信繁という男 ④
あの時ーーーーー
凄まじい重力と振動がガクガク全身を揺さぶる高速飛行の特殊ヘリ内部で信繁は「2パイロット制」である実験機機長をつとめていた。
「信繁さん!
樹海墜落現場の特定ーーーーー!!
探索結果が出ました!」
目にも止まらぬ高速、集中力マックスで忙しく指先で装置パネルタッチ操作をおこなっていた”班内最年少”、技術専門の優秀な班員である雅が叫んだ
「雅! 〜それで間違いないか?」
「えぇーーー!絶対です!!
さっき巡洋艦から排出された何か、それ多分、脱出カプセル。
それも1人用、だと思いますがっ
アッツ、正体不明の物体〜ーー
こちらも詳細な『落下先』出ましたっ!
城、あっちのメインデータとも、型その他がピタリ符合しますっ!
っ…ええ間違い有りませんっ
こっちも今お伝えしますっ!!」
「じゃぁ直ぐに城主にも知らせろ!
今回……熱に強い強力な黒龍で自ら出撃してる
全身、研究部『不夜城』謹製の最新耐火防炎スーツで固めてる分、”図体が大柄な我々”
ーーーヘリ乗りの俺達より条件的に軽量な彼女の方が、絶対機動力が上回り現場到着が速い。
どっちが現場に速いかーーーー
襲撃者とのデスマッチだ
子龍ーーー済まんっ!!
城主のフォローで今すぐ俺が下に降りる
色々もうギリだろ?
火力の勢いの様子から無理だろうが、万が一にでも生存者が居るかも知れない
すまん、操縦頼むっ!」
「はいよ、りょ〜かい、『機長さん』
でもマジで リベリング降下でいいのか?
あのさーこんな荒れた現場で。
……いつかお前マジで死ぬぞ?」
「あぁーーーでも仕方が無い、それにお前の見立てでも今日じゃ無いんだろ?
だがもぅ選択方法なんか他にないだろ?
今回着陸場所無いからな。
しかし〜びっしりの樹木のせいで、ペラが少しでも引っかかったらこっちも墜落だ。
信用してるが子龍ーーー気をつけろ!!
そんな事になったら〜
”コイツ”を設計した開発リーダー主任の瑠架に、頭っからガツガツ生きたまま喰われるぞ?
滅茶苦茶コイツ、実験機を愛しまくってるからなっっ」
「そりゃそーーーだっ!!」
「敵に降下装置のジェット熱源で、実験機の居場所特定されたら困る。
一番原始的な手法で行く。
もう時間が無い、ホバリング頼むな?!」
「おっしゃー ひっさびさ腕が鳴るぜっ!!
おーーっっ!
お前らこの世で一番イカレタ『班長』のフォロー、よっろしくなーーーっ?」
「まーーかせといて下さいっ 子龍さーーーんっ!」
「死なせやしませんって!」
「バーロー、くそーー、なんちゅークッソ現場だって〜んだよ!
火災で起きる上昇気流がマジキッツいわ〜〜っっ!!」
やってられんとブツブツ言う、機長にチェンジした副操縦士・子龍の、あぶないクレイジーな操縦。
ピタリ降下ギリギリの高度に、巧に正確な低空飛行とホバリングがおこなわれた
「行くぞっ!!」
荒くれる上昇気流の恐るべき温度。
丈の長い耐火コートを装着した信繁以下、降下組は準備を整え身構える
まず最初、先陣は今回も信繁ーーーーー
「…!」
「大丈夫そうだな」
「案外せっかちだよな」
「普通先陣は、コキ使える部下の俺らじゃね?」
「まーあの人以上に『荒れた山岳に詳しい人』いないからなー
シャー無いとは言え〜、っったくいつもの事とはいえ無茶するよなー班長〜!」
「くすっっ♪
だって社長業だった班長のご両親様、地球上全ての高山最高峰制覇のグランドスラム達成〜
アマチュア有名登山家だった方ですもんね!」
「そーそー〜ナスチャ、そのとーり♡」
そんなこんなをワイワイ軽口で言いながらもジッと〜
待機する部下の目に、下界に到着、素早くそつなく、ガスマスクを装着した信繁の黒色グローブが大きく振られるのが見えた。
「出番だ」
「ぅしッッ!」
「ビビって遅れんなよ雅?」
「もぅッッわかってますっ!」
ハンドサインの合図で次々〜
……ザーーーザーーッザーーッと柔軟な黒猫の様に、こうした場合を想定する訓練の順番通り、皆柔らかく無事地上に降下した
ーーーー整う見事な連係プレイ!!
