信繁という男 ③
曰く言い難き、不思議な沈黙が降りる。
すると信繁はポケットからゴソゴソーーーーー
薄い立方体の細長い箱を引っ張り出す。
「こちらをどうぞーーー」
丁重にクリストファーの方に差し出すのだ。
『??何だろうーーー??』
差し出すその品が何なのか、全く想像がつかなかった
信繁は謎の品を……彼の目の前のシーツの上にそっと置いた
「ジャパンにいる時、僅かでも〜…無いと目がお辛いでしょう?
用意した品は既に”なくしてる筈”ですし……」
「?」
『あっひょっとしてーーー!』
「ーーーカップを下さい。
後でまたお飲み物はご用意しますから」
「ーーーー」
クリストファーは、差し出され大切そうに置かれた箱を、まるでカップと引き替えのように受け取った。
「デザインが気にいると良いのですが?」
信繁はニコッといきなり人なつっこく笑った
『〜〜〜〜〜うわぁーーー!!』
なんといきなりのキラースマイル!!
『もしも女性が今と同じ微笑みを急にパッと向けられたとしたら。
そんなの心肺停止で救命救急センターに緊急搬送だよっっ』
ーーーなんなんだこの人は!!
だから〜ギャップが激しすぎるっっ
妖気立ち上らす恐ろしい姿
そうかと思うと思わず俯く、邪気の無いキュンキュンする甘い微笑み。
そうかと思うとミステリアスな行動をし、心配させ相対する人物の関心を根こそぎ攫って忘れ難くしてしまうーーーー
そう、究極の人たらし過ぎるのだ。
「どうかされましたか?」
「ーーーいえ何でも!」
素早い行き届いたフォロー
ーーーつい目線を落としユルユル箱の蓋を開けてみると、中にはシャープなデザインのサングラスが1つ納められていた。
「城特製、最先端素材の超強力紫外線カット仕様、だから安心して使って下さい
ーーーデザインは私が勝手に決めましたが。
王子様のお体にピッタリ合うサイズで、99.999%サンブロック効果の見込める長袖シャツは今大急ぎで、アパレル部で仕立てているところです。
ザッと後一時間ぐらいで出来上がります。
ちょっと不自由で済まないのですが?
この部屋で出来るだけゆっくり休まれ、傷つき疲れた体を労わって欲しいと思います。
紫外線の悪影響はありません。
以上、うちのボスからの伝言です」
「ーーーーーー色々とお気遣い済みません」
「いえ、この度はーーー辛く大変でしたね、
大変に立派な家臣団と、誇り高きお妃様でした。
謹んで私からもご冥福をお祈り致します」
「ーーーーーー……」
暫く重い沈黙。
「本当にーー…そうです、全員立派な方達でした
もしも……自分が強くーーー貴方ほどの男だったら、彼等を守れたかも知れません」
「ーーー……」
「僕は卑怯です。
たった1人、この様におめおめ生き残ってしまいました。
情けなく辛いです
男なのに愛する女性を護るどころか、妃……
キャシーに命を救われたんです
ーーーー最低です。
健康で賢い彼女の方が自分なんかよりもずっと…生きるべきだったと。
”生きる価値があった”と。
ーーーそう思っています」
「ーーーーーーーー」
……ポロッと、クリストファーの美しい菫色の瞳から1滴の涙が零れ落ちた
「ーーー……」
信繁は何も言わず、長い腕を伸ばし、彼の銀色の髪をそっと撫でた
「ウウッッッッ!!」
我慢に我慢を重ね…堪えにこらえていた涙がとうとう、哀しみの塊がワッと決壊した。
泣いて泣いてーーーー
ーーーーーー身体を震わせ
体力の続く限り、ただひたすら泣きじゃくった。
ベッドの上掛けに顔を埋め、シーツをぐしゃぐしゃに握りしめ髪を振り乱し、みっともなく、声がかれるほどに泣いた。
「ーーーーー……」
信繁はただーーーーー
そんな彼の頭を大きな手で優しく撫で、一切の何も言わず
無駄口を叩かず
唯ずっと
静かに口を閉じ、荒れるクリストファーの側に寄り添い座っていた。
ただそれが
信繁のそれだけが
彼にとってどれ程の心の支えになったか。
ヒックヒックと嗚咽をしゃくり上げる心が張り裂けそうなクリストファーにとって、何よりもの有り難い優しさ
ーーー恩寵だった。
それから、どれ程時間が過ぎ去ったかーーー?
