救出作戦 ②
その ”後日”ーーー
全ての事が「完了後」ーーーの時、子龍は雅にだけひっそり彼等の溜まり場の1つである談話室内でこんな事を語った。
「これは俺の奢り、お前好きだろ?
ーーーーマァ飲めよ」
子龍は、砂糖増量ミルク多めの使い捨てカップに入った「甘い温かなミルクティー」を、雅の”いつもの席”
年季の入った使いこまれたテーブルに、お気に入りの場所にカタンと置いた。
雅は信繁の影響でこの飲み物が特に気に入っているのだ。
「有難うございます」
頭を下げた雅がさり気なく見ているとーーー
子龍自身は何時もと違い、自分の目の前に通常あまり飲まない、香り高いサッパリした、ダージリンティーのミルク入りを置いたのが見えた。
彼は通常、ドリップコーヒーのキリマンジャロブラックだ。
これで何を話そうとしているのか?
おおよそのテーマが察せられた。
信繁はーーー”ミルクティを特に好む”
「信繁の奴ーーー多分ーーーだがさ?
あれは今は亡き家族達に祈りを捧げていたんだろうなぁ」
「っーーーそれは!!
『命を守って!』〜ってーーーでしょうか?」
「じゃないよ……おそらく。
自罰的な奴の事だ『彼女を自分の元から連れて行かせないでくれ…』
真面目なアイツはきっとーーーそう心の底からな
〜『違い』わかるだろ?」
雅は思わず下を向いた。
子龍が言わんとしたことが、胸の中に突き刺さったからだ。
信繁の家族は全員死亡している。
つまり、死の影が他よりも濃厚に意識に食い込んでいる。
命を守って、だと生きているのが当然の状態を、この先もずっと保つこと。
今は眠っているが、しばらくしたら無事目が覚めるであろう。
子龍の考察は、もっと切実さに溢れる。
「自分が必死に祈り引き留めている場から、死の世界にせめて連れて行かないでくれ」という懇願だ。
「切ないですね。
でもーーー!!
信繁さんはーーーっっっ!」
「それ以上言うな 雅ーーーわかってるだろ?」
「……」
子龍の静かな有無を言わせぬーーー固く強く言い含める言葉に唇を噛んで俯く。
『〜信繁さんはあの人のことを、心より愛してるでしょ?』
結局その言葉は最終的に、雅の口から漏れ出ることは無かった。
「それにーーーー今回の件は」
「なんだ? 聞いてやるから言ってみー?」
「大体元々〜信繁さんが悪いんじゃーーー無いじゃないですか!!
皆 酷すぎます!!」
「ーーー誰も彼もーーーーー
お前みたいに強くて優しいわけじゃ無いんだぜ? 雅。
アイツを必死に糾弾〜リンチにかけ『裁く』行為でーーーー
サンドバッグにする事でーーーー
何とか押しつぶされそうなーーー先の見えない、どうしようも無い不安な気分から各々逃げてんだよ。
〜更に悪い事にだーーー信繁自身も そいつを納得しちまってる」
「!!そんなぁっっーーーーーー!!」
雅は悲鳴を上げた。
子龍は憮然とした顔で凶悪な笑みをニィッと浮かべる。
「っったくーーーーっっ!!
こんな超お人好し、俺は今まで何所にも見た事ね〜わ」
雅は何もかもが、死にそうに悔しくて悔しくて堪らなかった。
わかってて彼を止めず、周囲を諫めない子龍すら、憎くて殺したくなった程だ。
『あんなむしゃくしゃする最悪な気分はもう沢山ですーーー』
そう2度と!
雅が過去の記憶ーーー事故の最悪な顛末に精神をざわめかし、心中で昏く呟いたのとほぼ同時に
施設内は急に慌ただしくなった
貴重な残された時間はーーー残り30分を切っていた
**************
新人研究員指示の元ーーー
急ピッチで次々と、新しい装置と従来機の人工知能設定、ケーブルやチップなどが丸ごと変更、ハード事スッポリ交換作業がされてゆく。
まるで工事現場か魚河岸の市場と大差ない人混みで、足の踏み場も無い大賑わいの状況下になった。
もぅ警護だのなんだの、そんな悠長な通常マニュアルなど言ってはおれず、信繁班の有能な力持ち班員達も、武器等の装備を外し。力仕事にかり出されている。
「私の『移植用データ』は、最近の脳記憶の中でも強烈なものを。
えっとそうねぇーーー
見た者が一瞬で驚きを覚える、強烈な印象を受ける記憶画像を必ず選んで下さい
わかりましたね?