「うわぁぁーーー……」
「あ〜あぁ…」
「ナンジャコリャ〜〜〜〜!」
「これはーー近年一番、〜酷いっすねぇ……っ」
怖いもの知らずの筈の皆、ぎゅーっと思わず顔をしかめた。
つまりそれ程酷かった
現場はこの世の地獄ーーーー!!
ボウボウ激しく燃えさかる炎と、溶け、燃える有害物質の煙が充満した恐ろしい容赦のない惨状が目の前に広がっていた
「どうだ?雅」
「信繁さん……生存者はーーー1人も居ません」
「そうか」
「……残念です」
〜悔しげに悲しげに、ポータブル機器を操作中の雅が呟く。
モニタリングするスキャナー画面には生命反応とおぼしき物は一つも写り込んでい無かった。
その時だったーーーー……
ピーーーーーーーー…… っ
特徴的で聞き覚えのある、ハッキリした笛の音。
その場に居た人員全ての耳に届いた
「!!信繁さん!」
「ーーシッツ」
「ーーー」
少しトーンの異なる異音
ピーーーーーー…
ピーーーーーー・・・・・・・・ーーーー
ピーーーーーーーーーーー……
ピーーーーー…
遠くーーー〜〜風に乗る音
ぐるり呼応するかに微かにあちこち様々な場所から反応があった
「『目標』〜見つかったな」
「最初のは 城主ですね」
「あぁ ”あの人”だ」
チャリッッーーーッ
信繁はサッと首に提げていた頑丈な紐を引っ張りだし、有毒ガスを恐れる事なくグイッとマスクをずらすと吊された銀色ホイッスルを口に咥えた。
ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鋭い音は風に乗りー……
長く強く樹海の澄んだ空気に木霊した
「ぁあーーーどの班も遠いなーーーー」
「ーーーーですね。
ここが1番『近い』らしいです」
「ーーー城主の応援には俺が行く
後の事は頼んだぞ?
誰かーーーはね飛ばされたり、自力脱出の生存者がいるかも知れない
それから言うまでも無いが襲撃者、必ずココ来るからな
子龍に連絡しろ、フォロー頼め。
上から支援して貰え」
「はいっ!!」
信繁は目配せすると、こう言うときの為の班員に指揮権を譲渡、必要以外の重い装備を外した
『落ちないだろうな』
耳の中のコードレス通信機器をキュッと直す
通話は極小の接着タイプのマイクに取り替えた
顎の下にぺたりと貼る
『準備完了ーーー!っと』
信繁は信じられないスピードで薮の中を掻き分け、あるいはくぐり抜け、潜りーー……!
全速力で地を駆ける獣のように獣道を疾走した
ーーーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
信繁は主に父親から、大会社を支える創業家直系の社長であり、また有名アマチュア登山家でもあった彼から”様々な訓練”を叩き込まれていた。
父の友人の有名なベースキャンプに集うクライマー達からは生存の為の変わりやすい高山高所の天候の見切り方……
危険な場所
今年の冬山でのクレパス、雪庇はどうか?
