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クリストファー ①


ハニーハネムーン滞在目的地に到着寸前の、突然のクリストファー王太子夫妻の身に降りかかった不幸な事故。


若い夫婦を無常に引き裂いた 哀しい永遠の別れ

 

子どもの頃から仲のよい幼なじみであり、銀と紫色の王子様の最愛の后。



甘く幸せな結婚の 幸福の絶頂期。


あと少しで”約束の地”で永遠の愛の記憶、ときめきを、共に熱き胸に刻む筈だったのに。


何光年をも一気にワープ航法で跳んでまでの遠大なる新婚旅行先、遙かなる宇宙空間の旅路の終わり。


惑星地球ーーー龍に似た小国 ジャパンでの悲劇。




隠蔽された暗殺未遂事件から例え遙かな、流石にどれ程 悠久の長い永い年月と時間が経過しても、語り継がれることになろうとは誰も思わなかった。


全惑星・全てのコロニー在住の「女性という女性の涙を絞った」と言わしめる

哀しく甘やかで、哀切な記憶と逸話。



忘れ去られるーーー

いずれ人々の記憶の闇の彼方に消え去るかと思われたのだが、予想外にそういう事はなかった。


イイヤむしろ より一層、様々なメディアで濃厚に沈殿してゆく。


まるでワインのように熟成され悲劇の事故を下敷きにした、甘やかで珠玉の切なき作品が数多く造られ、人々の間に語り継ぐ物語と昇華してゆく。



そして命を賭して王子を救い、しかもジャパン市街地への墜落を避けようと墜落する最後の最後まで気高く奮闘、戦い抜いた勇敢な乗組員達。


残された「事実」


〜切り取られて一部のみ公表となった貴重な艦内監視カメラデータ記録は、さらに新たに人々を泣かせたのだ。


功労に報いるように、後日彼等はコロニー都市D-01での表彰とは別に、銀河連邦からもそれぞれ勲章を授与される事になる。


銀河連邦勲章授与の式典で、受けとる為に列席した残された数多くの遺族の姿。



宇宙巡洋艦艦長の、杖をつく、必死に互いを支え合う年老いた御両親の姿。


未だ見た目がうんと若い、げっそりやつれはてた両親と、傷心の父母を支える学生服着用の兄弟姉妹達。


ーーー或いは未だ新婚の妻。


または見るからに実年齢が若いと思しき配偶者と、抱かれるようやく首が座ったばかりの遺児。


今にもバッタリ倒れそうな母親に付き添い一生懸命気遣う、代わりに名代に立つ凛と健気な少年の健気さよ。


トタトタとおぼつかない足取りの無垢なる幼児とその母親が、名誉の勲章を必死に涙をこらえて受け取るライブ中継は、人々の気持ちを更に掻き乱し嗚咽を誘ったのだ。




「王太子クリストファー」と「キャサリン王太子妃』〜


2人の永遠の愛、深い恋の物語は


そういったヒューマンドラマと共に人々の脳裏深くに刻まれ、美しく切なく伝説化していったのだった。



そしてその頃、とある詩集、去し日の純愛と友情について熱く切なく詠んだ作品が人々の耳目を集め話題を攫った。


詩集は電脳書籍だけでなく紙の版も珍しいことに受注販売、爆発的に売り上げを伸ばすことになる。


この謎めく美しい密やかな恋心と友愛を綴った詩集の評判は口コミで瞬く間に広がった。


特に巨木の、「恐竜の木」と作者が思いを込め、印象的なあだ名をつけて呼ぶ樹木、満開に咲き誇る黄金のミモザの木の下での告白。


ミモザの持つ花言葉は「友情」と「秘めた恋」、そしてーーー「真実の恋」。


花言葉に対しての言及が、作者に知識が全くないらしいからこその推しはかられるひたむきな純愛。


真剣で真面目さゆえに素朴で嘘がなくて、だからこそ懺悔と仲直りの打ち明け話の語らいの場面は切なく尊く神々しく、読者全ての心を激しく打ち抜いた。


「コロニー内で一体どこがその現場なのだろうか?」


当然のように奇跡の樹木を巡るロマンティックな考察合戦が繰り広げられた。


「これがその木では?」と一度でも推察された場所には恋人達が殺到。


互いに思い合うカップルはミモザの木の下で永遠の愛を誓い、胸を熱く掻き立てる事が一大流行となった。


「亡きキャサリン王太子妃殿下に捧ぐ」という一文が、文末最後にあったことから。


作者はかつて彼女が地球への留学を果たす15歳までの学園のご学友、過ぎ去りし日々のきららかな奇跡の青春時代を懐かしみ、友愛と真剣な想い〜片恋を記したものだろうと推察されたのだが。