私は内容はどんな物でも構いません、センスはそちらに任せます。
~それからーーーーぁっと、”臨床データ”は、ちゃんと最初の『1件分』として必ず採取しておきなさい。
『五人会議』への研究成果説明の初期データとして有効に活用、当然この先における貴重で重要な添付資料にするからね?」
「了解致しました」
「ではそういう事で宜しく」
城主はいつもの調子で淡々と事務的に素早く指示をした。
「信繁」
城主は設置作業に積極的に参加しつつも、ムッと、未だ怖い怒れる鬼の表情を留めたままの信繁を、目配せーーーー
声がけと共に、アイコンタクトも同時に行い、自分の身体の側に呼ぶ。
こうなってしまった状況に最後まで納得がいかず、けれど班員の指揮をここでも見事に取り仕切り〜
しかも彼自らも私情抜きで作業にキチンと真面目に没頭する姿は、如何にも律儀な性分の彼らしかった。
「ーーーー”私”に何でしょうか?」
一応、呼ばれて返事はする。
だが声が恐いし、声色に完全に棘がある。
しかも奇妙に馬鹿丁寧な物言いの「私」と来たのに城主は苦笑する。
フランクな穏やかな気分の場合、確実に信繁は自分の事を「俺」と明るく名乗るのである。
どうやら事態は相当逼迫し、関係性は悪くなっているようだと流石の強気の城主も悟らざるを得ない。
流石に多少は強引で、チョッピリ悪かったかなーーーと反省してみる。
普段性格が温厚で我慢強い信繁が、作戦の戦闘中以外でこんなに表立って感情をむき出しにして怒り狂うこと自体、ソモソモ珍しいのだ。
城主はヒョイッと首をすくめる。
『彼相当怒ってるわね』
しかもつまりは、所長である自分の事を、常に何だかんだと心から本気で心配して〜〜なのだから。
今回は自分の自我を無茶ぶりで通しすぎ「悪かった」と気が咎めなくもない。
それに確かにーーー彼の言う通り。
前回の事故で、自分は信繁に大いなる迷惑と心労をかけたのを自覚している。
『今回、悪かったかしら??矢っ張り』
もう少し〜
ちょっとちょっとばかり、だから気持ちを足して反省する。
随分、信繁の優しさにあぐらをかき 甘えすぎていたきらいがある。
だからーーー
渋々の様子で呼び寄せられた信繁に対し、チャンと、こう言う事に決めた。
肩書きのある、城の所長〜
”城主”としてでは無く、唯のいち個人として。
付き合いの長い「友人として」
強く真っ直ぐに、下から背の高い彼を見上げ、超不機嫌そうな真剣な顔にこう告げる。
「私は必ず還って来ます」
ただ1言ーーーーそれだけ言い残すと、もう後を全く振り返らず〜
研究員から指示と注意〜
禁忌事項の説明を受けながら、転送移植装置に入る準備に勤しむ。
後は、特殊な、いよいよ全身を覆うウェットスーツ装備への素早い着替えの為、簡易更衣室内に入る。
『信繁ーーー瞬きをせず私を見ていたわ?』
不思議に気まずい気持ちにはならなかった。
いつも真面目な信繁、ずっと私を案じ心配をしている。
『でも私は、今度は失敗したりはしないわ……!』
そうだ絶対に、前みたいにね。
だから貴方もーーーー怖い顔などせず安心して、ねぇ信繁?
装置前にて、すぅーーーっと大きく息を吸う。
「良し!」
気合いを入れてそのまま〜ひたひたと
スーツ着用後、半透明のジェルーーー
ドロドロのゲル状溶液でタップリ満たされた、ウィンストンの入る装置直ぐ隣に設置された樹脂カプセル内に自ら入っていった。