彼等との意見交換に必須・絶対的重要なツール、「語学」
それ以外にも様々にサバイバル術を幼児の頃から直に体験を通して学んでいる
今は彼の立派な「特技の1つ」
ーーー通称”藪漕ぎ”、信繁はこれに卓越した技術を持っている。
深い薮は下手に切り開こうとすると反動でバチッと、刃物でのけた樹木が鞭が如く顔面を襲ってくる。
足下は蔓で絡まり全く見えない中、足裏の感覚のみが頼りな荒行である。
基本後ろ向きに薮を体で押しつぶすように潜り、顔や体を守るものだ。
多くの里の場合は放置され、ビッシリ生えた竹だらけ太い葛だらけでかなりキツイのだが、今回は樹海ゆえそういう事は無く、信繁はポイントを押さえどんどん攻略してゆく
というのも信繁は……
「山屋」の父と一緒にパーティーを組んだベテラン勢レース仲間と共に山間部
ササやら低木やらが生い茂る平衡感覚を狂わせる山脈の道なき道をタイム計測し激走する、そう言う特殊系レースに何度も参加させられて来た
こういったタイプの競技が平地での通常のリレーやマラソンとは内容〜
性質やルールが大きく異なるのが、”傾斜”
岩場の最悪の足場、ガラ場でも余裕で走破する点と、もう1つ。
コース上に生い茂る薮や茨、蔦びっしりの低灌木のあしらいーーー
うわんうわんに生い茂る厄介な竹
全身に纏わり付くリアル「いばら姫」の王子様状態を如何に早く突破し、好タイムで駆け抜けられるか?である。
怯えずーーーー昔話登場の山姥の様に、ばっさばさ……
鉈か斧を片手に薮に突き進む
正に海に似る先の見えない深い薮を「漕ぐ」、猪突猛進そのクソ度胸にかかっていた。
「そこか!」
手首の端末で、走りながら城主の現在地を特定する
「さてーーーっと、やっぱ今回は『斧』だろ?」
信繁はウエストベルトの腰鉈ではなく背中の専用ベルトからスラッと愛用のトマホーク、小型斧を抜く。
とてもこの頑丈な植物の壁を鉈では、重量的にパワーが足りず、薮が深すぎて太刀打ち出来ないと踏んだのだ。
取りあえず”潜る通路”が、一人分出来ればいいのだ
ザンッツ!
最早ーーー手慣れたもの、馴れた手さばき
目の前の茨や蔦でグルグル巻きの、荒廃し荒れた前方を斧でビシバシ切り開く
ガサッツーーー
何度目かのアタック。
何とか漸くうっそうとした空間に光源、日差しが入る
ーーーこうした事、森や林、山に入った手入れで木々の間に光りが入るとどうなるか?
樹木や下草の植物群が貴重な日光を浴びる
結果、植物にとっての生命線である光合成を行い易くなり、単一品種では無く多様性の種がよりよい発育を果たす事が出来るようになる。
自然界として、まんざら悪い事では無い。
信繁は躊躇う事なくどんどん斧で”進路”を確保、目指す方角にグイグイ突き進む
植物で隠れた岩がないか?
浮き石がないか?
ちゃんと足場を気をつける。
蔦で生い茂る薮を抜け、ビシビシ顔や手足を打つ樹木を素早く軽々かいくぐり疾風の如く走り抜ける。
すると案外予想よりもーーー
彼の想像よりもずっと近場、信繁は目的地になんなく息も切らさず到達した。
『まだ襲撃は無いーーーと』
良かったーーーー
その事にまずーーーホゥッと安堵する。
見慣れた上官の、彼と同じ様に体を包み込む装備……
フード付きロングブラックコートの前に、腰が抜けたように座り込む華奢な背格好の、要救助者の人物がいた
「城主!!」
ガサガサする音にパッと……
恐怖を浮かべた表情で振り返った人物を、ひと目見て、信繁は驚愕の余り言葉を失った。
『碧ーーー?』
殆どプラチナブロンドーーーというよりもシルバー〜
銀に近いふんわり美しい長い髪。
真っ白な肌ーーー特徴的な皮膚の色。
濡れたように輝く、透ける菫色の瞳。
それをグルッと縁取る、透き通る銀の羽根のような睫毛
僅かに差し込む樹海の木漏れ日に、あまりに儚く、夢幻の如くキラリと輝いた。
信繁の心に一瞬
ーーーーーたった1人の
自分の命以上に大切「だった」妹の面影がよぎった。
**************
信繁は、モクモクーーー
絶え間ないどす黒い黒煙を上げ、富士の樹海で木々をなぎ倒し無残な残骸をさらして発見された艦を思い出す
乗員乗客、王太子以外全員死亡
王太子妃は行方不明、生存未確認
信繁の心を様々な思いがよぎった
『〜……あの凄惨な惨状を見て、襲撃者がーーーーー
例え自分にとっての掛け替えのない無二の親友だとしても!
俺には、口が裂けてもそうは言えない。
亡くなられた被害者の国籍いかんに関わらず納得できない』
人は変わる
良くも悪くも残念ながら
〜その事をこの王子様はわかっているのかいないのか?
『トコトンお育ちのいい方だーーー……』
口に出さず
……表情にも出さず
信繁は密やかに心の中だけでそう思った。