体感的には全くわからなかった
何しろ、時の流れが曖昧な異常な超常空間〜
奇妙すぎるモヤモヤする奇妙な気持ち
それでも漸く気分が安定したーーー時、クリストファーはグルグル迷った
たった1つだけ、どうしても『聞きたい事』……!
それが「質問として最後」、会話になったとしても信繁に尋ねたい謎ーーーー
非常に個人的な…プライバシーにおける事
そんな超、重大な個人情報に触れる疑問があったのだ
『カンでしか無いけれど ーーーーこの人なら
微妙な僕の気持ちをわかってくれる気がする
ーーーそれに嫌なら、きっとはっきり、彼ならそう言うだろう』
「あのう」
意を決してクリストファーはおそるおそる口を開いた
「何でしょうか?」
「どなたかお身内にいらっしゃるんですか?」
そう 僕ーーーーーみたいな
僕みたいな
厄介で迷惑な自分達の様な……
存在が
「ーーーーーーー」
「ーーー」
暫くお互いに無言だった。
が、最初に沈黙を破ったのは信繁の方で、ニッコリ微笑みこう答えるのだ
「そんなに怯えなくっていいですよ?
取って食ったり……致しませんから」
「〜〜〜〜〜!」
「ホントですよ」
「でもあの森の時、かなりーーー怖かったですよ?」
「それは〜まぁ失礼しました、普段は戦闘中心の防衛職なので悪かったですね」
信繁は大らかにアッハッハとそう言うと、今までとは全くうって変わった、ふざけて砕けた明るい口調に語調を変化させた。
「……ひょっとしてクリス様、今つまんないこと考えてません?
自分の事を例えばーーー
『迷惑な厄介者』だとか……?」
くすくすくすっと、人なつっこそうな茶色の目が面白そうに笑いの中で踊る
それがまたなんとも言えず燦々とキュートな魅力を振りまくのだ。
思わず赤面する明るさ邪気のなさ!!
地球を照らす恒星……太陽の光の様な輝き
『ウワァ〜……ッッッ』
たまんない〜〜!!
目がそらせず思わず見とれてしまった
それ程温かで朗らかで気持ちのよい笑顔ーーー!
「あのなぁ、そんな卑屈になるな。
どんな時も顔を上げて堂々としてればいいんだよ?」
信繁はアッケラカンと強く剽軽な口調で言い切る。
「”綺麗で羨ましい”って言われるが、俺も目がちょっと色素薄いからね?
だから、直射日光は結構苦手、眩しくて堪らない。
よって体質に合う目薬もかかせない。
自分ですらそうだからさ……
眼が薄青系の人達って超大変だなぁ〜って思う訳さ。
そりゃサングラスをいつだってしたがる筈さ!
実は俺の妹もーーー体質がクリス様と殆ど同じタイプだった
アルビニズム……
知ってる人間はどういう意味か、難しい手間のかかる生活状況。
特徴的で目立つ姿形を知ってるんだが、妹はその遺伝子疾患があったんだ」
「……」
「色々の治療法を求めたが、現在の医療では自ずと限界があった。
”どうして彼女だけそうなったのか?” についての理由〜
大人達は様々な特殊な検査をしたが、結局のところ原因は不明だった
当たり前だが、むろん誰のせいでもない。
妹を産んだ母が悪いわけでも、夫である父のせいでも無い。
誰が悪いわけでも、妹がいけないわけでも無い。
『そういう個性ってだけだ』
ーーーシンプルに単純にそう思ったよ
皆同じだったら、ソッチの方がヤバくて、むしろ気持ち悪くないか?
どっち向いても『自分と同じ』だなんてイヤだろ?
