丸い配列、冥土の渡し船の船頭に渡す船賃
硬貨六文銭をかたどった家紋だ
忍者ーーー”くさのもの”、で有名な「真田家」
ネームの、信繁
戦国最強の武将、真田幸村の本名……
真田信繁から命名したに違いないっ!
”幸”は本家、海野及び彼の実家である真田を指す文字だと言われる。
”村”は徳川を祟ると言われる妖刀、”村正”からだ
『絶対そうーーー!!』
自身の密やかなる発見に、思わず手がブルブル震えた。
「ーーーブラックダイヤモンド、あの女性の方の黒い瞳みたいですね」
「〜はーー凄いなあ~、ぱっと見て直ぐに判るあたりサッスガ高貴な王子様!
”ジェット”か?、と言われたことはある」
「ジェットーーー
”ヴィクトリアン・モーニングジュエリー”
……
哀悼の喪服用装飾アクセサリーですか?」
「えぇ、まぁーーー
だから似て異なるものだと言っておきました。
ジェットのーーー
”古代の木の化石”に対して……
コッチは”灰の圧縮の果ての化石”みたいなものですからね。
無色の普通のダイヤモンドが単結晶っていう事に対しこれは”カーボナード”で多結晶、六方八面体です。
産地を言えば、地球アフリカ産、多結晶だから粘り強くて固い、ぶつけたとしても割れにくいそうです。
ーーー……父の話では。
一応ダイヤですから絶縁体、電気を通さず安全ですし、熱伝導に優れていて冷たくなくっていいのですが。
反面ーーー皮脂をとても吸い込みやすいので、輝きを取り戻す為、自分はよく食器洗浄の中性洗剤で洗ってますよ?」
「ーーーすごく綺麗です」
クリストファーは魅入られた様に……ボゥッと感心しながら指で触った。
「この彫刻、カービングの図案はなんですか?」
「朱雀、玄武、青龍、白虎の四神と……麒麟ーーー最強の”守り神”です。
金の模様は家紋ですよ?
残念ながら我が家に本当に伝わる紋ではありませんが?」
「存じています、ぇとこれは…『真田家』ですよね?」
クリストファーは更に答えた
「死地に向かう時のみ使用したと伝説で語り継がれる、真の勇者の証です」
ほおぅ、と言う顔で信繁の眉が上がる。
「王子様、物知りですね…!」
「クリスで構いません。
王宮のライブラリーの書籍、立体映像は見尽くしました。
学校へは余り行けませんでしたので……」
「……」
一瞬の奇妙な間が開き 「”そうでしょう”ね」
信繁は答えると、何処か遠いところに視線を合わせながら微かに声が揺れる。
「では〜クリス様でお呼び致します」
”承認”を、丁寧に復唱、静かに答えた
『??
ーーーどうしたんだろう…この方は?』
どうしたの?
信繁のニュアンスで彼に対しデリケートな感情を伴う事に、我知らずつい踏み込んだ気がした。
しかし自分の秘密
「大きく立ち入ったこと」を言い、あえて様子を聞こうとしたのはやり過ぎた。
けれども先程からの信繁のチョットした作業工程から感じ取り、独特な動物的な勘
ーーー矛盾するが、微かなシンパシーを感じたせいだった
『彼は何かを知っている』と 直感的に思ったのだ。
『……今
彼、心が彷徨っていたみたいだ』
勘の良いクリストファーは思った




