救出作戦 ④
「わかりました」
ウィンストンははっきり答えた。
『この方はもう大丈夫ーーーね』 城主は確信する。
見守っていると、うずくまるウィンストンの身体が次第に半透明になり、立体映像の世界から、すいっと跡形もなく消滅した。
城主は彼の様子を最後まで見届けると、サラリと髪を掻き上げ美しい両目を柔らかく閉じる。
艶めく見事な黒髪を下ろした真紅のドレス姿の彼女の姿が、ウィンストンと同じ様に少しずつ立体映像として溶け去ってゆく。
香しきティーに溶ける細やかな粒子の甘いシュガーのように、サラサラサラサラとーーー
完全にクリスタル内の仮想現実空間より、完全に消失した事が、精密な新型計器にて、開発者である新人大形研究員の目視にて確認。
「成功です!!」
その声で、ピーンと張り詰めていた研究施設内がワッと!!安堵の明るい歓声で大騒ぎとなった。
ピーーーーッ 事実、興奮の勝利の口笛を吹くものすらいた。
ーーーつまりそれ程の
まるで爆発するかのような 凄まじい歓声と驚喜の渦が巻き起こったのだ。
誰も彼も抱き合い、側に居る者とハグし喜び合った。
そんな中
漸く信繁はハーーーーッ……ひとり全身の力を抜いた。
『よかった……』
ーーーったく本気でどうなる事かと思ったぜ……!
本当にこれが信繁の偽らざる気持ちで。
ただ〜あの直前の城主の、自分を見つめる真っ直ぐな瞳
「私は必ず還って来ます」……
澄み切った嘘の無い『自分を信じて欲しい』、固くひたむきに訴えかける瞳。
あんな瞳をされ、澄んだ視線を向けられたら、この先自分は何があっても全力で耐えようと思った。
例えーーーあの悲惨な前回を上回る大事故があろうとも。
彼女を何所までも信じ どんな酷い罰でも再び受けるつもりだった。
『俺はあの人から、絶対に離れられないのだから……』
と、突然、肩をぽんっと叩かれた。
まるで心の隙を見透かしたかの不意打ち、思わずビクーッと肩が撥ねる。
「お〜〜ぃ戻って来ぉ〜〜〜ぃ〜信繁ぇ! アーッハッハハハハハハァ〜」
胸いっぱいの感傷に浸り、ジーーンとしていた信繁は急に現実に連れ戻され、怒りと共にギロっと振り返った目の前には、超ご機嫌な子龍が、信繁班班員全員の先頭に居たのである。
これまたニシャニシャおかしげに満面笑みを浮かべる子龍。
そして雅や、信繁ひきいる頼り甲斐のある班員達全員がズラリ勢ぞろい、彼に向かって明るい楽しい嬉しい笑顔を振りまいていた。
「ぁ〜〜〜〜良かったなぁ〜マジで今回はッッ!」
「でなけりゃまた班長ーーー
所長のこちとらへの信頼にメラメラ嫉妬に狂う、超ダァッセーー変態オッサンにフルボッコでしたもんね〜〜!」
「ホントホント!」
「だよなーーーーっっ!」
「あ〜〜〜良かった良かった」
「ホントですよっっ!信繁さん!!」
目の端がウサギちゃんみたく真っ赤の雅は、可愛い美少女みたいな顔をぷぅぅぅと歪めて、涙目でブンむくれている。
「ヤレヤレだよーーーー
サルベージに向かうと聞いた時は実際どうなるかと、流石に本気で俺も思った」
信繁も漸く肩の力を抜き、普段の人懐っこい笑みを浮かべ心底ホッとした顔で素直な本音を吐いた。
「マァ〜とにかく良かったよ班長、運命の女神様がコッチに微笑んだのさー」
子龍も重い緊張がほぐれきった後のお約束で、ウワ眩しッ!!
〜ダラダラ値千金、派手な極楽鳥みたいな強烈オーラダダ漏れの笑みを浮かべている。
正直色気マックス、別の意味で部屋中の視線を浴びているのだが我関せずだ。
「知ったこっちゃ無いゼっ」
〜いつも通りの豪気な子龍は慣れた感じ、ふ〜〜んとお構いっこなしである。
信繁は『ふぅ』と、自分にもブッスブス突き刺さる傍迷惑な熱い悩ましい熱烈視線の矢に別の意味でヤレヤレと首をすくめる。
『だがまぁーーー今日だけは大目に見るか?』
だらしなく極上の笑みで平和に柔やかに幸せそうにケタケタ笑う、自分の相棒、「よぅ親友!」と堂々人目も憚らず堂々名乗るこの男。
しかし子龍の持つ生来の大らかさ明るさが、いつも信繁の細かく張り詰める余裕の無い心を救ってくれていた。
事実ーーー”今回も”そうだった。
本当に、彼が側にいなければどうなっていたかーーー
「ーーーっ、ありがとな子龍」
「〜〜〜…なんなんだいきなり?!」
信繁のボソッと。
彼以外の誰にも聞こえない小声で囁いた礼に、子龍は「へ?」ッという心の底より驚いた顔をした。
『鳩が豆鉄砲を食ったよう〜とは実際、こういう顔を言うのかもな』
信繁は心の中で呟く。
「なぁ信繁、頼む……もいっかい言ってくれ、それとうんとデカい声で。
ハァ? 不意打ち卑怯だろ?!」
「断る」
信繁からのツーンと、断固としたつれない即答。
子龍はフッとおかしげに目を細め、”そのお返し”とばかりに豪快、にへら〜〜っと大きく華麗に男前に笑う。
誰が見ても本日1番の、奇跡の超弩級素晴らしい笑みに他ならない。
遠くからの「キャ〜〜〜〜〜〜!!」という、複数人女性研究員からのキャァキャァ大絶叫が彼等の元に届いた。
口々に祝いを述べつつ、様々なスタッフに奇跡的作戦成功の感謝やねぎらいの言葉を各各自らかけながらも、明らかに深い心労から来る精神的疲労の色濃い信繁の姿。
それを見てーーー子龍と雅はオロオロ心配しつつ、しかし最悪の状況を脱した現在を密やかに喜び合うのだった。
”もう2度と”ーーー
あんな彼の切なすぎるボロボロの姿は見たくは無かった。
もしも再び同じ事があったら
「その時は」
当然リーダーの信繁には内緒で遠慮せず決着をつけると、二人はあの「秘密の茶会」で固く誓い合っているのだ。
「ウチの班長に手を出したら手段を選ばない徹底抗戦の反撃に出る」事〜
あの日二人で共闘を約束し、密やかに誓い合っていたのだから。
自分達2人が組んだらドントコイ
正直恐い物などなんにも無い。
売られた喧嘩は絶対に買うのだ。
気分は最高
「かかってこいやーーーーッッ!!」である。
雅は、密やかに喜びに沸く人垣の輪を自分ひとり離れる。
研究施設の片隅ーーー
誰にも見られない装置の死角にコッソリ自分だけで行くと、信繁と子龍に見られないように、新たに次々に溢れ出る涙を清潔なハンカチでそっと拭う。
『本当にーーーホントに良かったです。
もうあんな悲しい事や思いは〜〜僕はごめんですからーーーね?』