ーーーあくまで個人的な感想だが、俺はバラエティ豊かな方が好きだな。
〜上司は俺の『家族の事情』、それを知っていたから、クリス様に俺を差し向けたんだと思う」
『ああやっぱりーーー』
真っ白な天井を見上げた。
「あった」〜というのは……
ご家族から見てーーー
彼女が無事にスクスク健やかに成長し
今では、少しは過ごしやすくなった〜〜
”おとなになって”……
自分で工夫して生き易くなった、肉体的に丈夫に育った……という意味の解釈でこの場合いいのかな?
良かった!
心の中で無邪気に嬉しげに解釈した
信繁はボソッと言った
「妹は兄の目で見ていてーーーも、本当にしんどい生活だった。
個人差もあると思うんだが〜体も弱く熱を出しやすい体質でね?
やっぱどうしても、全身に凄いストレスがかかるんだ、
皮膚全部が純白ーーー
髪も体毛も色素の欠損のせいで全部金色で、まるでおとぎ話のお姫様か、妖精みたいだったよ?
瞳に色素が少しあるだけだったから、もう眩しいなんてどころじゃない!
『妹の場合』では夏場なんか殆ど外に出られなかった。
炎天下の海やプールなんて死にに行くようなもん
どんなに暑くても、紫外線を跳ね返す特殊な長袖を着なければならない
おまけにジャパンは湿気が高いと来てる
兄として忍びなくーーーあまりに気の毒だった
そんで妹は好奇心が強く生来活発な性質だったから
『可哀想だ』ーーーと俺が、つい言った」
信繁は、ちょっと言葉を切る。
「妹はーーーそれはもぅ激怒したよ。
『私は可哀想じゃないわっっ!!』
お兄ちゃんの馬鹿!!ーーーー〜ってね。
小さな身体をブルブル震わせて、凄い勢いで言いかえされた。
で、はっとしたよ?
ああ〜なんて傲慢だったろうってねーー……
全部妹の言うとおりだった。
彼女は精一杯、一生懸命、力の限り生きていたんだ。
な~君だってそう思うだろ?」
『この人が……
どれ程…妹さんに惜しみない愛情を注いでるか!
今の、些細な言葉だけで、僕にはホントよくわかる!』
クリストファーはひっそりそう思った。
クリストファーにはーーーー信繁の妹と同じく偶然に、瞳に少しばかり多く色素がある。
勿論『視力』は弱視でーー良くはーーーーないのだが、しかし、そこまで「欠損」していたらどうなっていたか?
深く考えると体がガタガタと怯えて震えた。
『まー それならそれで、僕には新しい世界があったんだと思うだけだし?』
でもーーー
今までその神様の気紛れのお陰で……!
この世の美しい物を沢山見ることが出来たのだ
『僕を取り囲む世界。
生活が美しく満ち足りている、色彩と輝きの共演だ
これ以上欲張って、あれもこれもと望んだら神様に申し訳ない。
ーーーこれは僕への贈り物なのだ』
無いものをカウントする生き方は性分では無かった
「奇跡だよね?」
ーーー逆に感謝していた
**************
「クリス様はその体質ーーーで。
どうしてDー01から紫外線量の強い地球、それも特に暑苦しい、湿度の多いジャパンに、よりにもよって留学しようと思われたんですか?」
「『シノビ』
ニンジャに興味があったからです」
「ハハハ嘘でしょうそれ」
信繁はクスリと含み笑いをした
「いやーーーー嘘では無いでしょうが、決して本当のことも言ってない
一体
……クリストファー王子様は何を隠してるんですか?
そういう言い方ーーーーで、コドモの頃から大人達がよく俺に接しましたから
俺は経験則で見破れるんです。
ああ今ーーー
”立ち入られたくない部分”
『言いたくない核心』に俺は踏み込んだんだなぁ〜と面倒なので、知ってて知らない演技をしてきましたが、しかし現在は状況が違います。
……俺は貴方に、滅多に外部には話さない重大な個人情報をあえてお伝えしました。
俺を甘く見ないで下さい」
信繁は言葉こそ強いものの、フフンとニヤニヤしながら茶目っ気たっぷりに、茶色がかった目を綻ばせた。
キラキラ光を反射する。
クリストファーは、ふーーーーー思わず溜息をついた
『結構鋭いぞこの人』
「ーーーそうですね、卑怯な言い方で済みませんでした」
クリストファーは信繁に謝罪後、小さな声で信繁に事件経緯を話し始めた
「私には大親友がいます。
それが今回の襲撃のリーダーの男、ウィンストンです」
「え??」
信繁は思わず息をのんだ
「大親友ーーーが。
つまり『襲撃実行犯リーダー』だったって事か?