何故なのか版元より一切の身元は明かされず、またメディアにもミステリアスな大ヒット詩集の作者は登場しなかった。


かわりに、作者からの直接のコメントとして、このようなものが新たに発表される。


宇宙銀河連邦全域で大ヒットをしたこの驚異の書籍の売上金だが〜


「経費人件費、及び税を除く全てを、宇宙巡洋艦事故により亡くなられた遺族救済に当てる」との事である。


この驚愕の発表に、人々は更にまた涙するのだった。






事故の1年後ーーーー


コロニーD-01にて、国王崩御。



「王家に連鎖する悲劇」と銘打って。


電脳ジャーナルを筆頭にする、電脳世界の報道機関は大いなる稼ぎ時とばかりに「国王 追悼特集」記事を大々的に発信した。




惑星デメテル


母なる聖なる惑星で シトシトと冷たく降りしきる涙雨の中



白亜の王家の霊廟内で、父王が納められた マホガニーの(ヒツギ)に花輪を手向け。


静謐にたたずむ、白百合の如くのたおやかで美しきクリストファー王太子殿下の姿。


父をこよなく慕っていたことでも有名だった、ひとり息子の彼が、国を代表、父王に代わり王国を継ぐ者、新国王としての即位が議会で承認された。


コロニー都市群と、愛する国民を支える若き新国王として。


苦難を必死に乗り越えようと、ひたすらに凜と健気に雄々しく堪える姿。


その模様を撮影した葬儀のホログラム立体映像は再び多くの人々の涙を誘った。



「何という おいたわしき事よ」

 

「全くだ」


「しかしーーーこの先 この国は、一体、どうなるんだろうか?」



「彼はまだ20代そこそこだろ?


この難しい時期にーーー国難の難局に。


大国に飲み込まれず自治権と独立を保ち、果たしてあんな若さで国を守り切る舵取りが出来るんだろうか?」


「神にーーー幸運を祈るしかないだろうな」


「もうおしまいだ」


「この国は終わったーーー!」


「彼が悪いんでは無いが、無理なのでは?

だって明らかに荷が重すぎるだろ」


「ぁあ今は余りにも時期が悪い。


おまけに優秀な彼のブレーンになり得た、素晴らしいお妃様も先日亡くなったところだしな」


様々な 密やかな会話も国王崩御と共に更に数を増し膨れあがり増加した。



そしてーーー不幸は尚も彼を手放さなかった。



クリストファー王太子にとって、彼を幼き日から溺愛し全力で愛し、ひたすらに慈しんできた ”故・国王の妻”


たった1つの癒やしであった筈の御母堂ーーー


クリストファー王子の最愛の心優しい母親は、国王崩御後それから1年も経たぬ内に死去。


優しい思いやりのある夫ーーー

愛妻家で有名だった夫の後を、まるで追いかけるかの様に彼女も又体調を崩し、あっけなく この世を去った。




月日は巡りーーーー現在


雪のように冷たく降り積もる 耐えがたい悲しみがクリストファーの知性と容姿に陰影と、深みを与えた。


魅力的な輝く紫色の双眸は、理知の光と、彼が体験から学んだ、付け焼き刃では無いどっしりとした奥深き思慮を感じさせる様になる。

 

少年時代の、確かに美しいには美しいが、何処か浮ついた軽薄だった面影は、すっかりなりを潜めた。


人生最大の苦難を乗り越えた、プラチナブロンドの髪の若く美しく、ハンサムな悲劇の新国王の覚醒



ーーー本当の誕生である。



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