ウィンストンーーーー
本当に顔見知りのソイツ〜ーーーー
君の命を奪おうとした犯人は大親友君だったのか?
どういう事だ?
見間違いや変装ーーー今時美容整形手術とか当たり前だろ?
大昔とは違うんだ
『フェイク』本当は別人〜なりすまし
ボディダブルじゃないのか??」
「ウィンストンは私の〜元同級生です。
本当にコドモの頃からの幼なじみーーーなんです
癖や声ーーーー仕草
確かにボデイアーマーのバトルスーツで全身武装していましたが、この僕が見間違いするだなんてありえません
彼は現Dー01宰相の子息ーーー嫡男です」
「嘘だろ ホントかよ!
だったら『君の親友君』の父親は
あの〜地球ーーーーー
イヤ銀河連邦でも有名な、超伊達男だろ?
『電脳ジャーナル』芸能グラビアで常連じゃないか!
彼の妻は、銀河連邦ミスインターナショナル元クイーン〜
某惑星国の姫君
でーーー彼自身、現コロニー最大派閥の党首
本人データは確かそうだったろ?」
「はいーーーそうです。
ウィンストンの父親は、その通りーーーです」
「ーーー明るく社交的で清廉潔白、スポーツ万能〜
特に馬術が得意らしいな?
銀河連邦オリンピックのゴールドメダリストだろ?
〜家族を大切にする子煩悩だという有名政治家
〜〜何でそんな極めて恵まれた上流家庭の子息が何とち狂って、将来を約束された嫡子がそんな事をするんだ?」
「ーーーーー」
「まぁーーー過激派の実家が、人もうらやむ高等教育もほどこす余裕があり、極めて財力も恵まれた富貴な家庭という現象は案外ちょくちょくあることだけどーーーな。
あれーーーーちょっとまてよ?
確かデータベースによると、歴代宰相を輩出しているという名門大派閥の政治家んちだろ?
ーーーあの御仁
その”嫡子”が?
まんまそれって『クーデター』じゃないか!!」
うわぁ~と背を反らした信繁は腕組みをし椅子をギシーーーッと鳴らした。
「これは発覚したらスキャンダルどころか、国家転覆のとんでもない動乱になるだろうな〜〜〜」
「そうです。
ただーーー
彼のことだから何かきっと、今回のことは深い訳があると思います」
「どうしてそう思う?
親友のふりして裏切った、ただの恩知らずで馬鹿の人殺しだろ?」
「彼はーーーウィンストンは元々こんな〜〜〜
大勢人を傷つける大それた事をする、悪辣な事をする男ではありません!
僕はウィンストンを信じています!」
「ーーーーー〜〜〜…」
『〜〜そんな事言ったってなぁ……』
信繁は心の中で呟く
信繁は説明を口に出して言わなかったが、実は樹海にて彼に会う直前に、スクランブル発進した制空権保持の空挺部隊と連携を取りながら「城」特殊部隊〜
その中でも際立つ精鋭班班長として、少数凄腕班員を率い出動していた
つまりは撃墜されたーーー!
「宇宙巡洋艦」墜落現場に赴いていたのだった。
信繁は小班の班長であると同時に優秀な回転翼機のパイロットであり、滅多にない、本当に余り無い事だったが、ヘリ操縦者を兼ねている。
それもただの操縦者、一般的なヘリパイ機長では無く、とある特殊航空機機長〜
城で「実験機」と呼ばれている、この世でただ1機しかない特別武装戦闘ヘリ。
光学迷彩搭載機の、主席テストパイロットに選出されているのだ。
当然信繁は今回も「実験機」を駆り、仲間の班員達と共に現場に急行した。
墜落の宇宙巡洋艦・第一発見者は、彼をリーダーと仰ぐ優秀な班員達だった。




